異世界に行っても……

第18話 まあいい

「これは…………」


 ルナに連れられてやって来たのは、豆腐のような四角く白い建物。前面は一面ガラス張りになっており、内側の様子がよく見える。

 この形状は親の顔よりも見た。


「……コンビニ?」


「コンビニ? なにそれ? ここはコンビニっていう名前のお店じゃないよ?」


「じゃあ……なんていう店なんだよ?」


「ここは、【フェアリーマート】! この世のあらゆる商品を揃える万能商店だよ!」


「なるほど……」


 ほとんどコンビニじゃねぇか。外見もそうだし、商売の内容も似てるし……、名前も某コンビニにそっくりだし……。

 あえて違うところを挙げるとすれば、あちらと違って、略称がフェアマと言いづらいことくらいか……。


「さあさあ! 入って入って!」


「うおっ!」


 ルナに背中を押されながら店内に入る。

 内装も外観と同じく、どこか見覚えのあるものだった。


「らっしゃいませー」


 店員らしき女性が気怠げに挨拶してくる。


「店長いる?」


「はい。いますよ」


「じゃあ呼んでくれる?」


「わかりました」


「よろしくね〜☆」


 女性はレジの奥に引っ込むと、しばらくして、がたいのいい強面の男性と共に戻ってきた。

 フェアリーマートなんて名前だから、てっきり妖精のような女性が出てくるものと思っていたが、実際に出てきたのはカタギとは思えないゴリゴリの男。

 彼の登場により、ここが普通のコンビニでない可能性が浮上してきた。


「すみません。お待たせしました。ウチの者が何か失礼を?」


 やたらと低姿勢で話しかけてくる男。見た目とのギャップで違和感がすごい。

 見かけによらず、意外と礼儀正しい人なのかもしれない。

 しかし、そう思ったのも束の間。ルナの顔を見た途端、彼は態度を一変させた。


「なんだ……お前かよ」


「おっは〜☆ 約束通り、連れてきたよ! うちの派遣社員のみんなを!」


「は、派遣社員!?」


 なんか、いつの間にか派遣されているんだが? 人権がないにも程があるんじゃないか?


「そうか。そいつらが昨日言ってたヤツらか……。どいつもコイツも使えなそうなヤツばっかりだな。特にそこのちっこいのなんて、まだガキじゃねぇか」


「失礼な! ワシゃ、立派な大人じゃ!」


「……まあいい。安く使えるなら、それで十分だ。だが……」


 男はこちらを改めて見ると、その顔にわずかな困惑の色を見せて、言葉を続けた。


「ガキとか、チビだとか、それ以前に………………コイツらそもそも人間か?」


「うっ…………」


 当然の疑問だ。むしろルナはなぜ、さも当たり前のことのように、俺たちの耳や尻尾を受け入れているのかはなはだ疑問である。

 彼のように、普通の人間であれば、俺らの容姿に疑念を抱くのは至極当然だろう。俺だって、最初にイズナを見た時は驚いたものだ。


「うーん。多分人間でしょ☆ 言葉を喋ってるし!」


「いや、確かに喋ってはいるが…………その角と言い、尻尾といい、どう見ても人間じゃねぇぞ? 動いているところを見ると、作り物ってわけでもないようだし、魔物の変異種とかなんじゃねぇのか?」


「まさか! こんな可愛い子たちが、魔物なワケないじゃん☆ この名探偵である私でも、そんな事例は聞いたことないよ!」


「名探偵はせこい派遣会社の真似事なんてしないと思うんだが……まあいい、とりあえずコイツらを試してみるか……」


 もうほとんど『まあいい』で済ませちゃってるじゃん!? わりとまあ良くないこともあった気がするよ?

 特に探偵が派遣業まがいのことをやってるのは看過できない問題だと思うんですけど!?


「じゃあお前ら、奥に制服があるから、着替えてきてくれ。そんな破廉恥な格好のままだと、ウチが娼館だと勘違いされかねないからな」


「だって! じゃあみんな頑張ってね☆ 私は自分の仕事に戻るから」


「はぁ……………」


 ルナはそう言い残すと、とっとと店の外へ出て行ってしまった。

 もう色々と『まあいい』で片付けられて不安になってくる。

 本当に大丈夫なのか? このまま流されていいのだろうか? 最低賃金貰えるのだろうか? 全てが不安だ……。この世界の最低賃金知らないけど……。

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