異世界でスローライフを送りたいと思っていてもなかなかそうはさせてくれないらしい
みなと劉
第1話
「あぁ、なるほど。つまりこの世界では魔王を倒さなければ、のんびりとは過ごせないと」
『そういうことだな』
「それじゃ、さっそく行くか!」
『まて! まだ話は終わっていない!』
「え?」
『お前が勇者として召喚されるには条件があるのだ』
「条件? どんな?」
『まず一つ目だが……お前のステータスを教えてくれないか?』
「ステータスって、俺のレベルとか能力値のことだよな? いいけど」
俺は自分のステータスを確認する。
==========
(名)
佐島 靖(13歳)
(職業)
自宅警備士 Lv.1
(称号)
なし
(体力)
10/10
(魔力)
0/0
(攻撃)
2
(防御)
3
(俊敏)
1
(知力)
567
(幸運)
1005
(装備)
麻の服、皮の靴、鉄の剣
===
「うーん、なんだろう……普通だな」
『何を基準に普通なのかは分からないが、とにかく普通のようだな』
「ああ」
『二つ目なのだが、そのスキル欄にある【異世界言語】とはなんだ?』
「これか? これは神様からもらったやつだからよくわからないんだ」
『ふむ……。ちなみにその効果は分かるのか?』
「いや、それがまったく……」
『そうか……。では最後に、レベルについて教えてくれるか?』
「ああ。確かレベルっていうのは魔物を倒したりすると上がるんだよな?」
『そうだ。そしてレベルアップごとに各パラメータが上がるのだが……それは知っているか?』
「うん。そこは大丈夫だけど、レベルを上げるにはどうすれば良い?」
俺の質問に、神様は難しい顔をする。
しばらく考えるようなしぐさをしたのちに言った。
『うむ……正直言うとわからん』
「まじかよ」
思わず突っ込んでしまった。
だが仕方ないと思う。まさかここでわかんないと返ってくるとは思わなかったからだ。……いやしかし待てよ? という事は俺はまだこの世界で何も知らないということではないだろうか? そんな不安を抱いていると神様が説明してくれる。
『すまない。ただ言えることがあるとするならば、「レベルアップの方法は、人によって違う」という事だけだ』
「えっとどういうことですか?」
いまいちピンときていない俺の様子を見て神様はさらに続ける。
『例えば私は今まで人間を観察してきたが、ある人間は剣術の達人だった。しかしまた別の男は体術を極めていた。他にも弓道の達者もいた。それに料理が得意な女もいたな。このように人それぞれ違った方法で強くなっているのだ』
「なるほどね。それなら確かに方法なんてバラバラになるよな」
俺は納得して首肯く。……ということは俺も何かを極めた方が良いのか? 例えばゲームで言えば魔法とか? うーん……。とりあえず魔法を使ってみたい気持ちはあるんだけど、いきなり火を出したりしたら大騒ぎになってしまうかもしれないしな……でも、やっぱり使ってみたいなぁ~魔法……よしっ! 決めた!
「あのさ……神様? ちょっと聞きたいんだけど……」
俺は思い切ってお願いをしてみる事にした。
もしそれで怒られたとしても今更だし、それよりも魔法の使い方を教えてもらったほうが後々楽になると考えたのだ。
「……というわけなんですけど、いいでしょうか?」
……俺の説明を聞いた神様はなぜか呆れた表情をする。なぜ!? 俺なんか変なこといったかな? 神様がため息交じりに呟いた言葉を聞いて俺は衝撃を受けた。なぜなら―――。
『お前はアホの子だな……』
は? どうしてそうなる!!!!…………まあ理由は分かっている。だって俺が異世界に行きたがっていたせいでこういう状況になってしまった訳だしな。だからってそんなはっきり言わなくても良いんじゃない? ただ事実を突き付けられただけなのに心へこみますやん……『おいっ何をぼけーとしている! さっきの話は聞いていなかったのか!』
おっといけないいけいない。考え込みすぎて話を聞き逃していたぜ!
「すみません! もう一度教えてもらえますか!」
『ハァ……仕方のない奴だな……では最初から説明するぞ! まずスキルについてだがな、これは人間が勝手につけたものであって我々には関係ないものだ!』
「ん? ってことは……あれか? 例えば【剣術】があったらその人は剣を扱えるようになるとかじゃないって事?」
『そうだ! そんなものは必要ないだろう!』
いやいやまあまあそうでしょうとも。普通剣を握ったこともない人が剣を持っただけで戦えるようになったりしたらおかしいもんな。逆にそんな簡単に習得できたらとっくの昔に世界中の人達は剣を持って戦っているだろうしな。
『ただし! 魔物の中には自分の持っている能力と同じものを使える相手がいる場合に限って、相手のステータスの一部をコピーすることが出来るものもいる! それこそレベル差にもよるが、全く同じ技を使いこなすことが出来るようになるのだ!』
「おおっ、マジかよ!」
チートじゃないかそれ! じゃあもしもそういう敵が出てきたときは、自分も相手の能力を真似すれば良いんだな。そっちの方が絶対に強いじゃん。流石ファンタジー……なんでもアリだな……。でもそれだけ聞くとまるで俺が弱いと言っているように聞こえるのは気の所為? 俺の考えている事が分かったのか、神様は難しい顔をしながら答える。
『うむ……。確かにそういった面ではお前は最弱だろうな。レベル1なのだから……だがそれでも私は自信を持て。なにせ【異世界言語】を持っているうえに【剣術】や【盾術】も会得しているのだ。そのおかげでレベルが上がっていくうちにどんどん強くなっていくはずだ。そしておそらく……お前には何かしら特別な才能があるに違いない』
なんだよそれめちゃくちゃ期待させるような事言うなよ……なんだか俺のやる気出てきたぞ。
「おう! 任せておいてくれ!」
『そのいきだ。ではもう時間が来てしまったようだ』
そう言って神様は消えようとした。
えぇ~……。もっと色々とこの世界の事を教えてもらいたかったんだけど……。というか……そういえば俺まだこの世界に来た理由とか全然知らない気がするんだけれども……まあいっか。
そして俺の視界は光に包まれた。
===
俺の意識は徐々に浮上していき目を覚ました。そこは見慣れた俺の部屋だった。どうやら無事に戻ってこれたようだ。
夢のような出来事だったが本当に夢ではないらしい。何故なら、ベッドの隣に置いてあるスマホを見ると時刻は午前9時を示していたからだ。ちなみに今日は休日なので問題はない。……しかし。
神様にこの部屋に戻ってこれると聞いていたとはいえ……やはり実際に見るとなんというかもの悲しいものがあるな。……さて、せっかく休みの日だというのにこんな早く目が覚めてしまうとは困った。二度寝をしようにも先程の夢の続きを見てしまいそうなので諦めよう。
とりあえず、今のうちに神様からもらった本を読んでみることにした。えっと確かここにしまったはずなんだけど……あった! よし。早速読み始めるとするかな。……といっても特に難しい言葉が使われているわけではないのですぐに読めそうだ。……うーん。なんかこう、物語を読むというよりは、先生の話を教科書の文章を読みながらノートをとるかのような感じになっている。
内容は要約するとこういうものだった。
異世界には人族の他に魔族と呼ばれる者達もいる。彼等は人間と変わらない姿をしており一見普通の人間に見えるが、人間にはない角があり、さらに瞳も紅く染まっている。そして身体能力も人間の数倍~数十倍以上あり、魔法に関しても高度な魔法を操る事が出来るらしい。また、寿命もかなり長いので繁殖力が低いため、人間にとって非常に厄介な種族として長年争いが続いている。との事だ。
へ~。やっぱりこういう話はいつの時代も一緒みたいだな。というか、人間対魔族の戦争中なのか……それで魔王軍の幹部を倒したりするのか? それで俺達勇者ご一行様みたいなのが結成される的な流れになるのだろうか? それと最後に書いてあることが凄い気になる。それは――。
【転生する際にランダムで授かるギフトは個人によって様々な形をしている。その為必ずしもそれが役に立つとは限らないのだ】
まあ確かにさっき神様も言っていた通り、結局は使い方次第なところはあると思うけどね。
俺の場合は神様曰く【剣聖】【大魔法使い】【盾術使い】【料理の達人】【ゲームの知識】だって。よく考えたらものすごい内容だよな。これだけでも結構チートなんじゃないか? それにさっき読んだ本の中にスキルを2つ以上持つ人も稀にいるって書いていたしな……。まあ俺は【鑑定】と【アイテムボックス】のスキルしかないけど……。
とりあえずスキルを使ってみる事にした。まずは【剣聖】スキルについて。スキルを使う時は頭の中で念じればいいんだっけ?……おおっ! なんか手品のように剣が出てきたぞ。……でもちょっと重そうな気もするし、何よりデカすぎる! 長さ1.5メートルくらいない?……俺はそんなに大きくないんですが! まあしょうがない。今は使う事を優先すべきだよね。ええと……振り回すんだっけな? ブンッ あっぶねえ!! 剣を振り回してみたら、勢い余ってベッドを破壊しそうになったぜ! もう少し抑えないと駄目だなこれは……。気を取り直して次いこう! 次は魔法だな。これはどんなものなのだろう?……うぉっ! いきなり剣が出たときと同じくらいの大きさの炎の玉が現れた!? やばっ! というか熱い! どうやったら消せるんだこれ! あ、消えた。よかったぜ。……でも危ないのでこの大きさは禁止だな。……よし、次の魔法の試射をしてみよう! 今度は小さめの火球を作ってみるか! イメージとしては……そうだな。水鉄砲の水圧を上げたようなかんじ? でもあんまり強すぎたらいけないよな。そうだな……じゃあいきますよ……とほいっと。
ポヒュン おっ、ちょうどいい強さの火の弾が出来たっぽいな。そして俺の目の前にある花瓶が見事に燃えている。うん、完璧。でもこのままだと火事になっちゃうかもだから、とりあえず水の塊を生み出して花瓶にかぶせておく。ふう……。これで大丈夫だろう。……ところで、なんだか頭がクラクラしてきたぞ……。まさか魔力切れか? よし……じゃあ一旦休憩しよう……。流石に疲れた……。
ステータスを確認すると、レベルが4になっていた。
おおう……こんなに早く上がるもんなんだ……。それにしてもたった3発しか使ってないんだけどな……。神様が言ってた才能云々の事がだんだん現実味を帯びてきた気がするぞ……。……そろそろご飯の時間か。今日は母さんも仕事だしどうしようかなぁ。ま、なんとかなるか。……ん、そういえば父さんの気配がしないな。まだ寝てるのかな? コンッコーン 玄関の方から音が聞こえた。誰か来たみたいだ。はーいと返事をしながらドアを開けるとそこには見知らぬ男性が立っていた。年齢は多分20代後半といった所だろうか。優しそうな雰囲気の男性だった。
「はじめまして、私はこういう者です」
そう言って彼は名刺のようなものを差し出してくる。そこには――。
【株式会社ア・オーリア】
広報部 副部長 斉藤拓海 と書かれたものが貼り付けてあった。
「……あの、失礼ながらこの方はどちらさまでしょうか?」
見ず知らずの男に対して思わず敬語が出てしまった。それ程までに相手の放つ雰囲気に飲まれていたのだ。
この男……ヤバい。直感的にそう思った。今までの人生で感じたことの無い程のプレッシャーを本能で感じるのだ。
そしてその圧力は相手からも伝わってくる。だがこちらに敵意は無いようで、口元には優しい笑みを浮かべている。
――この人は危険だ。一刻も早くここから逃げなければ!……しかしどうやって切り抜ければ良いのだろう。
逃げる方法を必死で考えていると、男は何かを察したのか突然笑い出した。
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