第60話


 ルディ様は真剣な様子でこちらの話を聞いてくれた。


「そうか、それで君はなんとか彼女の罪を軽くしようとして証拠を探しているんだね」


「はい。ルディ様なら何か知っているのではないかと思い、うかがいました」


「感心だね。アメル公爵に頼まれたわけでもないんだろ? 自らの意思で主人のために動くなんて」


 ルディ様は大げさな態度で言う。口調にどこか演技じみたものを感じて戸惑ったが、気づかないふりをした。


「ルディ様は最近お嬢様とよく出かけてらっしゃいましたよね? その時、何かお嬢様に変わったところは見られなかったでしょうか。おかしな行動をしていたり……」


「うーん、何かあるかなぁ……。結構元気そうに見えたけど」


 ルディ様は腕を組んで考え込む。


 その様子に違和感を持つ。つい最近まで頻繁に一緒に出かけていた少女が暗殺未遂を起こし、これから処刑されるというときに、こんなに冷静でいられるものなのだろうか。


 ルディ様の態度からは少しの動揺も見られない。



「まぁ、あっても教えないけどね」


「え?」


 ルディ様は穏やかな笑みを浮かべたままさらりと言う。一瞬言葉の意味が理解できず、彼の顔を凝視してしまった。


「せっかく狙い通りにエヴェリーナさんが捕まってくれたのに、僕が彼女に有利になることを言うわけないじゃないか。判決が覆されでもしたら大変だ」


「ルディ様、それは一体どういう……」


 心臓の音が早くなる。ルディ様の声色はいかにも愉快そうだった。


「気づかなかった? 僕がエヴェリーナさんを誘導したんだよ。彼女の悩みにひたすら共感してあげて、ひどい目に遭わされたのなら復讐するべきだって教えてあげたんだ。想像以上に思い通りに動いてくれるから驚いた。カミリアを殺せる人を探したいかって聞いたら、一も二もなくうなずいて」


 くすくす笑いながら話すルディ様を見て、目の前が真っ暗になるような気がした。


 今話しているこの男は、決してお嬢様の味方などではなかった。


 それどころかお嬢様の傷心につけこんで、道を誤らせるように導いた張本人だったのだ。


 言葉を失う私にルディ様は聞いていないことまでペラペラ言い募る。


「暗殺者だと言って男を紹介して、ちょっと怪しげな雰囲気の家を借りて会わせたら、あの子あっさり信じるんだよ。実際は僕が雇ったただの平民なのにさ。

はじめからあの男には、カミリアを殺すまではするなって命じておいたんだ。本当は証拠のナイフも持って逃げるように命じたのに、あいつパニックになって川に捨てやがってさぁ……。

けれど、無事にエヴェリーナさんに死刑判決が下ったから許してやってもいいかな」


 ルディ様はにやにや笑いながら楽しそうにしていた。そうして私の目を見て、得意げに言う。


「ねぇ、こんなにうまくいくなんて驚きだよね?」


 きっと、彼は計画の成功を自慢するために私との面会を受け入れたのだろう。こんなことは誰にも話すわけにはいかないから。


 歪つな自己顕示欲を示すための観客として、私が選ばれたのだ。

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