第二章 ひょう初任務、炎の神を封印せよ

第1話 炎に巻かれた女の子

「おーーい。そっちの作業は終わったかー?」


「もう少しでーす」


「バカやろー、いつまでかかってんだー。早く、終わらせろー、エカドル様が来られちまうだろーが!」


「了解でーす」


 チッ!うるせーよ。こっちだって必死でやってんだよ。


 俺の住む街は人口8000人ほどので、山々に周囲が囲まれているため他の街との交流が極めて少なく、閉ざされた貧しい街だった。

 しかし、エカドルが市長になってからは農産物を中心とした交流が増え、大変豊かな街へと変貌を遂げることとなった。


 そのためエカドルの名声は広まり、住人はエカドル様なんて呼び出し、もてはやし始めていた。


 俺が物心つく前に市長になってくれていたら、貧乏が引き金となった犯罪に手を染める事も、捕まることもなかったかもしれない、、。


 俺は囚人。


 物心ついた時から親はいなく、家もなかった。今にも崩れてきそうな橋の下で雨を凌ぎ、汗臭い汚い男どもと共に生活をしていた。


 愛情を注がれた記憶などない。


 毎日飢えていて配給される食料だけでは足りず、よく盗みを働いていた。そして捕まった。

 

 そして今日も、しがない奉仕活動に駆り出されていた。


 俺達の作業をエカドルが視察に来るらしい。政治家の点数稼ぎってやつだ。


 だが街が豊かになったお陰か、刑務所での暮らしは安定していた。3食飯は出るし、強風に煽られ凍える夜を耐え忍ばなくてはならない、なんてことも無くなった。


 出所後の生活支援のための職業訓練も受けれるし、読み書きの勉強もさせてくれる。


 配給を受けながら生活するより全然マシな生活を送ることができていた。


 まあ奉仕作業は重労働で大変だし、よく怒鳴られてしまってはいるがな。


「火事よー!」


「火事よーー!」


「誰かー!!」


「誰かーーー!!」


 その時、けたたましい切羽詰まった声が響き渡り、俺の耳に飛び込んできた。俺は急かされる作業の手を止め、顔を上げ声がした方に目を向ける。


 向けたその先の一軒家の窓からは炎が噴き出していて、その炎はすでに大人の背の高さを超え燃え上がっていた。


「レスキューは呼びましたか?」


 俺は助けを求めるように声を上げていたご婦人の近くに駆け寄るとそう声を掛けた。


「到着まで15分掛かるそうなんです。中に子供が居るんです。助けてー、、」


 必死の形相で涙声混じりのその言葉に緊迫感を覚え、直ぐに火が上がってない窓の方へ駆け寄る。


「あちっ!」


 窓の取っ手は既に高温になっていて触れられたもんじゃなかった。手の痛みを堪え、近くに落ちていた棒状の物を取り上げると窓を叩き割った。


『ガチャーン!』


「おーい。誰かいるかー?」


 窓から這い出てくる黒い煙をかき分け中に声をかける。が、返事は無かった。


「お母さん。お子さんは何て名前ですか?」


「エイミーです」


「エイミー、エイミー、中にいるんだろ。返事をしてくれー」


 返事は無かったが何かが動くのが見えたので、俺は大きく目を見開き中へ目を凝らした。


「くぅー」


 噴き出てきた煙が目に入り、染みて痛みが広がり中を覗き続けることなどできなかった。煙が染みて痛みの広がる目を強く瞑り軽く手を添えマッサージするようにして、再び目を開けると中を覗き込む。


 今度は薄目にし、目を涙で覆うような感じにして這い出てくる煙を手で払いながら覗き込んだ。


 手だ!


 手を上げている!小さくてか細い手が見える!


 声が出せないくらい衰弱しているのかもしれない。でも助かりたい一心で必死でアクションを起こしているのかもしれない。


 俺は中に入る決心を固め、窓枠に手をかけた。


「くぅー」


 窓枠も既に高温となっていた。高熱による痛みが手に広がる。


 痛みを堪え這い上がろうとした時、仲間に止められた。


「何やってんだお前!中は煙が充満してんだぞ!一酸化炭素中毒になっちまうぞ」


 ガスマスクなんて当然持ってない。煙の充満したこの中に飛び込んで行ったら俺も、一酸化炭素中毒で意識を失ってしまうかもしれない。


 再び大量に噴き出てきた煙を浴び、目が染みて痛みが広がる。仲間もそうだった。煙を浴び顔をしかめながら、涙目になりながら止めてくる。


 そこまでしながら俺の身を案じてくれる仲間の気持ちは嬉しかったが、今ここで引き下がったらエイミーは助けられないかもしれない。


 きっと一生後悔する。


 散々、人に迷惑かけて生きてきたんだ、ここで引き下がってはいけない。そんな気がした。


 密室に飛び込む訳じゃないんだ、窓から飛び込むんだ。きっと酸素はある。


 俺が仲間の目をまっすぐ見つめ頷くと、表情が緩んだ、それ以上止めようとはせず体を押し上げるようにしてきてくれた。


「お前はホント馬鹿だよ」


 俺の体を窓の中に押し込んだ後、仲間のそんな言葉が聞こえてきた。


 中に入った俺は煙を吸い込まないように、口と鼻を袖で覆うと部屋を見渡す。


 中は煙が充満していて方向が分からなくなってしまった。


「エイミー、エイミー」


 叫び続けるがエイミーからの反応はない。もう一刻の猶予もないだろう。


 くそっ!手が見えたのはこの辺りのはずだっ!


 煙が染みて痛む目を一度強く瞑り、涙で覆った後、薄めを開け手で弄りながら周辺を探していく。


 肌がヒリヒリと焼かれ、空いてる手でヒリヒリする部分を何度も拭った。


 呼吸をするたびに気持ち悪い匂いが入ってくる。


 バキバキと火が弾ける音、ギシギシと部屋が軋む音が響き渡る。


 生きた心地がしない、 早くここを出たい。そんな気持ちが湧き上がり足がすくむ。


 痛み、悪臭、恐怖感と戦いながら進んだ。


 距離としては数歩だったのかもしれないが、何十歩にも何百歩にも感じられた。


 いたーっ!!


 しばらく進んだ先にベットの下にうつ伏せになっている女の子を発見した。


 口を覆っていた腕を外し、息を止め女の子を抱え上げると一気に窓まで走った。


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