第3話 ひょうの初任務

「すごい!これは一体!」


「これはすごい有様じゃなー」


 師匠真城と共にアメリカ大陸南部を訪れた俺は、一面焼け野原になった大地を見て愕然とした。


 訪れる前に見た写真とは大違いではないか。


 山間の谷間に位置する孤立した街だが、その土地特有の質の高い農産物が採れるため大変豊かな街と聞いていた。


 それがなんと無惨な姿に!


 農地だったと思われるその地域は一面黒焦げで、そこで青々と成長していたであろう作物たちは原型を止めることなく地面の黒いシミと化していた。


 周辺の森の動植物には一切影響を与えず、人が作り上げた畑だけ焼却されている。


 明らかにただの自然災害ではない。


 明らかに人のなせる技ではない。


 神の逆鱗に触れ、人が作り上げた田畑だけ焼き払われてしまったのだろう。


「なぜ神の怒りに触れたのでしょうか?」


「コカインだな」


 師匠が焼け残った葉の一部を見つけるとそう言った。


「コカイン?それって麻薬の一種じゃないですか!質の高い農産物って麻薬栽培のことだったんですか?」


「そうなんだろうな」


 一面見渡す限りのこの広大な大地での麻薬の原料の栽培。なぜ捜査の目を誤魔化し続けられたのだろうかと不思議に思う。


 この国の役人が賄賂を貰い見逃していたとしても、これだけ広大な面積なら衛生写真に写らないはずがない、諸外国からの批判は受けなかったのだろうか?


「取り敢えず今は火の手が見えないようじゃ。消化活動は必要ないじゃろう。急いで任務を遂行するぞ」


 畑は完全に焼失し消化活動など全く必要のない状態だった。ここにいても仕方がないと思ったのだろう。師匠はそう切り出した。


「任務って具体的に何をするんですか?」


 ソフロニアの命で師匠の補佐としてこの地を訪れた俺なのだが、任務のことは何も聞かされていなかった。


 麻薬の原料を栽培しているところなど他にいくらでもある。なぜここだけ神の怒りに触れたのだろう?


 それより何より、神だからといって人々の営みまで無慈悲に全てを消失させて良いものなのだろうか?

 

 次々と疑問が湧き上がってくる。


「人は過ちを犯す。過ちを犯せばその土地の神が怒る。それは神罰となり多様な自然災害となって人に襲い掛かる」


 土地を汚された神が怒り狂ったってことか?


「過ちを犯し神罰が下ったのなら仕方ないですね。ご愁傷様。自業自得ってやつですね」


「相変わらず淡白な奴じゃな」


 師匠は俺の冷淡な言葉に白い目を向けてきた。


「確かにそうかも知れないが、神罰の規模がデカすぎる。これでは全く状況の分からない者や、更生する可能性のある者まで巻き込んでしまうではないか」


「人間界に住まう者としてそれは流石に看過できん」


 関係のないものまで巻き込むのはやり過ぎってことか?


「でも、規模がデカすぎる神罰を下そうとする神を、止める方法なんてあるのですか?」


「捨てる神あれば拾う神あり」


「だから我々のような存在を神は遣わされたのだ。神々の全てが人間を無碍に排除しようとする訳ではない。我々に力を与え神罰から人間を守る方法を授けてくださった」


 それが俺の存在意義?


「具体的にはどうするのですか?」


「先人達は神の住まう地域に自分達のオーラを凝縮し結晶化させたものを三箇所に設置している。それを頂点とし内側の地域に結界を張り神の力を抑えているんじゃ」


「じゃあつまり神の力が影響し始めたのはその結界の力が時を経て弱まっているってことですか?」


「そういうことだ、我々はその頂点にある結晶化している支柱にオーラを送り込み、結界の効力を復活させねばならない」


「そうすれば神罰を止められるってことですね。なーんだ。そんなことでいいなら結構楽な任務ですね」


「いいや。そうとも言えん」


 俺の安易な言葉に師匠の顔が引き締まったのが手に取るように分かった。


「支柱にオーラを送り込んだ後、三箇所の中心へ行き結界を発動させる魔法を使わなくてはならない。もしくは結界が自動で発動するまで神のオーラを弱めなくてはならない」


「弱めるって!神のオーラを消耗させるってことですか?ということは神との交戦は避けられないということですか?」


「そういうことだが、流石にそれはなるべく避けたいところだから、早く支柱を復活させ神に気付かれないように中心へ行き、魔法を使い結界を発動させる。それが得策じゃろう」


「神に気づかれないように行動するとか可能なのでしょうか?」


「今までの経験でいうと、だいたい中心にいて結界の発動を阻止しようとしてくる」


「じゃあ!やっぱり対峙せざるを得ないんじゃないですか!」


「まあ、ワシが神の注意を逸らすからその間に結界を発動させてくれ」


「大丈夫なんですか?一瞬で粉々にされたりしないですか?」


「そうならないように日々鍛えているんだろ」


 何となく今回の命がどういうものか理解したが。はたして上手くいくのだろうか?先行きが不安だ。


 郊外の方から穏やかなオーラが漂ってくるのが感じられた。敵愾心は感じられない。先人が残したオーラを結晶化させた支柱から漂い出たものなのだろうか。


「向こうから穏やかなオーラを感じます。何か関係ありますか?」


「よし、行ってみよう」


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