第6話 犯罪じゃねえか!

「おお! 見えてきたぞ!」


「街……か?」


 木々の間を抜け、地面に杖を突き、草木を踏み潰して遂に……彼方まで続く草原と蒼空の間にそれを見つけた。


「な…………」


 異世界だと言うのだから、中世ヨーロッパ風の街並みを想像していたのだが、目の前に広がる光景はそんなものとはかけ離れている。


「なんじゃあこりゃあ?」


 規則正しく並ぶガラス張りの巨塔。蜘蛛の巣のように張り巡らされたアスファルトの道。そして、その上を走る鉄の塊。

 住民たちの奏でる喧騒は、遠く離れていても耳に届いてくる。


「なんというか……ものすごく……近代的じゃな……」


「いや……これはもう近未来的と言ってもいいレベルだろ……」


「がう!」


 やばい。予想外すぎる。

 正直、異世界舐めてたわ。まさかこんな世界だとは思わなかった。

 現代知識のある自分は無双できるかも……とか考えていた自分が恥ずかしい。


 知識無双するどころか、この世界の知識がない分、俺の方が圧倒的に不利なんじゃないか……?

 目の前の光景を見ていると、そんな風にさえ思えてきた。


「どうする?」


「いや……行くしかないじゃろ……」


「そっか。いってら」


「は? キサマも来いよ」


「いや、俺はほとんど裸だし……この子も裸だし……」


 ただでさえ布一枚しかなかった俺の衣服は、狼少女の爪によって、今やズタズタ。

 もはや全裸といっても過言ではない。


 隣の彼女も、モン娘化してからずっと裸のままだ。

 それどころか、彼女はここまでずっと四つ足で歩いてきたため、体の汚れもかなり目立つ。

 異世界の常識がどんなものかは知らないが、まず、こんな状態で街中を歩けるはずはない。


「サキュバスなんじゃから、裸くらい平気じゃろう?」


「いや、体がそうであっても、心はサキュバスじゃねぇんだよ! しかも、いくらサキュバスとはいえ、このままだと淫魔じゃなくて露出魔になるだろうが」


「はぁ……意気地のないやつじゃのう……」


「とりあえず、衣服を確保しないと……」


「ふむ……それなら、いい方法があるぞ」


 ニヤリと笑うイズナ。おおよそ、ろくでもない方法なのだろう。


「キサマには【モン娘化】以外にも、いくつかのスキルが備わっている。その一つが【魅了】じゃ」


「魅了? でも、どうやって使うんだ?」


「簡単じゃ。対象の目を見て、なんかこう……フェロモン的なのを放出する感じ」


「全然わからん……」


「しょうがないじゃろ。ワシ、サキュバスじゃないし。詳しい使い方など知らん! ……じゃがまあ、SPがあれば発動するじゃろ」


「ふーん。まあ、そこまではわかった。でも、それでどうするの?」


「もちろん。ソイツの衣服を奪う!」


「犯罪じゃねえか!」


 飛んだクズ神様だ。いや、クズなのは知っていたけれど、まさか犯罪にまで手を出すとは……。


「うるさい! じゃったらキサマが裸で街を歩くか!? それはそれで別の罪に問われるぞ!?」


「ぐぬぬ……」


 どうにか衣服を手に入れられないだろうか……。犯罪を犯さずに合法的な手段で……。


「うーむ……」


「がぅ……」


 ダメだ。どんな方法であっても、まず街に入れないと話にならない。

 けれど、俺たちは裸で街には入れない……。


 ここはイズナの言う通り、乱暴な手段で衣服を強奪するしかないのか……。

 考え込む俺たち三人。しかし、そこで思わぬところから救いの手が差し伸べられた。


「キミたち、何してるの?」


 それはまさしく、天使というべき甘く柔らかな声音。


「え……?」


 振り向くと、そこには本当に天使のような美少女が…………


「えぇ…………」


 ゴミ箱を頭から被っていた……。

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