第80話
***
こうして無事王宮から帰ってこられた私たちだが、大変だったのはその後だった。
「エヴェリーナ、調子はどうだ? たまには親子で茶でも飲みながら話さないか。いい茶葉が手に入ったんだ」
「はぁ……。今日はサイラスとお茶をする約束ですので、遠慮しておきますわ。お父様」
「そうか、それは残念だ。しかし、使用人との交流を深めるのも大切なことだな。その調子でがんばれよ」
「え、ええ……」
王宮に呼びだされた翌日から、お父様の態度がすっかり変わっていた。
なんでも王宮の騒動でのミリウスの発言がきっかけで、人々の間では私のことが大変好意的に受け入れられているらしいのだ。
彼らの中で私は、「冤罪をかけられても腐らずに愛を貫いた令嬢」だということになっているらしい。
それまでも主にご令嬢たちを中心に広まっていた私とサイラスを応援する声は、あの騒動がきっかけでますます加速した。今ではどこへ行くにも、いかにも見守っていますみたいな視線を送られる。
それともう一つ。お父様の態度が変わったのは、王子のミリウスが頻繁に我が家へ訪れるようになったことも大きいだろう。
ミリウスの態度はこれまでと正反対になり、しょっちゅうアメル邸へやって来ては手紙やプレゼントを置いていくようになった。
友好的になったのは嬉しいけれど、なんだか戸惑いの方が大きい。
サイラスはミリウスが来るときは必ず私の後ろに控えて離れようとしなかった。
もしかすると、過去の態度から彼がまた私に危害を加えないかと心配しているのかもしれない。
今のミリウスは私のことをそんなに嫌ってないだろうし心配しなくても大丈夫だと言ってみたら、サイラスは何か言いたげに私を見た後、「余計に二人にできません」ときっぱり告げた。
なぜだか尋ねても、答えは教えてくれなかった。
そうそう、ジャレッド王子とカミリアのほうは、あの後国王様から厳しい叱責を受けたそうだ。
なんでもあの呼び出しは、国王様が他国へ訪問している間を狙ってジャレッド王子が独断で取り決めたものだったらしい。
騒動を知った国王様は激怒して、ジャレッド王子とカミリアを呼び出した。そして暗殺未遂の件を再調査し、ついでに過去私がカミリアをいじめたと糾弾された件についても調べてくれた。
私が何もしていないことがはっきりすると、国王様はジャレッド王子から王位継承権を剥奪し、辺境に飛ばすことを決めた。もちろんカミリアも一緒にだ。
王子もカミリアも随分抵抗していたみたいだけれど、国王様は聞く耳を持たなかったそうだ。暴れる王子とカミリアの姿を想像したら、ちょっと笑えた。
ちなみに、この件で私は王宮に呼び出され、国王様ご本人から直接謝罪されてしまった。
そしてカミリアが襲われた事件だけど、予想通り首謀者はルディ様だった。実行犯は彼の命令で暗殺を企て、私を犯人に仕立て上げるために名前を出したのだと言う。
ルディ様がどうしてそこまでして私を陥れたかったのか不思議だけれど、彼はお兄様の友人であると同時にライバルでもあったので、競争心が間違った方向に暴走したのかもしれない。
取り調べでは犯行の理由を、「クリスの妹であるエヴェリーナ嬢を罪人にして、アメル家の権威を落としたかった」なんて答えているらしいから。
ルディ様は無事に捕まったので、今後手出しをしてくる心配はないと思う。
一安心だけれど、とばっちりもいいところだ。
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