第61話

「そんなこと話してしまってよかったのですか。私があなたのやったことを告発するとは思わないのですか?」


「告発したところで誰が信じると思う? 僕は四大公爵家の跡取りで、君はただの平民の使用人。それにアメル公爵家側の人間である君がそんな主張したところで、クレスウェル家を陥れようとしているとしか思われないよ」


 ルディ様は平然とした態度で言う。悔しいことに反論の余地もなかった。


 私一人がそんな話を主張したところで、取り合ってもらえないのは目に見えている。それに……。



「大体、信じたところで僕は彼女の背中を押しただけ。彼女の罪が薄れることはないよ」


 ルディ様は勝ち誇ったようにそう言った。


 一番の問題はそのことだった。彼はお嬢様をそそのかして暗殺者の紹介までしたとはいえ、実際に暗殺を依頼したのはお嬢様なのだ。


 仮にルディ様の罪が認められて罰せられることになったとしても、それでお嬢様の処刑が撤回されるとは思えない。


 言いたいことはたくさんあるのに、何一つ言葉にする気力が出なかった。ふらふらする足取りでクレスウェル家を後にする。


 絶望とはこういうことを言うのかと思った。


 八方塞がりで、どこにも味方はいない。一国の王子に四代公爵家の跡取りまで敵に回して、どう覆せと言うのだろう。



***


 できることはもう何も思いつかず、私は沈んだ気持ちで日々を過ごした。


 ただ、お嬢様への面会だけは欠かさなかった。格子越しに会うお嬢様はやつれてはいてもお嬢様のままで、それに安心すると同時に切なくなる。


 こんな風に十数分の間だけ会える機会も、もうわずかしか残されていないだ。



 ある日、お嬢様は何気ない調子で口にした。青空が恋しいと。


 牢に入れられてからもずっと淡々と処遇を受け入れている様子だった彼女が、初めて口にした本音のような気がした。


 お嬢様の望みを叶えてあげたいという思いと、それはきっとできないのだろうという悲しみが同時に胸に湧き上がる。


 おそらく表情に出てしまったのだろう。お嬢様は冗談だと小さく笑った。打ちひしがられる思いでお嬢様に別れを告げ、面会室を後にする。



 お嬢様に青空を見せてあげたい。彼女には冷たい地下牢なんか似合わない。


 また外に出て、幼い頃のように曇りのない笑顔を見せて欲しい。


 緑がいっぱいの庭園で駆け回っていたお嬢様の顔や、祭典でまだ遊んでいたいと私の腕を引っ張ったお嬢様の姿が次々に頭に浮かぶ。


 そのとき、ふと思いついた。


 お嬢様を牢から出したいだけなら、何も真実を明らかにする必要などないのではないかと。

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