第4話

「そういえば父さんに聞きたいことがあるんだけどさ」

俺の言葉に反応してこちらを見てきたので続けて言った。

「父さんの名前って何なんだ?」

「おお、すまない!自己紹介がまだだったな。私は夜桜勇也だ」

父さんの名前が判明したところで更に質問を続けた。

「それじゃあ次だ。どうしてあんな場所にいたんだ?しかも服装が古風だし、まるで時代劇の撮影現場にいるみたいだったぞ」

「実は私も何故、あそこにいたのかわからないんだ。気づいたらあの場所にいて君を見つけたので声を掛けたというわけさ」

――どういうことなのかは全然分からんがとりあえずわかったと言っておこう。その後も色々と話を聞いたが大した収穫はなく、お互いの話が終わった時には家に着いていた。俺は早速家の中に入ると、冷蔵庫に食料を入れる作業を始めた。

それからしばらくして夕飯の時間になると、俺達は食卓を囲むことになった。そこで改めて挨拶することになったのだが……。

「改めまして俺は一ノ瀬誠と言います。これからよろしくお願いしますお父さん!!」

俺が元気よく言うとその横にいる彩華も続いて言ってくる。

「わたくしは彩華と申しますの。以後、お見知りおきくださいませ」

「うむ。しっかりとした子たちではないか」

うん、とりあえずこれで問題なくやっていけそうな気がしてきた。これからの生活に期待しながら食事を始めた。

――食後、入浴などの身支度を整えた後はすぐに就寝することにした。明日からいよいよ学園生活が始まるが今日は少し疲れたので早めに休もうと思っている。

そして眠りにつく直前に思ったことは……。

「なんかとんでもない一日だったなぁ……」

そんな言葉を口にした後、そのまま寝息を立て始めたのであった。

――翌日、俺は目覚めるとすぐに起き上がって背伸びをした。

ベッドから降りてからリビングの方へと向かう。すると、既に朝食の準備が出来ていたので手早く食べ始めることにした。その後、食器の片付けを終えて制服へと着替える。ちなみに俺が通うことになっているのは私立白百合学園という学校であり、俺と同じ境遇にある子供が通っているところらしい。ちなみに男子校である。俺が通う予定のクラスはE組ということだが一体どんな人達がいるのだろうか?想像が全くつかない。

そして最後に昨日購入した鞄を持ち、玄関へ向かう前に彩華にも声をかけることにした。

「彩華、そろそろ行くからな!」

俺がそう言うと彼女は待っていましたと言わんばかりに答えてくる。

「そうですの。では行きましょうか」

彩華も準備が完了したようなので一緒に外に出ることにした。こうしてようやく、俺たちの長いようで短かった二日間に及ぶ長い戦いが始まったのだった。……正直なことを言うとかなり緊張している。彩華も俺の表情を見て心配してくれたようだが俺は笑顔を作って気にするなと言うように首を横に振った。ここで弱気になったらいけない気がしたので強がって見せたのだ。

(よし、行くか)

内心では不安だらけだったがそんなものは捨て去って、気持ちを新たに家を出たのだった。

――それからしばらくの間、俺は道に迷わないように地図を確認しながら歩いた。しばらく歩いているうちに通学路の看板を発見したのでそこを辿っていく。すると途中で学校らしきものを発見することが出来た。

(あれが、白百合高校なのか?)

その学校は普通の公立高校ようである。しかも校舎は4階建てになっているらしくて、かなりの大きさがあるように見える。俺はそれを見た瞬間、自分が通っている学校とは比べ物にならないくらいの大きさであることに驚いてしまう。それと同時に本当にこんなところに入るのかと思うだけで足取りが重くなった。しかしいつまでも引きずっているわけにはいかないので深呼吸をしてから学校の敷地内に入ったのだった。

そして正面入り口で職員の人に声を掛けられて中に案内される。そこには沢山の人が忙しそうにしていたのでおそらく教員の人達だろうと思われる。やがて職員室前まで到着したので扉の前で立ち止まった。

「ここまで送ってくれてありがとうございました」

「いえ、お役に立てて光栄でございます。どうかこの世界を楽しんでください」

それだけを言うと、先生は去っていった。その光景を見ているとまるで執事のようだなと思ったのは秘密にしておこう。それからしばらく立ち止まっていた俺達であったが、彩華の方が先に動き出してノックをする。中からは入ってきていいよーと言われたので、遠慮なく入ってみる。室内を見渡すと、多くの人がいた。その中には優しそうな雰囲気を出している女性がいたので、多分彼女が担任になる人だと察した俺は挨拶をしておいた。

「おはようございます!今日からここに通わせてもらうことになります一ノ瀬誠といいます。よろしくお願いします!!」

俺の元気のいい挨拶を聞いて少し面喰らってしまったみたいだが、何とか立て直したようだ。

「あら、随分のいい挨拶ね。私は貴方たちのクラスの担任を務める事になった九条由香里というわ。今日からよろしくね。早速だけど教室に行こうかしら?」

「はい」

そして俺たちは連れられる形で歩いていくと、一つの部屋の前にやってきた。

「ここが貴方たちがこれから通うことになるE組の教室となります」

そう言って彼女はドアを開ける。そして俺たちが入ると同時に、騒いでいた生徒達が一瞬だけ静かになるがすぐに元に戻っていった。そんな状況の中で席についていた俺達はそれぞれの自己紹介を行うことになった。俺はとりあえず、簡単に名前だけ伝えておくことにした。

「えっと俺は一ノ瀬誠と言います。これからよろしくお願いします」

自己紹介を終えると、今度は俺の隣にいた彩華が話し始めた。

「わたくしは彩華と申します。お二人と同じく異世界より来られた方々です。皆様仲良くしてくださいませ」

彩華は自己紹介を終えると、小さく微笑んでくれた。俺はそれを確認して安心した。

こうして全員の挨拶が終わると、早速授業が始まるのであった。

――午後の授業も無事に終わって今は放課後となっている。最初の方は簡単なもので教科書を見せてもらったりとか色々とあったが次第に進んでいき、今ではもう本格的な勉強を行っている。俺は今日一日授業を受けてみて思ったことがあるのだが、それは簡単だ。

(これ、俺よりもレベル高いんじゃないか?)

そう、今の俺は自分の通っている中学のレベルがどんなものか全く知らないのだが、少なくともこっちの学校の方が遥かに高度な教育が行われていると感じた。もちろん自分が中学生と比べてということではなく他の人たちも含めて、ということである。

(まあでも、ついていける範囲だし特に問題はないか)

俺はそんなことを思いながらも目の前にある教材に手を伸ばしていくのだった。そしてそれから数十分が経った頃だろうか?突然教室の入り口が勢いよく開かれた。そこから現れたのは一人の男子生徒が息を切らせていた。その人物を確認した俺は驚くと共にあることに気がついた。彼はどうやら何かを伝えに来たようである。そのことに気付いた教師は彼に何があったか尋ねる。すると、彼は興奮気味に答えたのだ。

「おい、ニュース見たか!?あの伝説のドラゴンを倒した冒険者がこの街にいるんだってさ!!」

その情報を聞いた俺を含む生徒たちの顔色が明らかに変わったのがわかった。その様子を見ていた先生はすぐに話を打ち切り、彼の名前を尋ねた。するとその人物はハッとしてから答える。

「す、すいません!!僕は藤宮正輝って言います。それでですね、その情報を僕に伝えてくれたのは……」

正輝が誰かの名前を言おうとしたその時、突如彼の言葉が遮られてしまう。その現象には俺だけでなくクラス全員が驚いていたようで思わず黙ってしまう。やがて俺達の視線は一つに固まってそこへ注がれていった。その先には……先ほどまでいたはずの彩華の姿はなくなっており、代わりに金髪碧眼の少女がそこに立っていたのだ。彩華はそんなことは気にもせず、藤宮の元へ近づいてから手を取るとそのことについて話し出した。

「その件でしたらすでに存じております。しかし、詳しい場所までは教えてくれなかったのです。なので、この世界での冒険者ギルドの場所を知っているのであれば是非その場所を教えて欲しいと願いたいと思います」

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