尻尾
ウィッチの装束は、己の意思を反映した形にできる。
私の場合、ファミリアへエナを供給するため必要最低限のもの。
装飾など不要だ。
しかし、変身に伴う人体の変化は己の意思でどうにもならない。
パートナー曰く髪や目の変色が多いというが──
「ほうさいって何?」
頭上の尖った狐耳、毛玉の塊のような尻尾。
首を小さく傾げる紅のウィッチは、人間の形態を逸脱しているように見えた。
〈願いが叶ったお礼に神仏に参拝することじゃな。つまりお礼参り──〉
「ツチノコは神様だった…?」
〈ベニヒメや、話を聞いてくれんか?〉
夜空で珍妙な問答を続けるウィッチとパートナー。
演技をしているような不自然さはないが、平常運転とすればパートナーの苦労が偲ばれる。
アトラスオオカブトの艶やかな頭に手を置きながら、そんなことを思う。
「ベニヒメ、か」
とても旧首都とは思えない弛緩した空気の中、私は耳にした名を口に出す。
芙花が好きな食べ物に、似た響きのものがあったような。
「うん、ベニヒメ」
狐耳が私の言葉を拾って動き、紅のウィッチことベニヒメは夜空より旧首都へ降り立つ。
荒れ果てたアスファルトの地を下駄が踏み、からんと音が鳴る。
風に揺れる紅の和装を見て、脳裏に解が過った。
「さくらんぼか」
「おぉ〜私は、いちごだと思ったよ」
〈いや、思わんじゃろ〉
どちらも気軽に手の出せない高級品となって久しい。
この世からインクブスを1体残らず駆逐する日まで、芙花に振る舞うことはできないだろう。
遥か未来を眺める己に蓋をして、紅のウィッチと相対する。
聞く必要がある──私を探していた用件について。
「それで、用件はなんだ」
ここはインクブスの最多出現地域。
普通のウィッチであれば近寄らない。
ここまで一切の悪意は感じなかったが、それでも警戒心を呼び戻す。
「今日はね〜お礼を言いに来たんだよ」
「お礼?」
のんびりとした口調で告げられた用件に思わず眉を顰める。
わざわざ礼を言うためだけに旧首都まで?
まったく心当たりがない。
「この前、ナンバー8を助けてくれたでしょ?」
私の訝しむ視線を受けようとベニヒメは穏やかな表情を崩さなかった。
ナンバー8といえば芙花の母校で遭遇したゴルトブルームのこと。
であるとすれば、ベニヒメはナンバーズに名を連ねるウィッチか。
いや、それは早計だ。
「後遺症は…大丈夫か?」
目の前に佇むウィッチがナンバーズか、近しい存在であれば答えられる問い。
そして、私にとって最も気がかりだった事を聞く。
「大丈夫だよ。そろそろ復帰する予定だって〜」
ベニヒメは一瞬だけ目を見開くが、すぐ目尻の下がった優しい表情に戻る。
「そうか」
少し、ほんの少し肩の荷が下りた気が──錯覚だ。
彼女の発言が真実とは限らない。
真実であっても一人の少女がウィッチとして再び戦う現実があるだけ。
何も変わっていない。
視線を逸らした先には、月光浴中のヘラクレスオオカブト──私にはやるべきことがあるだろう?
「すまない、少し待ってくれ」
翠の目を瞬かせながらベニヒメは頷く。
仕事を終えたファミリアへ引き上げを指示し、22体分のオークを片付けるためシロアリを呼び出す。
重量級ファミリア7体の厚い鞘翅が開かれ、現れた透明の後翅が振動を始める。
「おお、飛んだ~!」
大型トラックばりの巨体が浮き上がり、重い羽音と共に夜空へと消えていく。
それを見上げ、歓声を上げるベニヒメ。
「お前も行くんだ」
最後まで残ろうと粘るアトラスオオカブトへ直々に声をかけ、スズメバチの待機する電波塔を指差す。
ゆっくりと離れ、しかし鞘翅は開かず、とぼとぼと去っていく大きな影。
それを見送って、ようやくベニヒメへ向き直る。
「待たせた」
「お母さんみたいだね~」
翠の目を細め、柔らかな笑みを浮かべるベニヒメ。
私のエナから生み出されたファミリアにとって私は母親に当たるのか?
いや、そんなことはいい。
それよりも──私は翠の目を正面から見据え、口を開く。
「礼なら必要ない。私はインクブスを屠った、それだけだ」
謙遜ではない。
突き放すように、ただ無感情に事実を告げる。
そこにいるインクブスを屠っただけだと。
「そっか」
「ああ」
ワンマンの気質があった彼女と連携は難しくとも支援の手段はあった。
しかし、私は方針を変えることはなく、インクブスどもの駆逐に終始した。
未成年が戦う現状を嫌っていながら、私は行動しなかった。
だから、礼を言われるようなことは──
「ナンバーズも無敵じゃない…そんな当たり前のことを忘れてた」
それでもベニヒメは私に語りかけてきた。
のんびりとした口調は鳴りを潜め、一言一言を確かに紡ぐ。
「あの場に貴方がいなかったら、大切な友達を失ってた」
そして、強い意志を宿した目で見返してくる。
一歩も譲らないと、そういう目だ。
「だから……どう貴方が思っていても、感謝の言葉だけは伝えるよ」
感謝されるためにやってるわけじゃない。
正確には、感謝されるようなウィッチじゃない。
感謝の一言もないのは当然──だと言うのに、最近はイレギュラー続きだ。
どうにも調子が狂う。
「本人も連れてきたかったけど……断られちゃってね〜」
「だろうな」
そう言ってベニヒメは困ったように笑う。
己の実力に自信を持つゴルトブルームにとってあの日の出来事は忘れ去りたいものに違いない。
なによりモンスターパニックのような世界を生み出す私に好んで会いたいと思う者は──いなくもないが、稀だ。
予想通りの反応だった。
「だから、私だけでも…ね」
しゃなりしゃなりと歩み寄ってきたベニヒメ。
耳と尻尾で大きく見えたが、背丈は私と同程度。
しかし、紅の和装を見事に着こなし、月光の下に佇む姿は比べられない。
月とすっぽんだ。
「改めまして──ありがとうございました」
そう言ってベニヒメは深々と頭を下げる。
誠心誠意という言葉が形を成したような美しい一礼だった。
「……そうか」
この一言を伝えるためだけに旧首都へ赴くはずがない。
何か打算があるに違いない。
そんな疑心を封じ込めたくなる真摯なものだった。
「うん、伝えたいことは伝えたし…」
頭を上げた紅のウィッチは、穏やかな微笑みを浮かべる。
微かな差だったが、その微笑みは安らいで見えた。
「お暇しようかな〜」
〈いやいや、何を言っておるのじゃ!?〉
踵を返そうとするベニヒメを勾玉のパートナーが慌てて止めに入る。
「えぇ…インクブスもいないし、何かあった?」
〈え、我言ってたはずじゃよな?〉
両者が疑問符を浮かべる会話に脱力しそうになる。
段取りぐらいはしておけよ。
〈数多のネームドを屠ってきた技を聞かんでどうするのじゃ!?〉
数多というほどネームドを屠った覚えはなく、技というには単純。
個を群で圧殺し、群に群で相対するだけ。
その一部始終はゴルトブルームも見ただろうに、伝えていないのか?
「え〜今日じゃないとだめ?」
〈だめじゃろ……いつ会えるか分からんのじゃぞ?〉
ちかちかと瞬く勾玉に語りかけるベニヒメは、駄々をこねる子どものようだった。
いや、子どもであることに違いはないか。
「大丈夫、大丈夫、また会えるから~」
私がウィッチとして活動する時間は不定期だ。
ファミリアが主力であるため、必ず現地にいるとは限らない。
そう出会えるウィッチではないと思っているのだが、ベニヒメの言葉には確信めいた響きがあった。
〈…仕方ないの〉
渋々諦めた様子のパートナーに頷き、ベニヒメは私へ振り返った。
九つの尻尾が微かに揺れ動く。
「またね~」
ゆったりと手を振るベニヒメの体が音もなく浮き上がった。
まるで透明の地面が迫り上がったかのように。
物理法則の一切を無視するマジックならではの飛翔だ。
風に紅を靡かせ、ナンバーズのウィッチは夜空の闇へと消えた──
〈い、行かれましたか…?〉
ひょこりと私の左肩に登ってくるパートナー。
挨拶の一つでもするものと思っていたが、フードの陰で息を潜めて置物に徹していた。
「ゴルトブルームの時といい、なぜ隠れる?」
私に比べて社交的、お喋りなパートナーに沈黙されると場が持たないのだ。
〈お茶会を断った手前、どう格上の方々と話したものかと……〉
それは、確かに顔を合わせづらい。
私のせいだが。
「…挨拶はしろ。より話し辛くなるぞ」
〈そ、それは、その通りです……説得力がありますね〉
「おい、誰を見て言った?」
◆
そこには、円卓があった。
一面の闇より浮かぶ白磁の円卓。
石から削り出したような荒々しい質感の卓上には何もなく、ひどく殺風景なものだった。
そこへ集う影は大小様々、形態すら異なる魑魅魍魎たち。
ヒトの天敵たるインクブスである。
《またか……次はどこだ?》
苛立ちを滲ませた溜息を受けて、矮躯のインクブスは眉を顰めた。
しかし、それだけに止め、努めて平静に報告する。
数多の同志を率いる立場にある以上、ヒトを狩り出していた頃のように感情任せとはいかない。
《アニシンが治める巣だ》
《忌々しい》
《いまだ発生源は特定できないのか?》
その場に集った者たちは、憤りと微かな恐れを滲ませる。
インクブスの支配する異界へ現れた別種の生命体。
ウィッチが生み出したはずのファミリアは予想された消滅時期を超え、活動している。
その脅威は計り知れない。
《これで72、羽虫どもを育てておるのか?》
最も被害を受けているゴブリンの長であるグリゴリーは、その嘲るような声色に拳を握り締めた。
その腕には回収できた同志の首飾りが袖のように連なっている。
《なんだと?》
グリゴリーが反応するより先に険しい表情を見せたのは、隣に座する屈強なオークであった。
腕利きの戦士たちを巣の調査で失った長にとって侮辱に等しい言葉。
背後に控える戦士も微かに殺気立っている。
《よせ、サンチェス》
それを見ることで逆に冷静さを取り戻したグリゴリーはオークの長を諫めた。
代わり映えしない大陸の戦況に加え、謎のファミリアによる侵略が始まり、募る苛立ちがインクブスに不和を広げている。
これ以上、溝を深めるわけにはいかないのだ。
《しかしだな…》
最も怒るべき者から諌められ、サンチェスは拳の振り下ろす先を見失う。
《たかが羽虫に、これだけの失態を重ねておきながら何も言われんと思っておるのか》
グリゴリーの配慮など気にも留めず、小馬鹿にした態度で言葉を続けるのはインプの長。
大陸にて安定した功績を上げるインクブスは、ヒトにも同胞にも悪辣であった。
《あぁ? 言うじゃねぇか…口だけ達者なインプが》
ライカンスロープの一大派閥を束ねる若き長が灰色の毛並みを逆立て低い声で唸る。
群れの者を失う痛みと苦しみを理解するライカンスロープには、我慢ならない言葉の連続であった。
それゆえの怒り。
《青二才は黙っておれ》
《なんだと、この腰抜け》
部外者としか見ていないインプの小馬鹿にした視線が神経を逆撫でする。
《お、落ち着け、ラザロス》
《やめんか、シリアコ》
止めに入るグリゴリーへ続こうと動く者、円卓より一歩下がる者、それらを静観する者。
《お前はいいのかよ、グリゴリー!》
《それは……》
灰色の毛並みを逆立てたままライカンスロープの長、ラザロスは吠える。
《一番矢面に立ってんのはお前らだろうが! こんな後ろにいるだけの腰抜けに言われて悔しくねぇのか?》
インクブスの使い走り──そう揶揄する者もいる。
しかし、数と器用さを生かして戦闘から補助、雑務を一手に引き受けるゴブリンをライカンスロープは認めていた。
ヒトの雌を見ると節操がなくなる点を除いて。
認めているからこそ、ファミリアの討伐をオークの戦士と共に買って出ている。
いまだ名乗りを上げないインプは軽蔑の対象であった。
《ふん、言わせておけば青二才が》
ゴブリンと大差ないインプの体躯が浮き上がり、禍々しいエナを放射し始める。
一触即発──実力者である両者が激突すれば、たちまち円卓は崩壊するだろう。
《図星か、腰抜けが》
《待て》
円卓を挟んで睨み合う両者の間に、鍛え上げられた鋼の刀身が割って入る。
《ラザロス、インプの駆使するマジックは強力だ。そこは認めろ》
今度はサンチェスが諫める番であった。
強力なウィッチやヒトの軍隊と相対した時、インプのマジックが戦場のイニシアチブを握るとオークの戦士は知っている。
《ちっ…》
ライカンスロープの戦士とて理解していないわけではない。
だが、納得できるかは別問題であった。
冷笑を浮かべるインプの視線に、ラザロスの毛並みは逆立ったままだ。
《だが……シリアコ、お前の発言は訂正する気にもならん──不快だ》
場を収めるように見えたサンチェスは、得物の切先を宙に浮かぶ影へと向ける。
この場において無力なゴブリンの長は天を仰ぐ。
悪化を続ける場の空気に嫌気が差したフロッグマンは、隣席するマーマンへ眼を向けた。
《マーマンの長よ》
《なにか?》
機敏な動作で振り向くマーマンは、前回の会合に現れた者と異なっていた。
全身を覆う鱗の色彩や装飾品が違うのだ。
その原因が思い当たらなくもないフロッグマンの長は、問わずにはいられなかった。
《見ない顔だが、代理か?》
《先代は戻らん》
突き放すような物言いがマーマンの特徴ゆえ気に留めることはない。
それよりも先代という単語に頭痛を覚えるフロッグマン。
会合のたび長が交代するようになったのは、とある島国へ進出を始めてから。
《…そうか》
ヒトの駆る軍船に後れを取るマーマンではない。
そして、水上での戦いを得意とするウィッチは少数。
河川へ配したフロッグマンも消息を絶っている現状、正体不明の敵が水中に存在していることは間違いない──
《静まれ》
重々しく、しかし明瞭な声が円卓の空気を震わせた。
《今宵集まってもらったのは、同胞の不和を生み出すためではないぞ》
その一声で睨み合う者も、雑談に興じる者も、円卓より離れた者も、一様に席へと戻って沈黙する。
そして、円卓の一席に現れた影へ畏敬の念を込めた視線を送る。
《サンチェス、派遣した戦士団から報告は?》
全てのインクブスを束ねる影は輪郭が不確かで、真の姿は見通せない。
しかし、耳にした者が跪きたくなる厳かな声だけで十二分な存在感があった。
《受けておりません》
それに対して、サンチェスは先ほどの怒気を微塵も感じさせない声で答える。
《全滅か》
《そ、それは……早計ではありませんか?》
《サンチェスの選抜した者たちが報告を怠るとは思えん》
サンチェスの希望的観測を影は一言で退ける。
インクブスの中でもオークの戦士は命令に忠実でありながら、ただ従うだけではない柔軟性がある。
それを信頼しているからこそ、報告が途絶えた今、最悪の結果を想定しなければならない。
《戦士団、選抜……何の話だよ?》
与り知らない話が進むことにライカンスロープの長は待ったをかけた。
あえて会合の場で報告を求めた。つまり、集った者へ聞かせる意図がある。
その意図を汲み、一同を代表してラザロスは影へ問うたのだ。
《…皆、ニホンは知っているな?》
その名を聞いても円卓に集った者たちは、特に反応を示すことはない。
脈絡もなく飛び出した島国の名に怪訝な表情を浮かべる程度だった。
《結束はないが、個々は強いウィッチの護る島国》
《同族を助けねぇ腰抜けどもの国だ》
マーマンの長が言い放った言葉をラザロスが引き継ぐ。
それに円卓へ集った長たちは皆、頷いてみせる。
共通の認識であることを確認し、影は補足を加えた。
《厄介ではあるが、良質な畑。ゆえに腕に覚えのある者のみ赴くことを許した》
腕に覚えのある者──勘違いした愚者を含む──がポータルの使用を許された。
帰らぬ者も当然いたが、それは許容の範疇。
成果を持ち帰る者の方が多かったと記憶するインプの長、シリアコは問う。
《それは先刻承知、なぜ今更になって戦士団を派遣したのだ?》
危険性が高い地域への斥候として、オークの戦士たちほど適任はいないだろう。
しかし、厄介であっても脅威ではない島国へ派遣する意味は見出せない。
《シリアコよ…先日、ニホンへ遣わせた同胞は戻ったか?》
シリアコの問いには答えず、影は逆に問い返す。
ヒトの雌を辱め、弄んでいるのだろうと見当をつけていたシリアコは、その問いの意味を一瞬で理解した。
《まさか、やられたと?》
《共に赴いたオーガの同胞も戻らぬ以上、な……ニホンより戻らぬ者、他にもおるだろう?》
ざわめきの広がる円卓。
まさか、そんなはずが、と口々に言う。
多くの者がインプの長と同様に、まったく問題視していなかった。
腕利きのインクブスは報告を怠ろうと必ず成果は持ち帰ってくる──その確証は無い。
《そこにつけ込まれ、我々は腕の立つ同胞……そして、眼と耳を失った》
《それゆえオークの戦士団を?》
《然り》
ニホンに関する情報の多くは、更新されていない。
脅威ではないと見做した国ゆえ、それが問題視されることはなかった。
しかし、更新しないのではなく、更新できないとすれば意味が変わってくる。
《眼と耳を失ったゆえに災禍の侵入まで許した……事態は深刻だ》
《災禍……ファミリアどもの発生源が分かったのですか?》
脅威と認識するまで時を要した結果、甚大な被害をもたらした謎のファミリア。
同胞を喰らって数を増やし、版図を広げる災禍の根源。
それは何か、と円卓の片隅で蠢く不定形のインクブスは問う。
《先日、調査の一つが実を結び、発生源が判明した》
《正確には、侵入経路が妥当ですかな》
発生源ではなく侵入経路、そう訂正するグリゴリーに影は頷く。
つまり、異界にて生じた存在ではない。
数多のゴブリンとオークの戦士団という犠牲を払って得た情報、それは──
《侵入経路は、ニホンより帰還したゴブリンの遠征隊だ》
グリゴリーとサンチェスを除いて、円卓に集った長たちは驚愕する。
ファミリアがポータルを通過してきた事実に。
ウィッチのエナで形成されるファミリアは絶対にポータルを通過できない。
その常識が大きく揺らぐ。
《ポータルを通過した手段は不明だが……ファミリアを生み出した元凶は明白だ》
重々しく、噛み締めるように、影は円卓に集った者たちへ語りかける。
《すべての元凶たるウィッチは、あの島国にいる》
ざわめきは去り、円卓に敵意と憎悪が満ちる。
ファミリアによる災禍、膠着した戦況、同胞の不和、それらを生み出した恐るべきウィッチ。
どれだけのインクブスに害を為したか、定かではない。
ただ辱め、蹂躙するだけでは収まらない──そんな気迫を手で制し、影は厳かに命ずる。
《シリアコ、遣わせている同胞を呼び戻し、ファミリア討伐に当たれ》
《…致し方あるまいか》
ウィッチではなく、そのファミリア相手。
優れたマジックの使い手であるインプの長は不服という態度を隠しもしなかったが、渋々承諾する。
その様に鼻を鳴らすラザロス。
《これより呼ぶ者には、情報収集を命ずる》
残る者たちは、黙して言葉を待つ。
あわよくば件のウィッチを仕留める算段を脳裏に思い描きながら。
《ウィッチの尻尾を掴むぞ》
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます