第28話

「ルナ……はやい…………」


「ああ、ごめんごめん☆ みんなが雨の中待っていると考えるたら、つい焦ってしまって☆」


「はぁ……はぁ……それにしたって、あんな雑に依頼を終わらせなくても……」


「え〜私にしては丁寧だったと思うけどな。そもそもあれ以上あの場にいたら、あの子が何するかわかったもんじゃないし、ギルドだって到着してたでしょ?」


「ギルドが到着すると何か悪いことでも……」


「うん! めちゃくちゃあるね☆」


 コイツ……。さては普段から証拠品を乱雑に扱った挙句に、現場を荒らしまくってるな……。

 昨日のビルの件も、自分がギルドに会いたくないからあんなに焦ってたんじゃ……。


「まあまあ、私だってもっと調べたいことはあったんだよ? あの写真に写っていた子たちは誰なのかとか、彼女の身元とか」


「そうか……」


「でも、それらがどうでもよくなるくらい、今回は沢山の収穫があったよ☆ 例えば……」


 前を歩いていたルナが急に立ち止まる。


「アオイちゃん……キミたちの正体とかね♪」


 こちらを振り向くルナ。彼女の口元はニヤリと笑っている。


「それは……その…………」


「いや〜驚いたよ☆ まさか、人間と魔物のハイブリッドがいるなんてね! しかも、アオイちゃんたちには人間をそれに変える力があるのだと言うから驚きだ」


「ごめん……言ったら酷い目にあうと思って……」


 俺が謝ると、ルナは優しく微笑んでくれた。


「そんなことしないよ☆ でも、やっぱりそうなんだね……」


「へ?」


「ブラフだよ……。私はまだ確証には至ってなかった。でも、今のキミの言葉で確信に変わった」


「なっ……」


 なんてこった……。まんまと嵌められた……。

 こんなガバガバな隠蔽力で隠し通せると思っていた自分が恥ずかしい。


「うぅ……」


「あはっ♪ 真っ赤なアオイちゃんも可愛いな〜♡」


「か、可愛いとか言うな!」


「それにしても、傷つくなぁ〜。私、ちゃんと自分が探偵だって言ったのに、そんなに洞察力がないと思われていたとは……隠す気があったのなら、せめてもう少し上手くやって欲しいな☆ 素っ裸で頭に変なの生やしながら森の中に隠れてるのなんて、めちゃくちゃ怪しかったよ♪」


 こちらの反応を楽しむように、ルナはクスクスと笑う。

 確かに、ルナの洞察力を舐めていたのは事実だ。

 しかし、まさかこれほどまで早く正体がバレてしまうなんて……帰ったらイズナになんて言えばいいんだ。


「本当にごめんなさい……」


「ううん。謝らなくてもいいんだよ。誰しも秘密はあるものだから。私にだってアオイちゃんに隠してることがいくつもあるよ」


 ルナの秘密……。そういえばあの時、首筋を切られても死ななかった。あれは結局何だったのだろう。異世界だからで済まされるようなものではなかった気がする……。でも、いまそれを訊くのべきではないか。


「けどね。その秘密が私の敵になりうる秘密なら違うんだ……」


 目を細めたルナがこちらをじっと見つめる。昨日の俺なら、『なんか変な目つきしてるな』くらいで流していたかもしれない。けれど、彼女を知ってしまった俺には、それがとても恐ろしいものに思えた。


「あ……いや、俺はエギジストだのなんだのは本当に知らなくて……イズナたちもだ! 俺たちは本当に関係がなくて……」


 思わず後ずさりしてしまう。

 ルナの威圧感に押されてしまったのか、それとも本能的に何かを感じ取ったのか……。

 いずれにせよ、このままではまずい。なんとか誤解を解かないと……。


「ふふっ。そんなに焦らないでよ☆ アオイちゃんが敵でないことくらい知ってるよ。なんて言ったって私は名探偵だもの。さいきょーの洞察力でアオイちゃんの嘘は見抜けちゃうのです!」


「え?」


「エギジストの話をした時、アオイちゃんは間違いなく初耳といった顔をしてた。だから、教団とは関係ないのだろうと思ったよ。間違ってても私の責任だから、アオイちゃんは気にしなくていいよ☆」


「えぇ……」


 それはそれでどうかと思うのだが……。

 でも、信じてくれると言うのならそれでいいか。


「あ、でもイズナちゃんたちはまだ信じてないよ。それはこれから調べることだからから。そのためにも、まずはイズナちゃんたちの下に帰ろう♪」


「あ、ああ……」


 完全に忘れていた。あいつらを放置してたんだった……。まだ生きてるかな……。


 ☆★☆


「あ、あああ、アオイ……き、きき、キサマ……なにを…………してお、おおったんじゃあぁぁ……」


「あ、その……探偵の助手を……」


 帰宅して早々、イズナは顔面蒼白で出迎えてくれた。

 その隣には動かなくなったルーが……。


「ふ、ふふふふざけるなぁぁぁ……わ、ワシらがどれだけ…………待ったと……おもっ……」


 そして崩れ落ちるイズナ。その目は虚ろだ。


「あはっ♪ これはヤバいね☆ どうする? 二人で共通のおっっっもい秘密持っちゃおうか☆」


「だれが持つか!! さっさと家開けろ! ギルド呼ぶぞ!?」


「ちぇー」


 異世界に来てまだ数日。この異世界は俺にかなり厳しそうだ……。

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