第2話
一体なんなのだこいつは! 何をしたいんだ!
「ハハッ、そんな怖い顔をしなくても大丈夫ですよ。貴方は私が探し求めていた人なのです。少しだけ話を聞いて貰いたいなと思ってきたのですけれども、よろしいですか?」
俺を探し求めていた?……俺の何を知っていて言っているのだろうか。そもそもなぜ俺の家からここがわかったのだろうか。謎は尽きないがとりあえずは話を聞かないことには何も始まらないので聞いてみることにする。
「俺を探していたという事はよくわからないんですけど……一応は聞きますけど、な、何の話を聞きたいというんですか?」
俺の言葉を聞いた瞬間男の目の色がスっと変わった。まるで獲物を見つけた猛禽類のような鋭い眼光で俺の事を見つめる。俺は一瞬怯んでしまった。……あれ、この流れさっきもやったよね!? デジャヴじゃないよね!? この目付きをどこかで見たことがあると思ったのだが思い出せない。
――いや、違う。よく思い出してみれば俺はこの視線を一度体験している。それもつい最近……。そうだ。神様と出会ったときだ。その時の神様も今の男と同じ目をしていたのだ。
――この男が神様の言っていた転生前の俺を殺した奴なのか? いや、仮にそうだとしても今すぐ殺す訳ではなさそうだ。それに俺が殺したなんて証拠はないはずだ。神様が適当に言った可能性もある。
とりあえず今は情報が少なすぎて判断ができない。ここは相手の言うことに従うふりをするしかないだろう。もし相手が本当に俺の敵であるならば、後々対策を考えればいいだけだ。
「まあそんなに警戒しなくて大丈夫だよ。私の名は斉藤拓海。ア・オーリア社の広報部の副部長をしているものだ。君は確か佐藤真中君だよな? 転生前の名前は」
な、何故だ! 俺の本名を知っているということは確実にこいつが俺の両親を殺し、俺の命まで奪おうとした犯人に違いない! 間違いない! それにこいつは明らかに只者ではない!……よし、とりあえずは一旦様子を見るために乗っかってみよう。
「はい……そうですけど、それで? どうしてそれをわざわざ確認に来たんですか?」
俺はあくまでも冷静さを装いながら話す。ここで怒りを見せては駄目だ。もっと情報を引き出して、この男の正体を突き止めなければならない!
「それはね。私の部下の田中さんって人が殺されたんだよ。彼は君の友達のお父さんでもあったわけだけど、残念なことに死んでしまってねぇ。これはきっと運命なんだ。そしてこれから起こるであろう戦いに備え、まず最初に知っておくべきなのは君達家族の近況なんじゃないかと思ってこうして足を運んだ次第さ。」……なるほど、確かに筋が通っているように聞こえる。家族の情報を知るためにここまでくるというのはおかしい気がするが、嘘をついているようにも見えない。……だがこんな見え透いた話に乗るつもりは全く無いぜ!!
「すみません。俺の家族に関しては、もうこれ以上あなた方に情報を提供する義理も理由も無いと思うんですよね。だから、お引き取り願いたいですね。」
よし、この調子で断ろう。この男には下手に出てはいけないのだ。恐らく向こうが年上だろうが関係あるか! 俺の事を舐めているようだが返り討ちにしてくれるわ! しかし、予想に反して男は少し悲しげな表情を浮かべたあとこう言った。
「……そうかぁ……まあ仕方ないかぁ……本当はわかっているんだろぉ?お前は……」……はい!? はぁぁああぁぁぁぁぁぁ!? ちょっ、なんでそうなるんだ? 全然話が読めないぞ……。まさかこいつの勘違いとか……?……でもそうすると俺に会いに来るメリットがわからなくなるよなぁ……。……うん、やっぱりなんか怪しい。このままだと流石に流されてしまいそうだったので、とりあえずは全力で否定する。
「え、なんのことですか?……というか俺が何をわかっているっていうんですかね? 意味不明なことを言わないでください。」
男は少し驚いたような顔をしたがすぐに元の顔に戻り、ニヤリと不敵に笑う。どう考えても普通な人間じゃないな……。俺は冷や汗を流す。
「へぇ〜……ふーん、あくまでシラを切るのか?……いいだろう面白い。なら教えてやる。貴様は自分の記憶が欠落していることに気がついているな?」
――!?なんでわかるんだよコイツ……まじでやばいなこれ……とりあえず認めるか?
「……」
俺は何も言えなかった。自分でもこの状態は異常だと感じていたが、まだはっきりと理解した訳ではないのだ。……こいつは一体何を知っているんだ?
「図星のようだな。……やはりそうだったのか。それについてはこちらで調べさせて貰ったんだが、なかなか面白かったぞ。例えば――――」
そしてこいつはとんでもない事を口にした。
―――なんと、俺は2年前に交通事故に遭っていて既に死んでいるらしい。
どういうことだ?……こいつは何を言っているんだ? そんな事実は無かったはずだ! それとも忘れてしまっているだけなのか? 俺が混乱しているのを見て楽しんでいるのか、ニヤつきながら言葉を続ける。
――なんでも車に轢かれた際、俺には意識があって会話していたらしく、それが周りの人に目撃されているみたいなんだよね。そのせいもあってか目撃者の証言もあり、事故は事件として処理されて俺は死亡したことになってるみたいだ。ま、俺的には都合が良いんだけどな。俺としては死んだことにしてもらった方が色々と動きやすいしな!……なるほど。そういえばこの世界にきたときに神様に会って転生の説明を受けたのは覚えているが、そこで何か違和感を感じていたのだが、ようやくわかった。――あれは神様じゃなかった。神様のような存在だったというだけで別の存在なのだ。恐らくそいつが転生時にミスをして俺をここに転生させてしまったのだ。俺は神(仮)を睨む。お前のせいで面倒臭い状況になってしまったじゃないか!……クソッ!
「お前のせいでこんな事になったんじゃねぇか!!」――思わず口に出してしまっていた。
――まずい、相手は多分一般人ではないのだ。迂闊な行動は避けなければ……。いや違うな、もう遅い。さっきまで楽しそうな顔をしていたのが急変して今は真顔になっているのだ。そして男の目に殺気がこもっている事が伝わってくるのだ。
「……ほう、今の話を本当かどうか知りたくはないかな? 君にとっては重要な情報だと思うけどなぁ?……もし、君が私の質問に対して素直に応じると言うならば今回の件について特別に大サービスしてあげるぜ! もちろん家族の命を助けて欲しいなんて虫の良いことは望まないよ!」
……ふざけた野郎だ!人の弱みにつけこみやがって!それに今の話は恐らく本当のことで、俺にとっても無視できない内容だというのは確かだ。だけど……。俺は一瞬躊躇ってしまった。このチャンスを逃したら家族を助ける機会を失うかもしれないと考えてしまう。それに自分のことももっと詳しく知ることができるのではないかと思ったのだ。……でも駄目だ!……こいつに従えば本当に何もかも失うことになりかねない! それに俺の目的は家族の命だ! それ以外のものは正直どうでもいい! ここは断るしかない! そして俺は覚悟を決めた。
「悪いですが、俺にとって家族以外は全て敵です。従ってこの場ではお断りします。」
「残念だな。お前が協力してくれた場合、こちらもある程度の譲歩を考えていたというのに。まあいいさ。お前とはまた近いうちに必ず会うことになるだろうからその時にゆっくり聞かせてもらうとするさ。お前にもいずれ知る時が来ると思うぜ?……自分が何者なのかをな」
「は?それはどういう意味――」俺が言いかけたところで目の前の男の雰囲気が変わった。先ほどまでの軽薄な雰囲気ではなく、どこか威厳のあるオーラを放っている。
「おっと、もう時間切れのようだ。私にはこれから大切な用事があるのだよ。今日のところはこれで失礼するぜ!ま、気が向いたらいつでも来てくれ!歓迎するぜ!じゃあな」男はそういうと足早に立ち去った。残された俺は呆然と立ち尽くすしかなかった。
男が去ると、しばらくして我に帰った俺は急いでみんながいる家へと戻った。リビングに入るといつもより暗い表情をしている父と母がいた。二人は俺を見つけると少しホッとした様子を見せるがすぐに真剣な表情に戻った。
「おかえりなさい。どこに行っていたの?」
母は俺に優しく問いかけてきた。父は相変わらず厳しい表情を浮かべている。
「ちょっと近くのコンビニに行ってただけだよ。それよりも大事な話があるから二人共聞いてくれ。」
俺はさっきあった出来事を全て話すことにした。勿論全てをありのまま伝えることはできないが、あの男に関することと、自分に何らかの力があることは伝えた。父さん達は最初は信じられないといった表情をしていたが、実際に俺の力を見ているため最終的には信じてくれた。
それから今後のことについて話し合うことになった。
話し合いの結果、しばらくは現状維持で様子を見ることになった。どうやら今日のようなことが度々起こるようならその時は何かしらの対応策を考える必要があるという事らしい。とりあえずは今ある手札を使って上手くやり過ごすように言われた。
次の日、学校から帰宅すると家に見知らぬ人影があった。俺は警戒しつつ近寄る。よく見ると見知った人物だとわかった。
――あれは隣に住んでいる幼馴染みの彩華だ。俺は彼女に事情を聞くために話しかけようとしたのだが……。彼女は玄関で仁王立ちしておりとても話しかけられる雰囲気ではなかった。俺は意を決して彼女に近づくと突然こちらを振り向いた。
「光! 貴方、何か隠していることない?」
「……いきなりなんだ? 別に無いぞ?」
すると、彼女の顔つきが変わり目が据わっているような感じになった。
――あっ、これはやばい。俺は咄嵯に逃げようとするがもう遅かった。
「逃すかー!!!」と言いながら飛びついてきて俺の体を押さえつけて無理矢理脱がそうとする。なんとか抵抗するが相手が悪すぎた。そうこうしている内に上着を脱がされてしまった。そして俺の服の下を見ると目を大きく開いた後、今度は悲しそうな顔をした。俺としてはなんとも微妙な気分だ。まあ、普通に考えれば俺が何か隠し事をしていてそれがバレたと思われるよな。だからと言ってこの反応は傷つくんだけど……。そんなことを思っている俺に向かって彼女はポツリと言った。
「やっぱりそうだったんだ……」
――えっ!?まさか……今のだけで俺の秘密に気付いたっていうのか……そんなバカなことがあってたまるか!……しかし、ここで認めなければ更に面倒臭いことになること間違いなしなので、仕方なく認める事にした。
「……ああ、その通りだ。でも誰にも言わないし、言うつもりもないから安心してくれ。ただ……できればこのまま内緒にしておいて欲しいんだ。頼む!」
俺は必死で懇願する。これがきっかけで今までの関係が崩れるのは嫌なのだ!……俺にとって彼女が特別な存在であるからだ。
――俺の返事を聞いてしばらくの間は黙ったまま俯いていた。俺はドキドキしながら待っていると、急に笑顔になって言った。
「……ふぅん、なるほどね。わかった。秘密にする代わりに私に協力してもらいたいことがあるの!いいよね?」
……もう好きにしてください。
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