第12話 血の契約
黒煙の立ち込める中、二人の男女が対峙していた。
一人は、魔王を名乗り、街の人々を人質に取った男。
そしてもう一人は、淫猥な衣装に身を包み、口元に不気味な笑みを携えている女……。
そう。俺である。
「ふふふ……」
視界に映る魔王の姿は、その名の通り漆黒に包まれていた。
黒のローブに、白髪一つない漆黒の毛髪。
地獄の業火を映し出す双眼までもが、その輝きが飲み込むほどの漆黒に染まっている。
まるで、闇そのものを
「おい……貴様……ここでなにをしている」
「ふふふ……私は淫の魔王……ア=オイ。あなたの手助けに来たのですよ……漆黒の魔王ルシファー様……」
「淫の魔王だと? そんな者がいるとは聞いたことがないが……まぁ勇者から逃げられるならば何でも良い。いかにして我を助けてくれるのだ?」
狙い通り、ルシファーはまんまと食いついてきた。
漆黒の魔王などと名乗っているが、所詮はただの痛いヤツ。
口車に乗せるのは容易い。
だが、油断は禁物だ。相手は一応魔王を名乗っている。何をしてくるかわかったものではない。
ここは慎重に言葉を選んでいく必要がある……。
「そうですね……貴方は勇者から逃げることばかり考えているようですが、ここは一つ、勇者から隠れるというのはいかがでしょう?」
「隠れられるなら、とっくにそうしている。しかし、勇者はありとあらゆる探知魔法を使って、我を探し出す。果ては、犬の如く臭いまで嗅ぎつける始末よ。故に、奴から隠れるなど神でも不可能だろう」
「ふふ……魔王ともあろうお方が随分と弱気なのですね……。たかが勇者に怯えるとは……情けない」
煽るように嘲笑すると、ルシファーはピクリと眉を動かし、怒りを露わにした。
「貴様……そこまで言うからには、何か策があるのだろうな?」
「えぇ……勿論……」
ゴクリッと生唾を飲み込むルシファー。
彼の瞳からは期待の色が伺える。
完全にこちらのペースだ。あと少しで、この場を支配できる。
「体を変えてしまえば良いのです。私の【
「なに……? 体を変えるだと? そんな魔法、存在するなど聞いたことがないぞ?」
「【
「な、なるほどな!
俺が今三秒で考えた
さすがは†漆黒の魔王†ルシファー……。扱いやすくて助かる。
「しかし、我としたことが血の契約のやり方をすっかり忘れてしまっていた。すまぬが、教えてくれないか?」
「ふふふ……いいでしょう……。血の契約の方法は、いたって単純。私の血液をルシファー様の体内に入れるだけです」
「ほう……。それくらいであれば、すぐにできそうだな」
「ええ。では早速始めましょうか……」
「うむ……」
俺の側へ歩み寄るルシファー。
彼はそのまま大きく口を開けると、目の前で膝をついた。
本当に扱いやすい奴だ。自分が魔王でなくなることも、男でなくなることも知らずに、無防備に口を開けて待っている。
その表情はまるで、餌を待つ雛鳥のようだ。
「それでは行きますよ……」
俺はポケットの中からガラスの破片を取り出すと、指先に傷をつけた。
そこから溢れ出る鮮血を、ゆっくりとルシファーの口元に近づけていく。
ピチョン……
指先から漏れた、真っ赤な雫がルシファーの口内へと消えていく……。
節那————眩い閃光が辺り一帯を包んだ。
………………
…………
……
やがて……光が収まると…………俺の頭上には漆黒の羽が舞い散っていた……。
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