第16話
ルディ様に暗殺者の名前を紹介された私は、彼の言うままに変装して寂れた町にひっそり佇む小屋を訪れた。
出てきた男に小屋に招き入れられ、カミリアを殺してくれるよう依頼する。
しかし、計画は笑ってしまうほどあっさり失敗して、捕まった実行犯はすぐさま私に依頼されたのだと白状した。
私が暗殺に関わった証拠は次々と出てきた。
実行犯の男に会いに行った日の目撃情報や、やり取りの手紙など、都合がいいくらい簡単に証拠が増えていく。一方、ルディ様が暗殺者の紹介に関わったという情報は一つも出てこなかった。
恨みに惑わされてすっかり頭の鈍っていた私にも、彼の罠だったということは察せられた。けれど、今さら気づいたところでどうにもならない。
証拠は十分で、何より私にはカミリアに危害を加える動機がある。
公爵家に押し入ってきた兵士に捕らえられ、私はあっけなく投獄された。
嫉妬にまみれた女が考えなしに甘い言葉に飛びついてその報いを受けただけの、自業自得の結末だった。
***
それから数ヶ月のときを牢屋の中で過ごした。
最初の頃にクリスお兄様が二回ほどやって来たほかは、家族の誰も面会に来ない。
そのお兄様にしても一応は事情を聞いておかなければならないから仕方なく来ただけだ。お兄様の顔にはよくも面倒なことをしてくれたなという表情がありありと浮かんでいた。
そんな中でサイラスだけは、飽きもせず何度も面会にやって来る。
「お嬢様、大丈夫ですか? 慣れない生活でつらくはないですか」
サイラスは私の顔をじっと見ながら、自分のほうこそつらそうな顔で言う。投獄されて家族にも見捨てられたのだから、私はもうお嬢様でも何でもない。こんな風に面会に来てもらう必要はないのだ。
サイラスは悲しそうな顔であれこれ尋ねてきたけれど、私は曖昧に返事をするだけで本音は何も話さなかった。
「……そろそろ面会時間が終わってしまいますね。お嬢様、また来ますから、どうか元気でいてください」
「いいえ、もう来なくていいわ」
そう言うと、サイラスは傷ついたような顔でこちらを見た。私なんかのために時間を無駄にすることはないと思って言ったのだけれど、拒絶しているようにとられたのかもしれない。
私は視線を逸らしながら言い直す。
「……私は大丈夫だから、面会なんて来てくれなくていいの。それより自分のことに時間を使ってちょうだい」
「私が来たくて来ているのです。ご迷惑でなければ、またうかがわせてください」
サイラスは悲しげな顔のままでそう言った。私はそれ以上何も言えなかった。
疲れきって投げやりな態度ばかり取る私の元に、サイラスは飽きもせず訪ねてくる。
面会のはじめには毎回心配そうに私の現状を聞き、その後は少し無理したような明るい態度でアメルの家や社交界のことを報告してくるのだ。
ある日、彼は見張りを気にするようにちらっと見た後、小声で言った。
「今、お嬢様の無実を証明するために動いています。なかなかうまく進まないのですが……。けれど、きっとそこから助けだしますから。どうか待っていてください」
私は驚いてサイラスを見た。
無実? あんなにたくさんの証拠が出てきて、家族の誰も抗議すらしないと言うのに? それなのに、サイラスはずっと私が無実だと思っていたのだろうか。
そうか、知らないのなら早く教えてあげるべきだった。
サイラスは、幼い頃から見てきた私がこんなにあさましい人間になってしまったことに気づいていなかったのだ。
私が冤罪で捕らえられた不幸な人間だと思ったから、同情して何度も面会に来てくれたのだろう。
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