第25話 ★名探偵ルナ☆

「さて、着いたよ」


 そう言われて顔を上げると、目の前には『ルーク奴隷商店』の文字があった。

 よりによってここが目的地だったのか……。

 奴隷というワードのせいで、嫌な想像ばかりしてしまう。


 俺みたいな日本人は奴隷と言われると、ラノベ異世界のようなイメージを思い浮かべてしまうのだ。

 人権がないどころではなく、差別され、道具のように扱われたり、性処理のためだけに生かされたりするような奴隷を……。


「ほら、行くよ」


「あ、ああ……」


 意を決して扉を開くと、カランコロンというベルの音が鳴り響く。


「あれ?」


 予想に反して、店内に奴隷らしき影は見当たらない。

 いや、正確には奴隷を入れていたであろう檻のようなものはあるのだが、その全てが開け放たれて中身は空っぽになっていた。


「これは一体……」


 予想外の光景に戸惑っていると、奥から誰かが歩いてくる音が聞こえた。


「おお! やっと来てくれましたか!」


「いやぁすいません☆ 道が混んでたもので、★名探偵ルナ☆ただいま参上いたしました!」


 現れたのは小太りの中年男性だった。ギラギラとした服装からは金持ちの印象を受ける。おそらく、彼が依頼主なのだろう。


「よくぞおいでくださいました! ささっ! どうぞこちらへ…………」


「いえ、結構です。さっさと仕事を終わらせたいんで☆ ここで話を聞かせてください」


「そ、そうですか……では…………」


 ルナの態度に男は少し戸惑いながらも、話を始める。


「ご依頼するときにも話した通り、うちの奴隷たちが何者かによって解き放たれてしまって……」


「ほうほう……。この店では、魔物を奴隷として販売してたんですよね?」


「ええ……そうです……。あ、でも勘違いしないでくださいね。奴隷とは名ばかりで、実際はただの愛玩動物みたいなものですから……! ただの売り文句みたいなものです……!」


 男の話を聞いていると、沸々と怒りが湧いてきた。

 おそらくこれは、俺がもうモンスターに肩入れしている証拠なのだろう。


 それでもやはり、人間の言い分にも頷ける自分もいる。

 これがモンスター娘になった自分の立ち位置というものなのかもしれない。


「はいはい。知ってますよ〜。この店のことはちゃんと調べてますし、魔物をペットにするとかは禁止されていませんしね☆ どうぞ、話を続けてください」


「はい。それでですね、殺されてしまったんですよ。店長が……魔物に……」


「なるほど〜。それは災難でしたね。けれど、そうなってくると事件ではなく、事故の要素が強いのではないでしょうか?」


「いえ! そんな事故だなんて! だって愛玩動物として売っているんですよ? 人を襲うわけないじゃないですか!」


「それもそうですねぇ☆ じゃあ、檻を開けて、魔物たちに店長を殺させた犯人がいるわけだ」


「はい……そうなんです……」


 人間が魔物を解き放って、その魔物が人間を殺した。

 人間と魔物の融和を望んでいた勇者エギジストが聞いたら、嘆き苦しみそうな話だ。


「それで、檻を開けられた可能性があるのは?」


「私と……アイツだけです」


 男が指差したのは、カウンターの奥にポツンと立っていた少女。

 背は低く、頭に大きな帽子を被っている。ずっと何もない地面を見ている姿からは、ルーとは違うドス黒い陰の気配を感じた。


「……濡れている」


「え?」


 ルナのいう通り、少女の髪は水滴が落ちるほどに濡れていた。その濡れ具合は、髪の毛が肌に張り付いていることから見ても明らかだ。

 まず、雨に打たれた可能性を考えたが、服が濡れていないところを見るに、シャワーでも浴びたのだろうか?

 この世界にそう言ったものがあるのかわからないが……。


「ところで、檻の鍵は普段どこに?」


「ああ……ここの向かいのビルに事務所があるんですけど、そこの金庫に保管しています。壊されたり、鍵開けをされた形跡はありませんでした」


「ふむ。なるほど。では調査を始めるので、お二人は外でお待ちください☆」


「は、はい……」


 男と少女が外に出たのを確認すると、ルナは振り返った。


「じゃあ、始めよっか☆」


「始めよっか☆って、何をするんだ?」


「もちろん、エギジスト教団とこの事件の関係性を調べるんだよ」


「事件の真相じゃなく?」


「そんなの、私が調べなくてもギルドが勝手に調べるよ。それに、そんなの現場を見なくても、さっきの話だけで大体わかる」


「えぇ!? うそぉ?」


「ホントだよ。犯人はたぶんあの少女だ。彼女は頭だけが濡れていた。服の方は不自然なほど湿り気がなかった……。おそらく、雨の中、事務所まで鍵を取りに行って、そのあと返り血でも浴びたんだろう。それで慌てて服を着替えた」


「いやいや……それだけで決めつけるのは、いくらなんでも早計すぎるんじゃ……」


「そうだね。でも、ここまで推測すれば、あとは血塗れの服やら、動機さえ掴めればそれで彼女を捕まえることができる」


「…………」


「けど、そんなことをするためにここに来たんじゃない。教団の情報を得るためにここに来たんだ。正直、血塗れの服が証拠隠滅されたところで私にとってはどうでもいいんだ☆ ただ、動機の方を隠されては困る」


 なんて無責任なやつなんだ……。

 しかしまぁ、さっきの男の話が本当なら、確かに少女が犯人である可能性が高いのは事実。

 それなら次は教団との関係性を探るわけだが……


「動機を調べるならここじゃなく、少女の自宅を調べたらいいんじゃないか?」


「普通ならそうなんだけどね。彼女、身元不明らしいんだよ☆ アオイちゃんたちと一緒だね!」


「マジかよ……」


「うん。それでね、彼女はここで働く代わりに、一室を貸してもらっていたみたい。だからそこを調べよう☆」


「なるほど……」


「じゃ、さっき私が話したエギジストの話と関係がありそうなものがあったら報告して☆」


「了解」


〜〜〜〜〜〜

作者の話


 改稿だ! と意気込んだものの、結局文章レベルを上げれるほどの文章力などなく……誤字脱字などの小さい修正だけしました……。

 ストーリーの変更はありません。言語の整合性を取る文を挿入したくらいです。

 思ったよりも、ちゃんと話が進んでいて、文章力も過去の自分の方が高かったです……。

 では、この休みの間に何をしていたかというと……TS短編を書いていました。

スミマセン……。

 ハーピーTSでねっとりドロドロのTS描写が細かい奴です。明日公開するつもりなので、よかったら見てくださいね。

 なお、このメッセージも適当なタイミングで自動的に消滅します。

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