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 振鈴が収斂すると、過渡の砂粒は歇んでいた。慊焉としない睡魔に背かれながら臥榻の端へとずれて、雑把な衣類を収拾する。軸の缺乏を覚えるのは、術後の機能異常だろうか。着衣半ばでCuIOΣが奥室から出でて、右掌の栄螺殻を顳顬から降ろし頭顱を擧げて笑ってくれた。今ね、点睛について思案していた。机上の球を舌上へ隷従させ、首根から指頭だけが躄り、頭蓋内に営巣された線条の集積を摩する。万華鏡の筒を繰る手際で、影絵も映らない空だったらしい左側の洞へ、舌先から目路の勾欄を挿す。躰内まで触知されても、熱は帰謬を抽くように寝台へ旰れ泥む。これで、分界は辿れないよ。彼女は脚部の悪癖を露わにしながら御業の成就を告げた。布置がどう化けたか、分からないでしょう。言う通り、昨夜と現時点とで分枝や交差は偏していないように感じられた。彼女は待ち構えていたとばかりに、問い掛けを首肯しようとする私の目前へ銀鏡を差し出す。能く能く見ると、視覚の蝶番の模様が一意的ではなかった。彼女の言を信じるなら、行路の相等性に差遇には欠け過ぎた絵鳩の回旋枝にあたるフラグメントが、虹彩として私の片眼に在るらしい。彼女の指端が球面を撫ぜた。天秤が疑わしいなら、最外へ映し顕して。そうして、見えない形影を忘れないで。

 帰り際、箱は扉前で私の掌中へ復された。夜まではまだ絵鳩が位する場所だった。今は、差し引かれた私の残骸が内蔵されているだけだ。またねと言なり脳巓から掌は遠のいて、閉扉される。

 フロアに払暁の歯止めは噛まず、擅に乱脈だ。喧噪は降りしきるけれど跡形もない。視界は目まぐるしく眩しい。かわるがわる犇めき潮煙めいて耀う。自分ばかりがどうかしている気がして何度も一息が閊えるから、双脚が縺れて肢体が重い。弾雨を糾う白眼に晒されながら、刹那的な暗がりで蹲る。

 風船が乾涸びる引き攣った音に彼方此方から纏絡される。徒を拾う帰路中、耳鳴りに耳を塞がれていた。最深まで遮光された自室へ傾れて漸く常用の息の根が引き返される。十分なんだろう。何が身中で余燼を蝕として螫すのか、分からない。何だろうな。盈溢が限られるから、そんな透過が通じている。自分の身の丈よりも深い感情に塗れた跪拝がそうさせる。これ以上、反実の続きは還せるだろうか。多分それも水域に類して、架線へ委ねるための冠状を境目に千夜はいつしか一過する。溟海を彷徨い袖が触れ合う。

 水面が映す霽月は、きっと誰にでも見えている。

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