第26話 真っ赤っかだ☆

 まだ納得のいかないことも沢山あるが、ここは一旦ルナの言う通りにするしかなさそうだ。


「さてと! 彼女の部屋はどこかな〜。いや〜流石に部屋に証拠を残すほどずさんな犯行ではないかな〜♪」


 鼻歌交じりに歩き出すルナ。彼女は躊躇うことなく、次々と扉を開け放っていく。

 しかし、幾つか開けた後で、ピタリと動きを止めてしまった。


「なるほど、ここが……」


 るんるんとした態度が一変して、神妙な面持ちで部屋の中を覗いている。


「何かあったのか?」


 そんなに真剣な顔をされると、こちらとしても中身が気になる。

 俺はルナの背中から部屋の中を覗き込もうとするが…………


「あぁ!! ダメダメ! アオイちゃんは見ちゃダメ!」


 室内の明かりが目に差し込んだところで、ルナが強引に扉を閉めてしまった。

 どんな怪力だったのだろう……。扉は凄まじい音を立てて歪曲してしまった。

 これではもう開けられなさそうだ……。


「ちょ、なんでだよ! もしかしてそこに死体が……」


「違う違う! ものすごいえっちな部屋だったの! アオイちゃんに見せられないくらい!」


「はぁ? 別にえっちなのくらい気にしないぞ」


「いいや! ぜっっっっったい、絶対! 嫌な気分になるよ! 私は慣れてるから大丈夫だけど!」


 一体どんなえっちな部屋だって言うんだ……。そこまで言われると逆に気になってくるんだが……。

 そもそも、俺は中身男だし。女のルナから見てえっちなものでも、俺からすれば問題のない可能性だってある。


「いいから、大丈夫だから……見せてよ」


「ダメ! 男性同士のやつとか! ヘビに丸呑みなやつとか! ドラゴンとカーのやつとか! とにかく全部えっぐいやつなの! 本当だよ!」


「えっ……」


 俺が想像していたよりも遥かにえげつない内容に、思わず言葉を失ってしまう。

 まさか、この世界にもそういったジャンルがあるとは思わなかったのだ。


 しかし、ルナの必死な態度を見てると嘘には見えない。

 ということは本当にそういう内容のものがこの中にはあるのか……。

 丸呑みなやつはさておき、男の俺でもドラゴンとカーのやつは流石にキツい。


「わ、わかったよ……」


「よろしい☆ あ、でも、今の話で興味持ったりしちゃダメだよ! アオイちゃんには健全に育ってほしいんだ!」


「しねぇーよ! てか、なんで親みたいなこと言ってんだよ!」


「そりゃあ、私の子供のような存在ですし」


「誰が誰の子供だ! 俺はお前みたいな奴を親に持った覚えはない!」


「あはは☆ 冗談だってば〜」


 全く……ふざけた女だ……。

 本当に捜査をする気があるのか?

 いや、もしかしたら本当にやる気がいないのかも……。依頼料だけもらって後は知らないみたいな……。


 でも、それはないか。広場で見たあの表情は真剣そのものだった。

 きっと、俺が思う以上に、今回の事件に本気で取り組んでいるのだろう。


「お! アオイちゃん。こっちこっち☆ それらしき部屋見つけたよ!」


 それにしてもこの性格はどうにかならないのだろうか。

 一緒にいると早死にしそうだ。


「うーん……これといって特に何にも…………あっ」


「どうした? 何かあったか?」


「この服……真っ赤っかだ☆」


「……は?」


 恐る恐るルナの方を見る……。

 すると、彼女の手には血塗れのワンピースが握られていた。


「真っ赤っかだな……。でも、血とは限らないんじゃないか? もしかしたら、ケチャップかも知れないぞ?」


「ケチャップ? うーん、よくわかんないけど、とりあえずこれは血だよ☆ 臭い的に」


「間違いなく?」


「うん。間違いなく☆」


 なんてこった……。少しでも彼女が犯人ではないと期待した自分が馬鹿だった。

 いや、でも、ここまで都合がいいと仕組まれてる可能性が…………ないか……。


「ま、犯人が誰かなんてどうでもいいから、この服はいらないんだけどね☆ ぽーい♪」


「うわぁぁ!? なにしてんのぉ!?」


 ルナは血塗れのワンピースを、乱雑に投げ捨てた。

 いくら、自分には必要ないからって、それ大事な証拠品だよ!? 投げ捨てたらダメだろ!?


「さてと、じゃあ今度こそ教団の情報を見つけ出すぞ〜☆」


「全く……」


「アオイちゃんは心配性だね〜。もっと肩の力抜いていこうよ☆」


「はいはい」


 ………………

 …………

 ……


「何もない……」


 あれからしばらく捜索したが、それらしきものは一つも見つからなかった。

 ルナはといえば、ゾーンに入ったのか、黙々と作業を続けている。


「なぁ、ここには何もないんじゃないか? 今日はもう帰ろうぜ?」


「…………そうだね。教団の情報はなさそうだ……でも、おかげで一つ、面白いことがわかったかも知れない……」


「え?」


「ついてきて。まだ調べたいことがある」

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