第5話 『変身』スキル:偶然にして必然?

 『変身』スキルでE級ボブに変装している俺は、ギルド内を徘徊していた。


 ギルド内は戦闘スキル持ちのむさ苦しい男たちで溢れかえっている。


 新宿ダンジョンは、初心者〜中級者の主なターゲットとなっており、言わば、上級者に向けての登竜門とされている。


 そんなギルド内を非戦闘スキル持ちがいないか、チェックしていると後ろから声をかけられた。


 「あの〜ボブさんですよね?」


 「は、はいっす」


 後を振り向くと肩まで伸ばした黒髪にぽわぽわした雰囲気の持つ少女が立っていた。


 すると、腕を掴まれ突然走り出した。


 「こっちにきてください〜」


 「は、はいっす」


 腕を引っ張られながら、ギルド内の会議室に連れ込まれた。


 会議室で見つめ合う2人。意を決したのか少女が口を開いた。


 「あの〜ボブさん。変身スキルつかっていますよね?」


 「は、はいっす」


 いつもの癖で即答してしまった。


 しかし、なぜ気づいたのだろうか。怪しむよりも先に好奇心に駆られた。


 「実はボブさんが前から気になっていたので、こっそり見させてもらってたんです〜」


 そう語る少女は悪びれる様子もなく淡々と説明しだした。


 彼女の話を要約すると、万年E級ながらダンジョンに潜っているのはおかしいと感じ、こっそり追跡。


 ある日、ギルドに帰ってこの会議室に入るボブを見たが出てきたのは別の男だった。


 その男が出ていった後、会議室を覗くと誰もいなかったことからボブは変身スキルを使ったと思い声をかけたそうだ。


 しかし疑問は残る。


 『変身』スキルは俺がこっそり鑑定するために別人になるために創造したスキルのはずだ。


 「私〜変身スキル持ちなんです〜」


 そう彼女に言われて、素で驚いた。


 ダンジョンに入れるようになって5年。いろんなダンジョン、いろんな冒険者本部・支部へ行っていろんな冒険者をみてきたが1人もいなかったからだ。


 彼女の素性も目的もわかったことで俺は変身スキルを解き、元の姿に戻る。


 すると彼女も姿を変えた。


 どうやら彼女の名前は斉藤さいとう 穂乃果ほのかと言い、俺と同い年の23歳であることが判明した。


 普段は高校生の時の姿に変身しているそうで、よくわからない。


 「それで、クランに興味を持ったってことでいいのかな?」


 「そうです〜。両親に定職に就けって言われてうるさいので〜」


 『変身』スキルも、強化すれば化けるスキルだ。


 スキルレベルが低いと自分の過去の姿にのみしか変身できないスキルだが、レベルを上げると俺みたいに自分の思うがままの姿に変身することができる。


 「今1人、『付与』スキル持ちの子が入ってくれてその子の友達も誘ってくれているのが現状だ」


 「なるほど〜。面白そうですね〜。私も入っても良いですか〜?」


 もちろん変身スキル持ちはほしいが、定職の為に入られても困る。


 俺は、なぜクラン『影に潜む者』を設立したか、その目標もしっかりと説明した。


 「な、なるほどです〜。私も頑張ります〜」


 なぜか、彼女も若干引いているが気にせず、今は加入してくれたことを喜ぼう。


 「ありがとう。これからの予定を話しておくよ」


 俺は、この前奏と決めた今後の予定を穂乃果に伝え、今日はとりあえず解散となった。


 「それではこれからよろしくお願いします〜」


 「おう。こちらこそ」


 穂乃果は手を振って帰って行った。


 「ふぅ。まさかの収穫だったぞ」


 変身スキルは、スキルレベルは上げにくいが、上がったら即戦力となる。


 しかし、その数はごく稀なんだとか。


 穂乃果が育って有名になった後に、変身スキル持ちが無理やりダンジョンに潜らされなければ良いが……。


 先の不安より現実を見ることが大切だ。


 メンバーも2人は確定。美咲の友人の人数次第では正式にクランの活動を開始することができる。


 初期メンバーをいきなり多く集めても管理が大変になることはわかっていることだ。


 いずれ成長した初期メンバーが後輩の育成のために指導する立場になってくれれば……。


 現実を見るべきと言いながら先を見ている俺がいかに浮かれているか。自分でも気づいていない。


 「まあ、当分は美咲待ちだな」


 そう呟き、俺も家に帰るのだった。

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