第33話 ワシの足になるのじゃ(謝罪)

「うむ! まずはこの道をまっすぐ前進じゃ! 行け! アオイ号!」


 そう言って元気よく指をさすイズナ。彼女の指差す方向には、これといって特徴のない普通の街並みが広がっている。

 一体どこを目指しているのやら……。


「おお! 曲がれ曲がれ! 曲がるのじゃー!」


「曲がるってどっちだよ?」


「こっちじゃ!」


 俺の頭を掴んでいたイズナの腕に力がこもる。そして次の瞬間…………グキッという鈍い音とともに俺の視点が左に90度回転した。


「あがっ!?」


 視線が左に向いたことで、自然と足も左を向く。


「よーし。いいぞー。そのまま左折じゃ。ふん!」


 またグキッという音がしたかと思うと今度は視界が右に90度回転する。

 そこには先ほどまで左にあったはずの景色が……。


「お前何してんの!? 死ぬ死ぬ死ぬ!!」


 どうやらイズナは俺の首をハンドル代わりにして、俺の進行方向を操っているようだ。

 目的地がどこでもいいのだが、この操作方法だと目的地に着く前に間違いなく死ぬ。


「キサマがワシの意志を汲み取れないのが悪い」


「普通に言葉で伝えればいいだろ! このままだと俺の首取れちゃうから!?」


「安心しろ。男のかったいっ体とは違って女子おなごの体は柔らかいからのう! そう簡単に首が取れたりはせぬわ!」


「いや、いま現在進行形で女子の首が取れそうなんですけど? 普通に死ぬんですけど?」


「大丈夫! キサマならできる! というかキサマの体を自由にできるのが無性に楽しくてな! いつもはゴミ女に使われてばっかりだったからのう! やはり神たるもの人間を支配せねばなるまいて!」


 コイツ……今すぐにでも投げ飛ばしてやりたい。

 でも、ここは公衆の面前。こんなクソみたいな性格をしているが、イズナの見た目は幼女。もし投げ飛ばしでもしたら本当に通報されてしまうだろう。

 そうなれば異世界ライフどころではない……。ここは耐えるしかなさそうだ……。


「お! アオイ、あっちじゃあっち! あっちに向かえ!」


「だからどっちだよ……言葉で言ってくれないとわかんないんだけど……」


「ああもう! 右じゃ右! さっさと進め!!!」


「痛ぁ!? わかった! わかったから首を曲げるな!」


 イズナの言う通り右に進んでいくと、見えてきたのは一台のキッチンカー。スイーツのようなものを売っているらしく、甘い良い匂いが漂ってくる。

 その見た目は日本のもので形容するならば、クレープのといったところだろうか。薄い生地の上にクリームらしきものとフルーツが盛られている。


「あれが食べたいのか?」


「うむ! そうじゃ! 買ってこい!」


「え、やだ」


「なっ……。キサマ、それでもワシの眷属か! 神の命令を無視するとはどういう了見じゃ!」


「神命だろうとなんだろうと嫌なものは嫌だね」


「ぐぬぬ……。ケチ臭い男じゃのぅ……」


 イズナはブツブツ文句を言いながら、俺の髪を引っ張ったり、頬をつねったりしている。

 俺はそれを甘んじて受け入れつつ、イズナに譲らない姿勢を貫き続けていた。


「ほれほれ〜。早よ買わんか〜」


「いやだ」


「買ってくれたら、ワシがSPを貯めるのを手伝ってやるぞ」


「結構です。自分でどうにかするので」


「むぅ……。頑固者め」


 どうやら不貞腐れてしまったようだ。まるで子供みたいだな……。

 妹やら娘やらを相手するというのはこんな感じなのだろうか? いや、まだ子供の方がマシかもしれない。


 これはあれだ。赤ちゃんだ。それも、我儘なタイプの……。

 イズナが実は神様ではなく、普通の子供でしたって言われても驚かない。というか、むしろそっちの方が納得できる。


「黄色いの……」


「え? なんだって?」


「ワシが黄色いのが載ったやつを買うから、キサマは赤いのが乗ったものを買え……」


「な、なんで……」


「二つとも食べたくなったからじゃ! ええい! つべこべ言わずに買うぞ!」


 もしかして、最初から食べ比べがしたかっただけなのか……? だったら素直にそう言えばいいのに。

 それならまだ可愛げがあるというものだ。


「はぁ、だから何をして欲しいのかはちゃんと口で言えと……」


「いま言っておるではないか!」


「最初からだよ。最初から!」


「……ふん!」


 まあそこまで言うのなら、買ってやらんこともない……か。

 それに俺も異世界のスイーツには興味がある。


「わかったよ。その代わり、ちゃんと俺にも黄色い方を食べさせてくれよな」


「わかっておるわい!」


「あと、できれば俺の背中から降りてくれないか。流石に恥ずかしいぞ」


「断る。キサマは今日一日、ワシの足になるのじゃ」


「……はぁ」


 俺はため息を吐きながら、渋々キッチンカーへと向かうのだった。




〜〜〜〜〜〜〜

(謝罪)


 右腕に致命的ダメージ(誇張)を負って一時的に執筆を中断していました。申し訳ありません。

 皆様も腕は大切にしましょう。

 なお、このメッセージは腕の完治と同時に自動的にに消滅します。

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