第11話 一石二鳥

 なんだアイツ……絶妙にダセェ!

 というか、やっぱこれテロじゃん! この街、危機的状況に陥ってるじゃん!


「あわわわ……ど、どうすんだよこれ……」


「あはは! そんなに焦らなくても大丈夫だよ!」


 慌てる俺とは対照的に、ルナは落ち着き払った様子だ。

 いくら魔法がありふれているとは言えど、この落ち着き様は理解に苦しむ。あのようなテロラストを前にして生存本能が刺激されないなんてことがありうるのだろうか……。


「だ、大丈夫って……なんで?」


「だから言ってるじゃん。このくらいはいつものことだって。だから、私たちもいつも通りにしてればいいんだよ」


「でもあの人、魔王って名乗ってるし……」


「ああ、よくいるんだよね。自分のことを魔王って言い張ってる人。そういうのは若いうちに卒業しとくべきだと思うんだけどね〜」


「そ、そうなの……?」


 確かに、日本にも自称魔眼持ちとか右手が疼いちゃう人とかいたけど……。

 そうか……こっちの世界にもいるのか。そういう人。


 ファンタジー異世界だから、勝手にあれが本物だと思い込んでいた。

 アイツはただの痛いヤツなのか……。


「ふむ。なるほどな。ところでアヤツを退治すると、何か褒美はあったりするのか?」


「え? まあ……ちょっとした褒賞はもらえるんじゃないかな? でも、やめといた方がいいよ。犯人だと勘違いされて、退治されちゃうかもしれないし、よくあることって言っても、近づいたら危ないし……」


「安心せい。荒いことはせん。ただ、奴の逃亡にちょいと協力してやるだけじゃ。なぁ、アオイ?」


「え?」


 同意を求めるような瞳がこちらを見つめてくる。しかし、俺には全くその意図が読めなかった。

 呆けた顔で首を傾げると、イズナは不満げに頬を膨らませる。


「キサマ……もしかして、自分の成すべきことがわかっておらんのか?」


「いや、全然」


「はぁ……キサマは本当にアホじゃのう……。あるじゃろ。キサマには力が! 何者にも負けぬ、最強無敵のスキルが!」


「え? ああ。モンむ…………」


 言いかけたところで、イズナにグイッと肩を引き寄せらる。


「バカモノ! こんな場所でモン娘という言葉を出すでない! もう少し小声で言うのじゃ! ワシらの偉大なる計画がバレてしまうだろ!」


「ごめんごめん。でも、モン娘なんて聞いても、誰も気にしないと思うけど……。ほら」


「もんむ? なんのことだろう……。

もんむあ☆もんむい☆…………」


 ルナの反応を見る限り、意味を理解できてはいなさそうだ。

 それも当然だろう。モンスターを娘にしようなどと考えるのは、日本人くらいだ。たとえ、フルでモンスター娘と聞いても、それがモンスターを女体化することを指すとは思うまい。


「それでもじゃ! これからは気をつけるのじゃぞ!」


「はいはい……。それで? モン娘化がなんだって?」


「まったく……! よいか。キサマの力であの自称魔王をモン娘化するのじゃ! さすれば、活動資金の調達と信徒の獲得を同時に行うことができる。一石二鳥じゃ!」


「なるほど? でも俺、モン娘化の使い方よくわかってないんだよね」


 狼娘の時は、たまたま上手くいったけれど、なぜ使えたのかは未だにわからない。

 記憶が正しければ、涙を舐められた途端に光が溢れて、気がついた時には狼少女になっていたはずだけど……。


「はあぁぁぁぁあぁー……。マジ、つっかえ! キサマはホントダメじゃのぅ……」


「いや、少なくともイズナよりは使えると思うけど……」


「は? 人間のキサマが神であるワシより優れているわけなかろう。その証拠に今からキサマにモン娘化の使い方を教えてやろう」


 それは自分の知識をひけらかすことでマウントを取りたいだけでは? 自分の得意分野でイキることは、優れていることとは関係ない気がするのだが……


「よいか! モン娘化の使い方は至って簡単。体液を分け与える! これだけじゃ!」


「た、体液!?」


「そうじゃ。唾液、血液、尿、もちろん愛液でも、なんでもいい。それを飲ませれば、対象を強制的にモン娘へと変えることができる!」


「なるほど……」


 涙も体液といえば、体液だ。

 あの時のモン娘化は、きっと涙がトリガーだったのだろう。


 しかし、体液全てが有効となれば、戦略も広がる。

 例えば、あの自称魔王とキスをして、無理やり唾液を流し込む……みたいな……


「いやいや……ないない……」


「……? まあ、そういうことじゃ。なんでもいいから、奴に体液を飲ませろ」


「うーん……。そう言われてもなぁ」


「方法なんていくらでもあるじゃろ。奴の中二病を利用したり、逃走の手助けをしてやったりな……」


 不敵な笑みを浮かべるイズナ。その顔にはあるはずのない影がかかって見える……。


「ふむ。ふふっ……なるほどな……。よし。わかったよ」


 俺はイズナの企みを理解すると、自分の顔にも、イズナと同じような影が落ちるのを自覚した。

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