第13話
そんな日々を送るうちに、ついにカミリアが正式に聖女の称号を賜る日がやって来た。
この儀式はリスベリア王国で古くから重要視されてきたもので、必ず王族が見守る中で行われる。王太子の婚約者である私も神殿に招かれた。
儀式の参加者には、リスベリア王国を統治し神殿の者と共に守っていく証として、神殿内部に入るための鍵が与えられる。
神殿でも上の立場にある者と王族、王族に近しいものにしか与えられない特別な鍵だ。
金色の小さな鍵を受け取りながら、私は心の内でため息を吐いた。
いくら王族に近しい者としての証をもらっても、実情は王子に見放されている人間に過ぎないことは痛いほどよくわかっていたから。
儀式が行われる部屋は、普通の教会を一回り小さくしたような造りをしていた。
前方には祭壇があり、部屋の中央には椅子が数列に分かれて並んでいる。部屋中が大量のランプと花で飾り付けられていた。
私はジャレッド王子と並んで座り、祭壇の前の舞台で神官様と向かい合うカミリアを眺める。
ジャレッド王子は真剣な目でカミリアを見ていた。その目は明らかに私に向けるものとは温度が違っていて、苦々しい気持ちが胸に広がる。
舞台の上では、神官様がリスベリア王国の建国の歴史を述べていた。小さい頃から何度も聞かされている伝説だけれど、私は真面目な顔で話を聞く。
ちらりと隣を見ると、ジャレッド王子がつまらなそうな顔で神官様の話に耳を傾けていた。
カミリアが出てくる場面以外には興味がないらしい。
「リスベリア王国は五百年前、英雄ベルンが女神リーシュの力を借り、争いの絶えなかった小さな国々を統一する形で建国されました。
建国以来、時間と愛を司る女神リーシュ様は、リスベリア王国全体に加護を与えてくださっています。……」
いつも聞いている話のはずなのに、神官様の話が妙に耳に残った。
カミリアのように聖魔法を使える者は、女神様からより強い加護を与えられているのだという。
聖女とはなんだろう。カミリアの何が優れていたのだろう。
私と彼女の、何が違うのだろう。
「女神リーシュには我々人間のように物事を裁く感情はなく、人格もありません。
しかし、女神様はいつでも私たちを見守り、その愛に反応して加護を与えてくださっています。その愛が大きければ、奇跡が起こるのです。
古来、リスベリアの人間は不思議な現象が起こると女神様のお導きだと感謝を捧げてきました。女神様は……」
女神には人格がない。その愛に反応する。
私には理由のわからない、何らかの力によってカミリアは聖女となり、彼女が私の婚約者に気に入られたことで私は危うい立場に立たされている。
加護とは一体なんなのだろう。
もしかするとそれは、カミリアのような少女にとっては祝福でも、私にとっては呪いに近いものなのかもしれない。
もしもこの世界の主役がカミリアなら、私は彼女を憎む悪役のようなものだ。悪役に対して女神様が慈悲を与えてくれるなんて、そんなことあるわけがない。
しかし、神官様は私のぼんやりとした考えを否定するように言葉を続ける。
「女神リーシュは人々に平等に愛を与えます。そこに善人も悪人もありません。
そこには加護を与えられた者の選択があるだけです。
その者が正しければ正しく力を使うことができ、幸運がもたらされるでしょう。
しかしその者が正しくなければ、災いがもたらされるでしょう」
神官様の言葉を私の心に鈍い痛みを与えた。
女神様が人を選んで加護を与えているというよりも、なおさら残酷に聞こえる。
神官様の話をそのまま受け取るなら、私は女神様の加護をうまく使えない「正しくない者」だと思ったから。
だから、普通の人であれば愛するはずの聖女の存在に苦しめられているのだ。
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