第22話 ミーシャが悪い
だがしかし……
「最高じゃないか!!」
俺の心配とは裏腹に、彼女は瞳を輝かせながら叫んだ。
その表情には、微塵も怒りを感じられない。
純度100パーセントの喜びだ。
「お客……様?」
自分でやったことにも拘らず、俺は彼女の予想外の反応に戸惑っていた。
どうしてそこまで喜ぶのかがわからない。
確かに、彼女に喜んでもらおうと思ったのは事実だ。
しかし、それは俺の説明が伴って初めて成立するものであって、いきなりこんなに喜ばれるとは思っていなかった。
「これで…………これで人間の食事が食べられる!」
なるほど。
彼女はなにもフェアチキだけが好きなわけではないらしい。
他の人間の食事も食べたかったのだ。
それがたまたま、俺のモン娘化によって叶えられるようになった。だから彼女はあんなにも喜んでいるのだ。
「あ、あのー……」
「ありがとう! 本当に感謝する! お店のレビューは星5! いや、星6! いやいや、それ以上にしておくから! あと、フォロワーにも拡散しとく! 絶対広めるから!」
「いや、それはちょっと……」
困る。ちょっとというかだいぶ困る。
そんなことをされたら、モン娘の襲来を世に知らしめることになってしまう。
堂々と働いて置いて、今更何をと思われるかもしれないが、これでもモン娘の存在を悟られないよう、細心の注意を払っていたつもりだ。
それなのに、拡散などされてしまったら、俺たちの計画が台無しになってしまうかもしれない!
「感謝の意を込めて、この金の延べ棒をフェアチキの代金として渡しておこう! それじゃあな!」
「あ、ちょまっ……」
たとえ、小さな少女の体になろうとも、その力は健在だったらしく、ドラゴンは一瞬のうちに空へと消えていった。
「イズナ……どうしよう?」
俺はイズナの方を振り向く。
そこには、呑気に耳をパタつかせてあくびをしている彼女がいた。
「まあ、いいんじゃないか。いずれ知られていたことじゃろうし。ワシら自ら布教する手間が省けたと思えば、キサマの選択は間違っていなかったと思うぞ」
「そっか……」
「それに今は……そんなことよりも気にしなくてはならぬことがあると……ワシは思うぞ……」
イズナの視線が俺の背後にある何かに注がれている。
その時初めて、俺は背中に迫る禍々しく、憤怒に満ちた、酷く恐ろしい気配に気がついた。
この店の惨状を見れば、その正体が誰なのかは用意に想像がつく。
恐る恐る振り返ると、そこには鬼の形相をした店長がいた。
「おい……これはどういうことだ!?」
「ひっ……!」
「説明しろ! なぜ店が半壊している!」
「そ、それはですね……」
俺は必死に弁明しようと試みるが、その前にイズナが口を開いた。
「ミーシャが悪い」
「は?」
カウンターの裏でうずくまっていたミーシャが素っ頓狂な声をあげる。
「ソイツが唯一、ホットスナックを用意できるはずなのに、何もしておらんかった。よってソイツが悪い」
「はぁ!?」
ミーシャが再び声を上げる。
確かにその通りといえばその通りではあるが……。
いささかそれは、
もしや……今日あったこと全ての腹いせに、ミーシャに罪をなすりつけるつもりなのか?
「ミーシャ……テメェ……!」
「え!? いや、自分なにも悪くないですよ! ホットスナックがなかったくらいで店が崩壊するわけないじゃないですか!」
「それはそうかも知れねぇ。でもなぁ! お前がサボってたことは間違いねぇ!!」
店長はミーシャの口元についた食べカスを指差すと、大声で叫ぶ。
そのあまりの迫力に気圧され、ミーシャの顔から血の気が引いて行く。
彼女の顔には恐怖と絶望の色が浮かんでいた。
「がうがう!」
「ほら、リーダーもそうだって言ってんじゃねぇか……。お前には少し教育が必要なようだなぁ……」
「はぁ!? 今のがうがうで何がわかるって言うんですか!? 何を根拠にそんな……」
「うるせぇ! 問答無用だ!!」
「ひぃいいいいいい!!」
その後…………
今や跡地となってしまったフェアリーマートでは、夜が明けるまで、悲鳴と怒声が交互に響き続けたという……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます