4.一度目の世界
第12話
その後も私は、サイラスが休日になると色んな場所に連れ回して、色んなプレゼントを贈って、楽しく過ごしていた。
あまり高価な物を渡すと受け取ってくれないことに気づいてからは、それほど値段が高くなくてサイラスの気に入りそうな物をプレゼントすることにしている。
はじめは困り顔だったサイラスも最近は楽しそうなので、私は大変満足していた。
パーティーに出るとまだひそひそ言われるし、近づいてくる人は以前と比べて明らかに減ったけれど、そんなことは些細なことだ。
自由に外を歩けて、サイラスも生きていて。ほかに何を望むことがあるというのだろう。
「あー、なんて幸せなのかしら!」
公爵家の部屋でソファに腰掛けながら呟く。
暗殺未遂を企てて無実のサイラスを代わりに死なせ、最後には自ら命を絶った私が、こんな幸せを享受していいのかしら。心配になってしまうくらいだ。
巻き戻る前、一度目の人生は本当に真っ暗な気持ちだった。もう幸せを感じられることなんて二度とないと思っていたのに。
私はそんなことを考えながら、ソファに大きくもたれかかる。
目を閉じると、今はもう随分遠く感じる悲しかった日々の記憶が浮かんできた。
***
もともとジャレッド王子は、私に無関心ながらも暴言を吐いたり極端に冷たい態度を取ったりするようなことはしない人だった。
別になんということのない、政略で決められた婚約者同士であれば珍しくない普通の関係だ。
彼は私がどんなに着飾っても目を向けることはなく、私が隣で嫌味を言われていようと何のフォローもしてくれない人ではあったけれど、顔を合わせればにこやかに接して本当に機嫌のいいときにはお出かけに誘ってくれたりもした。
だからこそ愚かな私は、ジャレッド王子も本心では私を気にかけてくれているんじゃないかと、無理矢理自分に言い聞かせてこれたのだ。
そんな彼が私に敵意を向けだしたのは、カミリアが来てしばらく経った頃からだ。
この国には時折、女神様の加護を受け、聖魔法の力を持って生まれる者がいる。
力が現れるかに血筋は関係なく、貴族の子に発現することもあれば、平民生まれの子に発現することもあった。
平民としてごく平凡に育ちながら、ある時突然特別な聖魔法の力があるとわかり、王宮に招待されることになったまさに物語の主人公のような存在。それがカミリアなのだ。
境遇だけでなく、カミリア自身も物語の主役のような存在感を放っていた。
綺麗な真っ直ぐの黒髪に澄みきった緑の瞳。すごい美人というわけではないのに、その明るい笑顔や無邪気な仕草はどうしてだか人々の目を惹きつける。
カミリアが王都にやって来ると、彼女はすぐさま王城に部屋を与えられ、聖女として丁重に扱われるようになった。
聖女らしい清楚で大人しやかな外見とは裏腹に、奔放で気取りのない性格のカミリアは貴族の女性にはあまりいないタイプで、みんなが彼女を気にするようになった。
しだいにカミリアを慕う人間が増えていく。
私は彼女が人々から慕われるようになっていく様子を、苦々しい気持ちで眺めていた。聖女が愛されているのなんて、本来私には関係のないこと。
けれど、彼女を愛する人間の中にジャレッド王子がいるのなら話は別だ。
ジャレッド王子がカミリアに柔らかい笑顔を向けるのを見るたび、私の胸は締めつけられた。
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