口羽龍

 今日もいつものように朝のラッシュが始まった。人々は職場あるいは学校に向かう。そのために、通勤電車はとても混雑する。


 その中に、やせ型の男がいる。棚木智治(たなぎともはる)だ。彼は無職、ハローワークで紹介してもらった会社に面接に行ってはいるものの、なかなか採用にまで至れない。あと何度、こんな事をしなければならないんだろう。


 現金はあまりない。どうやって生活しよう。ここ最近、十分な物を食べていない。次はいつ食べられるんだろう。


「まもなく、1番線に、電車がまいります。黄色い線の内側に下がって、お待ちください」


 10両編成の長い電車がやって来た。多くの人がホームで電車を待っている。智治もその中で電車を待っている。


 智治は到着した電車の中に入った。電車の中には多くの乗客がいて、すし詰め状態だ。


 と、智治は考えた。スマホを盗もう。そして、それを売れば、お金がもらえる。この満員電車の中では、あまり見つからないだろう。


 目の前に女性がいる。ジーパンの後ろのポケットにスマホを入れている。後ろに目が入っていない。これはチャンスだ。


 智治は素早く女性のスマホをすった。意外と簡単にできた。


「へへっ、チョロいもんだ」


 智治は次の駅で降りた。少し家に戻ろう。それから売りに出そう。


 智治は自宅に戻ってきた。自宅には誰もいない。とても静かだ。騒がしい都会よりも、ここが一番落ち着く。


「はぁ・・・」


 智治はため息をついた。いつになったらこんなつらい生活を抜け出せるんだろう。いや、このスマホを売ればなんとかなるだろう。もう少しの辛抱だ。


 その時、スマホが鳴った。盗んだものだが、出るべきだろうか? 智治は少し考えた。


「ん?」


 智治は電話に出た。どこか静かな場所のようだ。


「もしもし、お母さん、助けて! 今、巣鴨駅の近くなの」

「えっ!?」


 智治は驚いた。まさか、このスマホの持ち主がこんな事になったとは。


「誰かに誘拐されてるの。お母さん、助けて・・・」

「もしもし! もしもし!」


 電話が切れた。誘拐した人が切ったようだ。これは大変だ。早く助けに行かないと。


 智治は巣鴨駅にやって来た。だが、どこなのか、全くわからない。一体、どこにいるんだろう。智治は首をかしげた。


「ここが巣鴨駅か」


 と、再びスマホが鳴った。再びあの女からだろうか?


「もしもし」

「今、駅の近くの白いマンションの306号室にいるの。助けて・・・」


 駅の近くの白いマンション・・・。智治はすぐにわかった。よくわかる場所に大きく建っている。


「わかった! 今すぐ助ける!」


 智治はすぐに助けると誓った。すると、スマホが切れた。


 その頃、警察がマンションの裏手にいた。実は誘拐されて監禁されているというのは嘘で、智治を誘うための電話だった。


 智治はマンションの前にやって来た。ここの306号室にいるはずだ。早く助けないと。


「ここか・・・」


 その頃、警察は智治に気付かれないように進んだ。気づかれたら、全力で追いかける。だけど、部屋に入るまでは見つからないようにしよう。


「こいつか・・・」

「うん!」


 智治は部屋の前にやって来た。部屋の前の廊下には誰もいない。みんな出かけていて、いないんだろうか?


 その頃、警察は智治に気付かれないようにマンションに入った。


「行け! 部屋に入るまではくれぐれもばれないようにな」

「はい!」


 智治は部屋に入った。部屋はとても暗い。女がいないように見せるために、こんなに暗いのだろう。


「助けに来たぞ!」


 だが、そこには誰もいない。棚に閉じ込められているんだろうか? じっくり探そう。


「あれっ!?」


 と、誰かが入ってきた。そいつが犯人だろうか? 智治は振り向いた。


「ん?」


 だが、そこにいたのは警察だ。どうして警察がいるんだろう。まさか、自分がスマホを盗んだことで捕まえに来たんだろうか?


「お前が犯人か?」

「えっ!?」


 智治は驚いた。誘拐の事は何だったんだろうか? まさか、電話の人の嘘だろうか?


「この男だ!」


 と、スマホを盗まれた女が現れた。やはり、スマホを奪われた女の嘘だったようだ。


「棚木智治、強盗罪で逮捕する!」

「そんな・・・」


 智治は手錠をかけられた。まさか、こんな流れで逮捕されるとは。


「うまくいったわね」


 警察の後ろには女がいる。女は笑みを浮かべた。作戦はうまくいったようだ。女は奪われたスマホを再び手にした。

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口羽龍 @ryo_kuchiba

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