第4話 モン娘化!

 太陽の光が……眩しい……。

 人間時代には感じることのできなかった、新しい感覚の朝だ。


「く、クソ! どこもかしこも木ばっかりではないか! いつになったら街につくのじゃ!」


「もうだめだぁ……こんなバカ神様に召喚されたばかりに……俺は異世界の森の中で一生を終えるんだぁ……」


「う、うるさい! まだ終わっておらぬ! 諦めるのは早いぞ!」


「うぅ……」


 こんな神様に少しでも安心感を覚えた自分を殴りたい。


「なあ……イズナ」


「なんじゃ?」


「俺達、今どこにいるの?」


「わからん」


「マジで勘弁してくれ……」


「仕方なかろう。ワシだってここがどこなのか知りたいのじゃ」


 神様ってもっと賢いものだと思ってた。もし地球に帰れることがあったのなら、この事実を伝えて、世界中の宗教をダメにしてやりたい……。


「そ、そんなに落ち込むな。街に着いたら、チートスキルと神様パワーで好き放題できるのじゃぞ?」


「そんなこと言われても……その前に死ぬ……」


「ぐぬぬ……」


 この状況にイズナも困っている様子。しかし、そんな時だった。

 ガサガサ……という音が背後で聞こえてきた。


「ん?」


 振り返ると、そこには二足歩行の巨大なオオカミ……。


「グルルル……」


「ひぇ……」


「おお! 第一モンスター発見じゃ!」


 そんな呑気なことを言っている場合か!

 そんなツッコミも、モンスターを前にしては恐怖で声にならない。


 異常なまでに鋭い牙、爛々らんらんと輝く青い瞳、そして、血に濡れて赤く染まった爪。

 まさにそれは、人を喰らう獣の姿だった。


「ガルル……」


 モンスターはこちらの様子を伺いながら、ゆっくりと近づいてくる。


「あ、あわわ……」


「それにしても、犬が二足歩行とは……」


「ウゥ……」


「こりゃ! まるで! ちんち…………」


「ガルァア!!」


 下品な言葉は風切り音によって遮られた。

 見れば、隣にあったはずのイズナの姿が消えている。


「あれ? イズナ?」


「あ……が……」


 声がした方を見ると、そこには木にめり込んだイズナの姿があった。


「ひえ……思ったよりパワー系……」


「グルルー……」


 ま、まずい。このままでは……殺される……。


「あ、あのー……お、落ち着いて話し合いませんか?」


「グルルァ!」


「ひー!」


 聞く耳持たずといった感じで、オオカミは飛びかかってきた。

 間一髪のところで身をかわす。しかし、羽織っていた布には大きな亀裂が……。こんなのくらったらひとたまりもない。


「そ、そうだ! 《モン娘化》のスキル! でも……どうやって使うんだ!?」


「あ……う……」


 イズナには聞けそうもない。自分でなんとかするしかなさそうだ……。


「と、とりあえず……ハッ!」


 手を突き出すが、特に何も起こらない。


「ならば……フンッ!」


 続いて、強く念じてみる。しかし、やはり何も起きない。


「ク……クソォ……じゃあ……!」


 拳を強く握りしめ、全身全霊の力を込めて叫んだ。


「モン娘になれぇええ!!!」


 ……しかし、何の反応もない。


「グア?」


 モンスターも俺の行動が理解できないのか、首を傾げて見ている。

 俺はなにをしているんだ……。モンスターにまでこんな目で見られて……


「もういっそ、殺してくれぇ……」


「グ、グルル……」


 情けない声で懇願すると、相手にもそれが伝わったのか、少し戸惑った様子を見せた。

 そして、俺の目頭に溜まった涙を見ると、舌で優しく舐めとってくれる……。


「ペロッ……」


「う……ありが……」


 刹那————周囲が強い光に包まれた。

 あまりのまぶしさに反射的に目を閉じる。


「う! な、なにが……」


 しばらくすると光は収まり、俺はゆっくりと目を開けた。


「え……」


 おかしなことに、目の前にいたはずのオオカミがいない。代わりにいたのは……一人の少女。彼女は舌を突き出したまま固まっている。


「おんな……のこ?」


「がう?」


 目の前にいるのは確かに女の子だ。

 銀色の髪を腰まで伸ばし、頭から狼の耳を生やしている。お尻から生える尻尾は先っぽにかけて白く、毛並みは綺麗で艶がある。

 蒼い円らな瞳は真っ直ぐにこちらを見つめていて、口から覗く鋭い八重歯は今では可愛らしく見えた。


「がう!?」


 彼女もようやく自分の異変に気付いたようで、慌てて体を触り始める。


「成功したのか? モン娘化が……」

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