第52話

「ねえミロク君。このあと予定ある?」


「大丈夫、特にはないよ。何か用事でもあった?」


「良かった! じゃあ、公園に行ってみない? 昔二人で、よく行った公園。少し話したいことがあるの」


「うん、分かった。僕も家に一度帰ってからまた行くよ。じゃあ公園で待ち合わせかな?」


 チカはうんと頷いた。そして僕らは公園に待ち合わせをすることになった。


 家に帰ってくると母さんが慌てふためいていた。


「ミ、ミロク?? お前どこに行っていたの? 師僧ができたんだって? それよりチカちゃんと会えたって本当かい? だってミロク。チカちゃんは……」


 チカちゃんは、ずっとミロクのことを……。


 僕は仏壇で深く合掌をして、部屋に戻り、何故か落ち着かない気分になり、ひたすら片付けをしていた。


 しかし僕の部屋は本当に地味な部屋だな……。


 あれ、これは……。


 そして僕は大急ぎで家を飛び出した。


 息を切らして走る。こんなに走ったのは人生で生まれて初めてだ。


 ゼーゼーと息を切らしながら公園へと辿り着く。


 するとそこにチカが待っていた。


「チカ……」


「……ミロク君、ちょっと話があるの。聞いてくれる?」


 チカが僕に話がある……何だろう。今更、話したいことなんかないはずだ。だって僕らはずっと昨日から話をしていたじゃないか。


 僕は素直に話を聞くことにした。


「うん、もちろん」


「私ね、捨て子だったんだ。……それを今のお父さんが拾ってくれてね。孤児院みたいなところにいたの。小さい頃にね」


「私が、まだ小さい頃に、今のお母さんは世話をしてくれて、でも本当のお母さんじゃないの。でもね、私、幸せだった。お父さんとお母さんが居たから」


「……」


「だから、ミロク君と出会えて本当に良かった。まだ小さい頃にこんなこと言ってたよね。私よく覚えてる」


「うん」


「ミロク君がいじめられた時に、こう言ってたよね。私が何でやり返さないのって言ったら、それでも、友達なんだ。って……友達が痛い思いをするのは可哀想だって」


「私ね、それを聞いた時、この人なら……って思ったの。それでずっと一緒に居ようって思った。だからミロク君が居なくなっちゃって本当に寂しかったんだよ?」


「ああ」


「でも昨日、無事に帰って来てくれて本当に良かった。本当に嬉しい!」


「はい! 話はおしまい」


 チカ……。


「僕も話があるんだ」


「……チカ」


 僕はズボンのポケットから、小さな金の指輪を取り出した。


「僕と結婚してください」


「絶対、幸せにします」


 ……。


「はい」


「これから、よろしくお願いします」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る