第24話 足元が見えなかった……

「もうだいぶ暗くなってきちゃったね〜☆」


 夜の闇に包まれた街を歩きながら、ルナは呑気に言った。

 ついさっきまで俺たちを照らしてくれていた月の明かりも、今では雨雲に遮られて見る影もなく、周囲は完全な暗闇だ。

 そんな中でも、ルナの笑顔だけははっきりと見えた。


「なあ……さっきの勇者……エクソシストだったかなんだったかの話をもっと詳しく聞かせて欲しいんだけど……」


 俺がそう尋ねると、ルナはキョトンとした顔でこちらを見る。

 そして、「ぷっ」と小さく噴き出した。


「アハハッ!」


「なにがおかしいんだよ!?」


「いや、ごめん……。キミがあまりに真剣な顔で聞いてくるものだから……おかしくって……」


「な、なんだよ……別にいいじゃないか……」


「ふふっ……。そうだよね。気になるのも当然だもん。でも、さっき話したことが全部だよ」


「本当にそれだけなのか? だって、その集団が存在しているのは確かなんだろ? それだったら、もう少し詳しい情報があるんじゃないか……」


「残念だけど、本当にあれだけなの。私にわかることは、彼らが危険な思想を持っているということと、リーダーが女の子であることくらいかな☆」


「はぁ……」


 あまりにも情報が少なすぎる。こんな僅かな情報で、集団の存在を確信してもいいのだろうか?

 そもそも、そんな集団がいたとして、これから向かう仕事とやらに、どんな関係があるっていうんだよ……。


「ついたよ」


 考え事をしているうちに、目的地に到着したらしい。

 そこは、いかにも探偵の仕事がありそうな薄暗い雑居ビルだった。

 看板にはテナントの案内が書いてあるが、その中でも1番目を惹くのが、3階に構えた「ルーク奴隷商店」という文字だ。


「ここは……」


 俺が聞くよりも先に、ルナが階段を上っていく。


「ちょまっ……」


 慌てて後を追おうとするが、2段目に足をかけたところで、盛大にすっ転んだ。


「あぅっ!」


「だ、大丈夫……!?」


 ルナが心配そうに駆け寄ってくる。

 幸いにも怪我はなかったが、女の子の前で無様な姿を晒してしまったことで、俺の心は深い……深い傷を負ってしまった。

 穴があったら入りたいとはこういう時に使う言葉なのだろう。


「うぅ……」


「どうかした? もしかして……仕事に付き合わされるの嫌だった?」


「いや……そうじゃなくて…………」


 俺は自分の胸元で揺れる、巨大な2つの膨らみを見つめながら、ボソリと呟く。


「おっぱいが邪魔で、足元が見えなかった……」


 羞恥心と情けなさが入り混じった複雑な気持ちが俺を襲う。

 しかし、俺の嘆きなど知る由もない彼女は、「そっか……じゃあ、私が手を引いてあげるよ」と言って、俺の手を握った。


 それが余計に惨めで、恥ずかしくて……手を引かれている間、俺はずっと下を向いていた。


「な、なあ、俺が実は男だって言ったら、この手を離すか……?」


「ふふっ。何それ? アオイちゃんはアオイちゃんなんだから、男とか女とか関係ないよ」


「そ、そうか」


「それに、男の子はおっぱいで足元が見えないなんてことは絶対言わないよ思うよ♪」


「全くもってその通りです……」


 我ながら馬鹿な質問をした。緊張や羞恥とはこんなにも人を狂わせるものなのか……。


「さて、着いたよ」

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