第16話 なんのタマゴなんじゃ?
「ん……朝か……」
窓から差し込んだ光で目が覚める。
まだ重たい瞼をゆっくり開けると、目の前には真っ白な世界が広がっていた。
「むにゃ……」
これは……パンツだ…………。イズナの尻だ……。
昨日、イズナの尻尾を枕にしてしまったせいで、このような構図になってしまったのだろう。
それにしても、イズナのパンツとはこんなにも興奮しないものか。鏡で見た自分の姿の方がまだえっちだった気がする。
まあ、いくら俺が童貞とは言えど、ロリなイズナで興奮するほど落ちぶれてはいないということだな。うんうん。よかったよかった。
「ん……んぁ?」
そんなことを考えている内に、イズナが目覚めたようだ。
寝ぼけ眼で俺を見つめると、徐々に顔を赤く染め上げていく。
「な、な、なぁぁぁぁ!? き、キサマ! どこを見ておるのじゃ!?」
「どこって……そりゃあイズナのケツだけど……」
「この変態め! オヌシのような人間がワシの神聖な尻を拝んでいいはずがなかろう! ええい! 離れろ!」
頭の下敷きになっていたイズナの尻尾が消えたかと思えば、俺の顔面目がけて飛んでくる。
「ぶへ!」
枕としてはモフモフだった尻尾も、高速で振り回せば立派な凶器だ。
強烈な一撃を食らった俺は、その勢いのままソファから転げ落ちた。
「いったぁ……なにしやがる!」
「それはこっちのセリフじゃ! 童貞非モテサキュバスだからって、覗きは許さん!」
「誰が童貞非モテサキュバスだよ! 覗きじゃねぇし! ていうか、おまえだって召喚の時に俺の裸をガン見してただろうが!」
「あれは不可抗力じゃ!」
「俺だってそうだわ!」
まったく……なんなんだコイツは……。
確かに凝視したか、していないかで言えば、凝視したが……タダの事故だし、別にエロい目では見てないし……。
「うぅ……ぐす……」
「ま、待て……泣いているのか?」
突然、イズナの目元に涙が浮かぶ。
その時になってようやく、俺は己の愚かさに気付いた。
考えてみれば、神様とは言え彼女も女の子なのだ。
しかも、人間と接した経験なんてほとんどないだろう……。
軽いノリで接してくれていたから、勝手に前世の男友達と同じような感覚でいたが、イズナは神様で、女性なのだ。
「ご、ごめんなさい……」
「ぐす……最初から一言、そう言えばいいんじゃ……。まったく、そんなんだから童貞のまま死ぬんじゃぞ……」
「…………」
返す言葉もない。こういったデリカシーのない行動が、前世を童貞として生きてきた原因だろう。
「見たいのなら、見たいと言えば見せてやるものを……」
「いや……だから別に見たくて見たわけじゃないんだって……。というか見たいって言われても見せちゃダメだろ……」
しかし……コイツに関しては、デリカシーの概念が少し違いそうだ……。
「ふふっ♪ 朝から仲良しだね☆」
声が聞こえたかと思えば、ルナが遠目からこちらを見ていた。
「仲良く見えるなら、その目は節穴だな……」
「ふーん☆ 私の探偵眼は節穴じゃないと思うけどなぁ。まあいいや! それより朝ごはんだよ!」
「わかった。今行くよ」
☆★☆
「おお! なかなか美味そうじゃな!」
食卓にはパンと思われるものと、奇妙な色の目玉焼きが並んでいた。
イズナが目を輝かせながら、それを見ている。
「これは美味そう……なのか?」
「食ってみればわかるじゃろ! いただきます!」
「いただきます……」
この世界に来て初めての食事。
それは空腹でなければ、緊張で食べるのを躊躇ってしまうほどにグロテスクな見た目をしていた。
しかし、食べなければ死んでしまう。覚悟を決めると、俺はおすおずとそれを口に運んだ。
「う、うまい……」
一口食べて驚いた。ニワトリのタマゴで作った目玉焼きよりも、数段美味いのだ。
明らかに毒のような色を放っているが、この世界ではそう珍しいことではないのかもしれない。
気づけば俺は、その目玉焼きをほとんど平らげていた。
「美味いな! なかなかに奇妙な色をしておるが……これはなんのタマゴなんじゃ?」
イズナはどうやらこの味を気に入ったらしい。
先程までの態度とは一変し、満面の笑みを浮かべている。
「ん? ああそれ。それはね…………」
ルナの目線が何故か部屋の隅に向かっていく。
彼女の視線が動くたび、俺は言い知れぬ不安を募らせる。
そして、ルナの視線が隅っこでうずくまるハーピーの少女へと辿り着いた時、嫌な予感は確信へと変わった。
「ルーちゃんが今朝産んでくれた、産みたて卵だよ☆」
「「ブフゥゥゥウゥッ!!」」
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