第19話 なんと言われようとも働かん!

「お前、なかなか筋がいいな。あんなイカれた格好をしてたから、どんなヤバい奴かと思ったが……。なんだ、全然使えるじゃないか」


「あはは……ありがとうございます」


 レジを前に、俺は愛想笑いで応える。

 店長は俺のレジ捌きに、大変ご満悦のようだが、俺からすればできて当然のこととしか思えない。

 学生時代の多くを某コンビニでのバイトに費やしてきたのだ。

 レジ打ちはお手の物である。


「お前もいい感じだぞ。四足歩行のヤツに仕事なんてできるわけないと思っていたが、どうやら俺の偏見だったらしい。俺と同程度、いやそれ以上に素早く正確に仕事をこなせるとは……。大したもんだ」


「がうがう!」


「あとは言葉さえ話せれば文句なしなんだがなぁ……」


「がう!」


 俺と同様にレジ打ちで絶賛されているのは、トウヤだ。

 なぜ、彼女までここにいるのか……。なにをもって、ルナは彼女を派遣しようとも思ったのか……。なんで彼女はあんなにも仕事ができているのか……。謎は尽きない……。


 しかし、そんなことはどうでもいいのだ。あっちの全く使えない奴らよりは、よっぽどマシだから。


「それに比べて……お前らはほんとに使えねぇな!」


「ひ、ひぃ! すみません……。でも、我は手が使えなくて……。足でいいのでしたら、いくらでも働きますが……」


「バカか! お客様に買って頂く商品を足で扱っていいわけないだろうが! お前はもう外で見張りでもしてろ!」


「はい……」


 店長に怒鳴られたルーは、すごすごと店から出て行く。

 可哀想に……。ハーピーになったばかりに、品出しすらさせてもらえないなんて。


 これからも彼女が酷い扱いを受けると考えると、同情を禁じ得ない。

 まあ、彼女をハーピーにした張本人の俺が言えた義理ではないのだが……。


「そして、お前は…………やる気がないって次元の話じゃないぞ! なんだそのふざけた態度は! もっと真剣に取り組め!」


「ワシは至って真面目にやっておるが?」


「どう見てもふざけてるだろ! いいか! 客を神様だと思って接しろ! お客様は神様です! わかったか!」


「はぁ!? 神様はワシじゃ! 間違っても、人間をお客なんて呼ばぬわ!」


「ああん? お前は礼儀ってもんを知らないのか?」


「知らぬ。別にいいじゃろ。そっちの二人が当たりだったんじゃから。あんなゴミ女の派遣サービスにしては、十分すぎるくらいの働きぶりじゃろうが」


「それはお前がサボる理由にはならないだろ!」


 店長は怒り心頭といった様子だ。

 イズナはというと、さっきからずっとこの調子で、まるで反省の色が見えない。


 サボるだけならまだしも、店の商品である雑誌を勝手に読み漁り、挙句の果てには、商品をつまみ食いしたりとやりたい放題。

 もはや完全なるクズだ。

 いくら神様とは言えど、この態度は目に余るものがある。


「うるさいのぉ。ワシがいるから、そっちの二人の眷属がいるのじゃ。よって、そいつらの成果は全部ワシのものじゃ。だから、この商品の分もそいつらの給料から天引きすればいいのじゃ」


 なんというかもう…………ここまでくると清々しい。

 イズナの言葉に店長も呆れ返っている。


「はぁ……。お前は一体何を言っているんだ? お前が働いて、お前の給料から天引きするんだよ!」


「ワシはなんと言われようとも働かん! それにコイツも働いていないではないか」


 そう言ってイズナは、隣のサボり仲間を指差す。


「ミーシャ…………お前も働け!! お前は教えなきゃいけない立場だろうが!」


「いやでーす。新しい人も入ってきたことですし、自分は働かなくてもいいと思いまーす」


「コイツ…………」


 ミーシャの気怠げな答えに、店長は今にも血管が切れそうなほど顔を真っ赤にしている。

 このままだと、殴りかかりそうな勢いだ。

 しかし、俺の心配を他所に、ミーシャがフッと笑った。


「そもそも、この店はそんなに客が来ないじゃないですか。だから、自分が働く必要もないんですよ」


「そうじゃ! そうじゃ!」


「ぐっ……」


 痛いところを突かれたようで、店長は言葉を失う。

 確かに彼女の言う通り、このコンビニは俺とトウヤだけでさばける程度の客入りしかない。そもそも、元は店長とミーシャしかいなかったのだ。

 4人の増員はいささか多すぎと言わざるを得ない。


「わかった……」


「え?」


「だったら俺が客を集めてきてやる! だから、お前ら二人はそれまでちゃんと仕事していろ! もし、捌けてなかったら、お前らの給料は無しだ!」


「は?」


「じゃあ行ってくる! 俺がいない間、リーダーはそこの銀髪だ!」


「がう?」


「しっかりやれよ!」


「ちょ待っ…………」


 ミーシャが反論しようとするも、その言葉を聞く前に、店長は店を飛び出して行ってしまった。

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