第15話 野垂れ死ぬだろうね★
「え? 魔法は義務教育で習うものだよね?」
「はぁ!? 習うわけないじゃろ!?」
イズナが信じられないという表情をしているが、俺も全く同意見だ。
あんな危険なものを義務教育で教えているってマジか? そりゃ治安も悪くなるわ……。
「えぇ? でも魔法が使えないと生活に支障が出るし……みんな使えてるよ?」
「な、なに!?」
まあ、義務教育レベルのものを使えないとなると、生活に支障が出るのも頷ける。
イズナが何かをしてくれたのかもわからないが、俺が今、異世界の言語を理解できているからいいものの、もし理解できなければ、服を買うことも、ルナの家にたどり着くことも叶わなかった。
魔法が使えないのも同様のことなのだろう。
「うーん……魔法が使えないとなると働き口が限られてくるなぁ……」
「ちょぉっと待ってぇぇ! 今オヌシ働くって言ったか? 言ったよな?」
「え? うん。それがどうかした? 当たり前だよね?」
「いやでも……ワシは神で……働くのは人間共の仕事で……供物を…………」
自分はあれだけ俺の口を塞ごうとしていたくせに、いざ自分が追い詰められたら、神であることを簡単にゲボッだぞコイツ……。
なんとまあ都合の良い神様だこと……。
「はぁ…………自称魔王の次は自称神様かぁ……」
ルナが大きくため息をつく。
彼女としては、ルーが魔王だということも、イズナが神だということも、全く信じられないらしい。
無理もない。俺だって未だに半信半疑なのだ。こんな神らしさのかけらもないのじゃロリが神だなんて……。
「別に神様を自称するのは勝手だけどさ。働いてよ★」
「ぐぬぬ……」
「働かないんだったら、すぐに出て行って? ウチに無職のゴミクズヒキニートを養う余裕はないから★ でも、魔法も使えないイズナちゃんはすぐに野垂れ死ぬだろうね★」
「え?」
わかりやすく、イズナの顔が不安に染まる。
ルナの言葉が誇張した脅しではないからだ。魔法もないし、俺という眷属も失えば、イズナはただのウザい幼女に過ぎない。
イズナに死なれても困るので、本当に追い出されるとなれば俺もついて行くつもりだが……ここは少しルナに教育して貰うとしよう。
「あぁ、可哀想なイズナちゃん。神を気取ったあまり、すべてを失ってしまうなんて……」
「あ……えと、その……」
「ここを追い出されれば、彼女に残されるのはその体のみ……★ きっと彼女は飢えを凌ぐため、唯一残された己の体を売らざるを得なくなるでしょう……★」
「ハ…………ハタラカセテ……イタダキマス…………」
「よし☆ 最初からそう言えばいいんだよ☆」
チョロいな。
所詮は一人じゃ穴からも抜け出せないクソ雑魚神様か。
けれど、KPが溜まったらまたイキリだすんだろうな。なんかコイツのためにKP溜めるの嫌になってきた……。
「じゃあ、今日は寝よっか☆ 私とトウヤちゃんは上で寝るから、みんなは適当にそこら辺で寝てね☆」
「待て待て! なんでそのイヌコロだけ別なんじゃ!」
「ん? 何か文句あるの? 家主の私に?」
「ア イエ ナンデモナイデス」
「よろしい☆」
今の一瞬のやりとりは、この家の中の序列がはっきりわかった瞬間であった……。
☆★☆
「クソ! KPさえあればあんなゴミ女など、どうとでもできるのに!」
結局、俺らは一階にあったソファの上で眠ることにしたのだが、これが本当に狭い。
「あーはいはい。KPKP。今の調子で行けば10年後くらいには貯まるかもね」
「貯まるかもねじゃない! キサマが頑張って貯めるのじゃ! 大体、キサマが性経験1せっくす未満のクソ童貞だからいけないんじゃろ!
もっと淫乱なサキュバスなら、今頃街中に体液をばら撒いているだろうに……。あーなんでキサマのようなゴミを召喚してしまったのか……」
「俺だっておまえみたいなクズ神様に呼び出されたくなかったわ……。ていうか、さっさと寝ろ。こっちは一晩中森を彷徨って、その上テロにも巻き込まれて……疲れてるんだ……」
俺はイラつきを抑えながらも、ソファに横になる。
枕に丁度良さそうなモフモフな茶色の尻尾が視界に入ったので、それに頭を置いた。
柔らかい……。気持ちいい……。
こんなモフモフふかふかな枕は、地球でもなかなかお目にかかれないな……これは癖になりそうだ。
「な! キサマ、ワシの尻尾を枕にするな! ていうか、寝るな! これから、全人類モン娘化計画についての作戦会議じゃ!」
「うるさい。おやすみ……」
「おい!」
イズナが騒がしくしているものの、睡魔には抗えない。
意識は徐々に遠のいていく…………
たがしかし、眠りに落ちようとしたその時、イズナ以外の黒い気配を感じ、飛び起きる。
「全人類モン娘化計画ってなんですか……。もしかして、我、それに巻き込まれたんですか……」
ルーだ。あまりにも影が薄いから忘れていた……。
「お、オヌシどこから……」
「ずっとそばにいました……」
「そ、そうか……すまん……」
「いえ……それより、早く説明してください……。我も……無関係じゃありませんよね……」
そう言って、ルーは控えめに詰め寄る。イズナは少し考えるような素振りを見せた後、堂々と話し始めた。
「ふふふ……。そうだ。オヌシは、ワシらの計画の被害者! この世界の全人類・全魔物をワシの眷属にする計画のな! フーハッハー!!」
「えぇ……それって悪いことなんじゃ……」
「メチャクチャ悪いことをしていたオヌシに言われたくないわい」
「うぅ……すみません……」
コイツは本当にあの漆黒の魔王なのか? いくら姿を変えられたとはいえ、ここまで性格が変わるものだろうか……。
いやまあ、王って言うくらいだから、男であることにプライドがあったのかもしれないけど……。
「はぁ……なんか辛くなってきました……。もう寝ますね……我は部屋の隅でいいんで……」
「あ、ああ……」
ルーは落ち込むように俯いたまま、部屋の端へと移動し、体を丸める。
俺たちのせいでこうなったのだが、なんだか申し訳ない気分だ。
「なんか、可哀想だな……」
「いや違うぞ……アオイよ……」
「え?」
「アヤツはまだモン娘の素晴らしさに気づいていないのじゃ!」
「はあ?」
モン娘の素晴らしさってなんだよ。少なくとも俺は知らないんだが……。
「よし! 作戦が決まったぞ! まずはモン娘の素晴らしさを広めるところからじゃ! さすれば、皆、自らモン娘になりたがるに違いない!」
「そうか。じゃあ作戦会議は終わりだな。おやすみ」
「うむ! おやすみ。我が眷属よ。せいぜい良い淫夢を見るのじゃぞ」
「いや、見ないから……」
嬉しそうに笑うイズナの顔を見ると、そのまま目を瞑った。
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