第35話 人間らしく
「あ……が……キサマ…………やりおった……な……」
そんな声が聞こえてきたのでそちらに目を向けると、ヨロヨロと起き上がるイズナの姿が見えた。どうやら生きていたようだ。頑丈だな、このクズ神様。
「お前が悪いんだろうが。逆にそのくらいで許してやることに感謝するんだな。ここがもし日本だったら、お前は今頃ムショ行きだぞ」
「うぐぐ……ワシは神じゃぞ。このような邪険な扱いをしてタダで済むと思うなよ……」
「はんっ。俺がいないとKPを貯められないから、罰なんて与えられないくせに。しょうもない脅しをする前にそのクソみたいな性格をどうにかしろよ」
「神が人間に尊大な態度を取って何が悪い! こっちこそ、人間風情に食い物を恵んでやったことを感謝してほしいくらいじゃ!」
この体たらくでまだ、自分は神だと宣えるあたりある意味凄い奴だと思う。そのメンタルだけは褒めてやってもいいかもしれない。
もっとも、どれだけメンタルが強かろうと、実際に神らしい敬えるポイントがなければ、それもただの強がりにしか見えないわけだが。
「神だからといって、人間社会で生活する以上は、少し人間らしく振る舞ってくれないと困る」
「ふん。ワシは神じゃ。人間の常識など知らん。てか、キサマも人間じゃないじゃろうが」
「そういう問題じゃねぇ。俺は最低限人間らしく振舞っているけど、お前はそれができてないの!」
「むぅ……。ワシとしては愚かで怠惰な人間らしくしているつもりなんじゃがなぁ……。まあ、キサマがそこまで言うのなら、ちょびっとくらいは紳士的人間に寄せてやろうかのぅ」
その発言自体が尊大な気がしてならないのだが……。
まあ、紳士的になるよう努力するのなら、これ以上何も言うまい。
「さて、じゃあそろそろ行くかのぅ……」
そう言うイズナの脚は動く気配がない。代わりと言うべきかどうか、彼女は何かを求めるような視線をこちらに向けてきている。
「なんだよ」
「なんだよではない。ほれ、早くしろ。背中を出せ」
「は?」
「ワシを背負えと言っておるのじゃ」
ついさっき紳士的になるとか言ってなかったか? 嘘だろ。コイツ、ものの数秒で自分の発言が虚偽であったことを証明しやがったぞ。
「紳士的になるんじゃなかったのか?」
「それとこれとは話が別じゃ。キサマのの攻撃で脚を痛めた。だから、キサマにはワシを背負う責任がある」
本当かどうか非常に疑わしいな。とはいえ、こんなゴミを放置しておくわけにもいかない。
とりあえず、持って帰ってからどう処分するか考えるとしよう。
「はあ……わかったよ。けど、次セクハラしたら、マジで◯すからな?」
「わかっておるわかっておる。ワシもそこまで馬鹿ではないわ」
本当にわかっているんだろうか。不安でしかない……。
そう思いつつ、俺は背中を向けてしゃがみ込んだ。すると、すぐに柔らかい感触が伝わってくる。どうやらまたよじ登ってきたようだ。もう慣れたものである。
「では、次は向こうのギラギラした方向に向かうとしよう。行け! アオイ号!」
「はいはい……」
俺はイズナを背負って、次の目的地へと歩き出した。
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