第10話 †漆黒の魔王†
「いった〜……キサマ本気で殴りおって……!」
「自業自得だろ!」
こんなのが神様とか……終わってんな。まぁ、モン娘の神じゃあ、この程度か。
「あはは! 楽しそうだね☆」
「楽しくない!」
「そう? 私には新しい自分を発見して、楽しんでいるように見えるけどな!」
コイツもコイツで人の心が備わっていないのか……
「がう!」
足元で狼娘が何かを主張している。どうやら、彼女も服を買ってもらったらしい。
ふんわりとした空色のワンピースに、フリルのついた可愛らしい白のエプロン。胸元に結ばれた大きなリボンがアクセントになっていて、とてもよく似合っている。
ただ……
「スカートじゃなくて……ショートパンツとかの方が良かったのでは?」
「なんで? 可愛いじゃんスカート!」
「なんでって……四足歩行だと、スカートは危ないでしょ。ほら、生地が擦れたり、パンツが……み、見えたり……」
「あはは! 大丈夫だよ! たぶん!」
なるほど。まったく大丈夫ではなさそうだ。金が稼げるようになったら、ショートパンツに買い替えよう……。
「さて! 服も手に入ったことだし、これからどうするの?」
「え? いや、どうするって聞かれても……うーん……」
ここは異世界。この世界のことを何も知らなければ、当然、どうすればいいのかわからない。
「ここって本当に異世界なのか?」
「え、なに? 異世界?」
「ああ、いや……なんでもない……」
けれど、いま視界に写っているその異世界は、思ったより現代的だ。
それなら、生きていく方法も現代日本と大して変わらないのではないか? そんなことを考えていた時だった……。
耳をつんざくような爆発音が響いたのは……。
「な、なんじゃ!?」
「危ない!」
ガラスの雨が降り注ぐ中、ルナが咄嵯に俺に覆いかぶさる。
「だいじょうぶ!?」
「ごめん……ぼーっとしてた……」
俺はルナの顔を見て、思わず息を呑んだ。
目の前の少女は、ガラスの雨に打たれたのだろう、額から血を流しており、服も所々破れてしまっている。
「……っ!」
「よかった……ケガはなさそうだね」
「ルナ……その傷……」
「平気だよ。ちょっと切っただけだから」
「ご、ごめん……」
「それより、今の音はなんじゃ?」
上を見上げると、向かいのビルから黒煙が上がっていた。
その様子はまるでテロの映像で見た、あのビルの様……。
「事故か?」
「あれは事故なんかじゃないよ? 知らないの?」
「え?」
まるで知っていることが当たり前かのような口ぶりだ。
「この街だとよくあることだよ。どうせ誰かが魔法を使って暴れてるんでしょ?」
「えぇ…………。それ、よくあっていいことじゃなくない?」
「あはは! そうだね! でも、仕方がないよ。魔法を使うなって言っても、みんな使うんだもん」
「そ、そっか……」
ルナの口ぶりから察するに、この世界は魔法がありふれているのだろう……。
確かにそれならば、街中で爆発が起きるのも頷ける。
街が危険に満ちていることは理解した。しかし、ここで一つ新たな疑問が生まれる。
「じゃあなんで、街の人たちは避難しないんだ?」
不思議なことに街の人々は誰一人として動じていない。ここが日本なら、みんな一目散に逃げ出しているはずだ。
例えそうでなくても、スマホで撮影をしたり、野次馬になったりするのが普通だろう。
だが、この世界の人々は事態を気にも留めず、日常を送っているように見える……。
「いや、だってこのくらいで避難していたら、キリがないし」
「キリがない……だと?」
「うん。それに、あの程度の爆発じゃ死なないだろうし」
この世界ではこれがキリなく起こると?
それはもう……完全に世紀末じゃないか……!?
ラノベの異世界でも、もう少し治安は良いぞ……!
「ま、まさか……警察もいない……?」
「けいさつ? なにそれ? ……ああ! もしかして、ギルドのこと?」
「え……ギルド?」
「うん。こういう暴れん坊さんは、ギルドの人が退治してくれるんだよ?」
「ふ、ふーん……」
あんなやばい爆発を起こせる奴を、さらに退治できるほどの力があるというのか……。
「イズナ……」
「なんじゃ?」
「俺……この世界でやっていけそうにないわ……」
「奇遇じゃな。ワシも丁度いま同じことを思っておったところじゃ……」
俺たちは遠い目をしながら、黒煙の上がる方角を眺めていた……。
「あ! 誰か出てきたよ!」
黒煙の中、堂々とした
「ふっはっはっ! 逃げ惑え! 人間ども! 我は漆黒の魔王! ルシファーである!」
男はそう言うと、両手を天に掲げ、再び声高らかに叫んだ……。
「我にこの街を滅ぼすだけの力があるのは貴様らも知っていることであろう! そこでだ! この街を滅ぼされたくなければ、今すぐ勇者から逃亡できる乗り物と、逃走費用を用意しろ! さもなくば、わかるな!」
なんだアイツ…………絶妙にダセェ!
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