第5話
彩華の言葉に嘘はないようだ。彼女はしっかりと相手の目を見て真剣に語りかけている。それに気づいたのか藤宮くんもその要望に応えるかのようにしっかりと受け止めてから口を開く。
「それなら良かったです!ここから近いので案内したいと思っています。皆さん一緒に来てもらってもいいですか?」
そして藤宮と数人が立ち上がる。そしてそのまま向かおうとしようとしたので、先生が待ったをかける。すると彼らは慌てて立ち止まる。それを見届けた教師は彼らに声を掛けた。
「あなた達も一緒に行ってくれると助かるのだけどいいかな?」
先生はこちらを見ながら尋ねてくるので、みんなでうなずいてみせると嬉しそうな顔をしてから再び笑顔を見せるのであった。
――それから10分ほど経過して今に至る。道中は平和そのものといっていい程なものであり、危険な生物に襲われることはなかった。俺たちはそれぞれ自己紹介を行い、ある程度の関係性を築いたところでついに到着することになる。
目の前には巨大な建物が聳え立っているのでここで間違いないだろうと思いながら中へ入って行く。そして受付嬢に要件を話すと、すぐに上へ向かうように促されるので言われる通りに行動する。
やがて目的の部屋に到着したらしくて、その前にやって来た数人の警備員のような人に引き留められるので指示された通り、部屋の中へと足を踏み入れた。そこで待っていたのはかなりガタイのいい男性であったが、俺を見るとすぐさま立ち上がり歩み寄ってきた。
「君が例の人物かね?」
いきなり話しかけられて少しばかり面喰らうところだったが、何とか冷静に振る舞ってから質問に答えた。
「え、ええ一応はそういう事になりますけど……」
俺の答えを聞き、男は満足げに大きくうなずくと、椅子に座るように言ってきてくれたので、お礼を言いつつゆっくりと腰かけた。そして話を始める。
「自己紹介が遅れてしまったね。私はここの支部の支部長を務めているもので名を藤堂と言う。よろしくね一ノ瀬誠殿」
「はい。よろしくお願いします!」
お互いに挨拶を交わすことに成功したので早速本題に入るべく、俺がこの街にやってきた経緯などについて伝えた。その話を聞くと彼は感心するように話し始めた。
「なるほど、つまり君の能力について不明な点が多くてわからないということなのだね」
「そうですね」
話してみた限りだが、見た目とは違った落ち着いた口調であり、とても信頼して大丈夫そうに感じ取れたのでここぞとばかりに疑問をぶつけることにした。まず第一の疑問である、何故自分のことを知っていたのか、については予想していたとおり冒険者の話題から上がってきたとのことだ。さらに冒険者達の間で俺は様々な憶測を立てられており、その信憑性も高いということになっているらしい。
次の問題だったスキルの中身についても彼が教えてくれることとなり俺はそれに従ってステータスウィンドウを展開させた。
【名 前】
イチノキ セイ 【年 齢】
15 【レベル】
1 【HP(生命力)】
225/225 《+50》 【MP(魔力)】
100/100 《+125,200/55,000》 【筋 力は】
320 【耐久力と筋力の平均はおよそ300か。まあこれに関しては平均的と言えるだろう。
しかしレベル1にしては明らかにレベルが高い。この世界の人間でもレベル4辺りあれば十分に強い方なのにこの数値は流石に異常と言っても過言ではないはずだ。これを見て一番驚いたであろう彼は、顎に手を当てている様子からも動揺を隠しきれないといったふうに見える。
その後いくつかの説明をした後に、最後に気になっていたあの事を聞いてみることにした。
「あのー、もう一つだけいいですか?気になっていることがあるんですけれど……」
俺がそう聞くと、彼は俺の方を見つめるとどうしたんだ?というような表情を浮かべていたので、恐る恐る言葉を選びながらも思い切って尋ねる。
「どうしてこんなに強いんだろうなっていう疑問があるのですが、何か知りませんでしょうか?それと、これは本当に些細なことではあると思うんですが……」
そこまで言った後に俺は一つ深呼吸をして改めて向き直ってから質問を投げかけた。
「なんで魔法が全く使えないのでしょう?」
すると一瞬の間の後、笑い始めたので何か変なこと聞いたかなぁと心配しながら見ているとあることに気付いた。それはどうやら俺のことを笑っていたのではなく、彼自身が困惑しているのではあるまいかということに気づいたので、少しばかりホッとした。それから彼は真面目な顔つきに戻り、考え始めるのだった。
「すまない、あまりに可笑しかったからつい笑ってしまってね。ただ君の言うことももっともだと思うよ。君はこの世界で生きてきた中では異質と言わざるを得ない存在だからねえ」
そこで一度区切りを入れると俺の事を見てから再び口を開いた。
「私には正直分からないというのが事実であって申し訳ないがそれしか言いようがないが……もしかしたらこの世界特有の何かが影響しているという可能性だって否定はできないかもしれないし……」
彼はそんな言葉を呟くとしばらく思考を巡らせていたようで頭を抱え始め、また別の方法を探し出すべく再び真剣な目差しに戻ってからは真剣な話し合いを行うことになったのだ。しかしそのせいもあってかあまり有益な情報を手に入れることは叶わずにお開きとなった。俺はもう遅い時間だったので藤宮達の好意により泊まるところを紹介してもらうこととなったのであった。
――あれから一週間が経過して俺たちはついにギルドを出発し、いよいよ旅を再開しようとしていたのであった。しかし街を出る間際に起こった事件のせいでかなり予定よりも時間がずれ込んでしまったのであった。それから何があったのかということをこれから簡潔に伝えることにしよう。
あの日の夜、結局何も結論が出ないままに解散してしまったため宿探しをすることになったのだが、あいにくどこもこの時期は忙しく部屋を貸し出すことはできなかった。そのため仕方ないと思ったのだが藤宮くんの頼みで野営することにしたのであった。幸いにも薪と食料の調達は済ませていたために後は夜が更けるのを待つのみとなってしまったわけである。
そして、時間は経って夜を迎えたが特にトラブルが起こることはなく、無事に過ごすことができた。その後は交代で見張りをし交代を終えた直後である、少しばかり離れた茂みから物音が聞こえてきた。そしてその直後だった、草むらが大きく揺れた。その光景を目にしてしまったからなのか、誰もが黙って武器を手に取ると同時に戦闘態勢に入っていた。そして次第に近づいてきて正体が明らかになるとそこには体長3メートルほどの大きさをした巨大な狼の姿があった。
その途端誰からともなく一斉に襲い掛かろうとしたが時すでに遅く、彼の身体は巨大な口に丸呑みされてしまったあとだった。そしてその一部始終を見ていられなかった一人は悲鳴を上げてしまい、それによって他の仲間を呼び集めてしまう形となった。
こうして総勢20人ほどの巨大魔物討伐隊が結成されてしまったので全員で一斉攻撃を試みることにした。
作戦としては前衛部隊6人が前に並んでそれぞれの能力によって攻撃を仕掛けてから後ろに待機する魔法使い部隊の魔法の援護射撃でとどめをさすというものとなっていた。しかしこれがなかなか難しく苦戦していたが遂にその時が訪れる。まず初めに前衛の六人からそれぞれ火属性スキルを放って牽制を行ったのを皮切りに、後方からの広範囲の攻撃が放たれたのである。
これによってほとんどの敵が倒れたように見えたがまだ完全に消滅しておらずまだ動けるものがいてそいつらが俺らに襲いかかってきた。その中でもリーダー格のやつを倒したらようやく動きを止めてくれたためなんとかその場を逃れることに成功した。俺はこの時思った、もし相手が自分より強ければこんな風に一方的に蹂躙されるだけの弱小動物に過ぎないのだと……。
この出来事があったために全員が慎重になりすぎて中々先に進まなかった。そのためかなりの日数がかかってしまうこととなる。だがここで俺は閃いたのだ、このまま進めばまた同じことになってしまうのではないかと。そこでまずは相手の数を減らすことを考えることにして、手分けして森の中で探索を行うことにしたのである。
これならお互いの死角をカバーし合うことが出来る上に奇襲を気にする必要もなくなる。まさに一石二鳥だと判断した。これを実行するために各員に通達を行い捜索を始めることにした。しかしここで問題が発生する。どこにいるかもわからないモンスターを見つけるという行為は極めて困難だということにすぐ気付かされることとなった。そんな中でも藤宮君たちが何かいい方法がないかと必死に考えた結果、偶然ではあるが近くに湖があることを思い出したのでそこまで誘導できないかという結論に達した。
それから程なくして無事に合流することが出来た俺たちはそれぞれの成果を報告しあって情報交換をすると共に今後どう行動していくべきかを話し合った。その結果として一旦休憩を挟みつつ森の調査を続けようということになり、各自警戒しつつ眠りにつくのであった。
――翌朝目が覚めた俺はふと隣にいるはずの人物がおらず不審に思っていると突然声をかけられたため咄嵯に立ち上がって武器に手をかけてしまい少し驚いていたが、それが女性だったということが分かるとその女性はこちらの様子を窺うような素振りを見せながら微笑んでいた。
その姿を見た俺は慌てて平常心を取り戻し挨拶をしてから何をしていたかを聞いてみると、何でもこの辺りには薬草が大量に生えているということで採取していたらしく、それでみんなを起こさないように静かに行ってきていたということだったらしい。それにしてもなぜこの時間にこの場所に来る必要があったんだろうか?そう疑問を抱いていると彼女は口を開く
「えっと私実は……この前の戦いの時に足を怪我したせいで歩けないんです……」俺がそれを察することができた瞬間ハッとした表情を浮かべていると彼女の方を見て『もしかしてあの時に?』なんて思いが込み上げて来ると同時に俺は彼女に謝罪の言葉をかけるとともに自分の無力さに怒りを覚えた。あの戦いで真っ先に狙われて負傷したということだろうし。しかも足を引きずっていたのはそれが原因だと思うから……。この事に関しては早く何とかしないと本当にまずいと思ったからか藤宮達を起こすなりして今すぐにでも治療を行ってもらおうと提案しようとしたがその時にはもう彼女が立ち上がり笑顔で出発を告げていたため止めることが出来なくなりそのまま進むことに決まった。
そこからは順調に進んでいくことができ、やがて俺たちは目的地である湖畔へと辿り着くことができたのだが、目の前に広がる光景に絶句していると彼女はここに来たかった理由を語ってくれたのだ。なんでもここは回復薬作りの原料となるポーションの材料が取れるとかそんな話だったが俺には理解することができなかった。
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