　光点が地上へ遍く散掛る一時の弥縫性。光明間の追走が蒼然を除荷して余光に戯る。連なる窓明かりと街灯の狭間で目線を振れば、十字を切るようだった。

　高窓は海際の硝子片の綾なす図像が電光の影裏に似て、奇に似気無い。動線上余儀なく通過したダンスホールからの爆音は既に朧だ。いつも体感時間が渺茫として延伸され続ける心地になる曲がり角で、その深青色の扉は鎖されている。符牒の準縄へローレライの旋律が鳴り涅める。CuIOΣ（キンセイ）はナイトテーブルに撓垂れていて、読書灯の電球色が雌雄眼と赤条々に懸かる秘色の髪を縁取っていた。

　風変わりな名称は女神らしい端厳を意味していたとか、それとも両眼に菫青石を嵌めていたからだとか。今となっては瞼も皮膚色も上背も気紛れに手ずから転変させているために、その由来の真否は何れも定かではない。曾て好事家の闇々のうちに創製された玩具だったという話もただの噂だ。今夜は以前会った時よりも外貌が些か経年しており、十代後半の少女に見えた。OGNAKGNUKと辞儀する声色も、非整数次倍音に差し替えられている。絵鳩（えばと）の躰だよね。洋菓子の箱を手渡すなり欣々然とした弾性は時針すら筵になるようで、私は諧調の片鱗を早送りしようとする。本当に、一晩だけで終わるの。大人しく一臺の器物でいてくれたらね。絵鳩が壊した形態は、変えないで欲しいと冀求する。いいよ。パズルがほんの少し、煩瑣になるだけだ。

　潮汐のない敷栲の海辺へ総身が導かれる。彼女の眼下で、肌膚は未見の段差を点して白波に接地していく。