最終話 黒い奴の正体
「師匠さっきからへらへら、けらけらとチャチャいれてくるあれはなんですか?」
陛下の枕元にいる黒い奴を指差してそう言う。
「何!?お前あれが見えているのか?普通に見えているのか?」
俺のその言葉に師匠とソフロニアは思わず顔を見合わせていた。
「見える?」
普通に見えている俺は何を言っているんだ?と、思った。
「ひょう君あれは死神だ。しかもかなり上級クラスの死神のようだ。特別な訓練を受けてないと普通は見えないはずだが?」
ソフロニアは俺の顔を覗き込みながら言ってきた。
死神?師匠から昔聞いたことがある。死を司る神『タナトス』に与する神で、死の世界に入れてもらうことが許されない魂を消滅させるのが普段の役目らしいが、たまに人間界に入り込んで来ては生きている人間を呪い殺し、その魂を喰おうとするとか、、。
じゃあ!もしかして陛下の体調が悪いのはこいつのせいか?
「あいつ強いんですか?」
俺は死神を睨み付けたまま言った。
「これ!ひょう!お前何考えている?」
俺の考えている事を何となく察したのだろう。師匠は声を荒げた。
「あいつ追い払ったら陛下の体調、元に戻るのでは?」
「あー。そうかもしれないが死神を敵に回すのは危険だ。あんなひょうきんそうな見た目でも一応神だぞ」
それとなく注意を促してきたようだが、俺の腹は決まっていた。
指先にオーラを集中させる。
「空間移動魔法!」
死神のいる場所の下に異空間へ誘う扉を開いた。
「なんじゃとー!!」
ソフロニアは俺が高等魔法を使うのを見て驚きの声を上げる。
「あれ?あれー??」
俺は流石にここで戦う訳にはいかないと考え、場所を変えることにし異空間へ死神を誘った。
俺が開いた異空間に死神は引きづり込まれていく、そして、俺も自分の下に異空間への扉を作りその中へ飛び込んだ。
「ま、待て!ならば我々も、、」
師匠とソフロニアは慌てながら俺の開いた異空間への扉の中に飛び込んで来た。
「ひょう君は異空間の扉を開ける魔法まで身につけているのか?」
「ああ。オーラのコントロールが上手くて、すぐ自分のものにしてしまうんじゃよ」
「天賦の才ってやつか!死神が見えていたのも納得出来る」
「あれ!あれ~?なんだここ?体のバランスがうまくとれないぞー??」
異空間に強制的に連れてこられた死神は、バランスがとれずあたふたしていた。
「ここは異空間。重力もなければ上も下も横も関係無い世界。自分のオーラをうまくコントロールしないと体を固定できないぞ」
死神に対して完全に上から目線でそう言い放った。
「だから!相手は神だって言っておろうに。なんちゅう口の利き方をする奴だ!」
「あなたの教育の賜物でしょう」
俺にそう言われ師匠は気まずそうな顔となる。
「なんでこんなことするん?」
相変わらず死神はバランスがとれずジタバタしている。
「陛下にはまだまだいろいろ教えてもらいたい事があるんでな。テメー消えろ」
怖いもの知らずの俺は死神を完全に見下し命令口調で言い放った。
「そんなん無理や。俺アイツ気に入ったんや。アイツの魂喰いたいねん」
「はー?テメー殺す」
俺はその言葉にブチキレ、死神に飛び掛った。
『キンッ』
死神も自分の鎌で応戦し、俺の剣を初断ちは辛うじて受け止めた。が、すぐ切り返した二撃目の攻撃で、上半身と下半身を真っ二つに切断してやった。
「ぎゃー!!」
「なんと!かなり上級レベルと思われる死神に、こうもあっさり一撃を加えるとは!?」
俺の実力を目の当たりにしたソフロニアがそう声を上げる。
しかし、斬られてからしばらくは動かないでいたが、モゾモゾと動きだしたかと思ったら上半身から糸状の触手のようなものが延び始め、下半身を絡み付け、近寄せ、手に取ると元あった場所にくっつけた。
切断面が元通りになっていく、、。
「何と!瞬時に修復出来るのか?」
死神はダメージを受けている感じもなく、何事も無かったようにバランスを取ろうとジタバタしていた。
「なるほど!さすがは死神、簡単にはくたばらないようだな」
死神の驚愕の生態を見せられても俺はあまり動じていなかった。恐らくはそう来るだろうと思っていたからだ。が、それを見ていた師匠とソフロニアは冷や汗を掻いているように見えた。
不味いな、やはりこの戦い無理にでも止めるべきだったか、と思案しているようだ。
俺が負けるとでも思っているのか?
次第に異空間の不安定さに慣れて来た死神はバランスを取れるようになり、反撃に転じ俺に鎌を振りかざしてきた。
「速い!!」
先程まで異空間で体のバランスもとれずにあたふたとしていたというのに、見違えるような動きをし襲いかかって来る。
しかし、俺は難なく受け止めた。この程度でいちいちオーバーな反応するなよと思う。そして切り返しの一撃を喰らわした、、。
「ぐわーっ!」
俺の剣撃を受け、再び異空間に死神の声が響き渡る。今度は連続で攻撃し、死神の体をバラバラに刻んでやった。
「鶴賀流千羽!」
1秒に満たない間に千の刃が死神を襲う。死神は俺の攻撃を為す統べなく受け、どんどんバラバラになっていく、、。
「これならどうだ!」
かなり細切れにしたところで手を止めた。
これだけ細切れにすれば、流石に復活は無理だろうと思った。が、バラバラにされた体が一ヶ所に集まりだし、どんどんくっついていく、、。
磁力があり引き寄せているかのように中心に集められて、どんどんくっついていく、、。
こいつ?やっぱり凍鶴が効かないな?粉々に砕けないぞ?死神の体質か何かなのか?
「何という自己再生能力か!!」
後方のソフロニアも師匠もこの再生能力には驚きを隠せずにいるようだ。
斬られた体を再生し元の姿に戻ると、再び鎌を振りかざし襲い掛かってきた。鎌を連続で振りかざし攻撃してくるが、単調な攻撃に感じ特にプレッシャーは感じなかった。
「あの死神、かなりの達人と見受けるが、ひょう君はそれ以上か。あの鋭い攻撃を涼しい顔で受け止めているぞ」
「ああ。完全に見切っているな。しかし勝算はあるのか?あれだけ驚異的なスピードで再生されては、斬っても斬ってもキリがないぞ」
師匠は弟子の仕掛けた勝負をどう終わらせてやろうか考えを巡らしているようだった。
「なんでや!」
何度も鎌を振り下ろし続けるが全て受け止められる。攻撃が全く当たる気がしないのにしびれを切らしたのか死神はそう声を上げた。
しばらく俺を歯軋りしながら睨み付けた後、、。
「ふざけやがってー!!死の魔法!」
普通の攻撃では全く歯が立たないと思ったのだろう。死神の手から黒い霧状の渦巻きが俺へ向け放たれてくる。
「何!死の魔法だと!」
「不味い。死神得意の魂を遊離させ死界へ誘う死の魔法を使ってくるとは!」
「ひょう君。オーラを高め防御するんじゃーー!」
ソフロニアがそう声を上げた。
俺はその黒い霧に包まれると眩暈のようなふらつきを覚え、目の焦点が合わなくなり視界が霞むような妙な感覚に襲われた。が、しかし、そのソフロニアの声に反応し、オーラを腹に込め死神の魔法に抵抗するように高める。
「そうだ!自分のオーラを高め相手の魔法を跳ね返すんじゃー!」
続いて師匠がそう叫ぶ。
一瞬、死神の魔法に魂を揺さぶられたようだが、ソフロニアや師匠のアドバイスもあり自分のオーラをコントロールし奴の作った魔法を押し返し握り潰した。
「ふにゃ?」
自分の必殺技を破られ死神はすっとんきょうな声を上げる。
「オーラに力が感じられない。そんなヘンピな魔法は握り潰させてもらったぞ」
「そんなばかなことあるん!?」
「大丈夫か?ひょう?」
師匠が心配そうに声をかけてきた。
「ええ。大丈夫です。それよりアイツ、何故か凍鶴が効かないんです。何故ですか?」
「お前の凍鶴はまだまだ未熟じゃ。物体を凍結させることが出来ても、オーラを凍結させるまでには至ってない」
「そう言うことですか、、」
「アイツ粉々にしても直ぐ再生出来るんですか?」
「恐らくはな。しかし、粉々にされてしまっては一瞬でという訳にはいかないだろう」
自分の魔法が破られ呆然としている死神の隙を付き、間合いを詰め剣を振りかざす。
俺の剣によって死神の体はバラバラに切り刻まれていく。今度は手なのか足なのか胴体なのか分からないまで細切れにした。
しかし、これでもまたすぐ死神は体を修復出来るのか、一ヶ所にバラバラにされた体が集まっていく、、。
ここまで細切れにしてもまだ直ぐ再生出来るのか?ならば、、。
「まさかあの体勢は!」
俺の体勢を見た師匠は声を上げる。
「爆砕衝撃波ー」
「なんと!先ほど戦ったジハオの必殺技ではないか!」
ソフロニアも驚きの声を上げる。本家の威力と遜色ない衝撃波が死神を襲う、、。
『ジュッ、、』
その威力に死神は跡形もなく吹き飛ばされその場から完全に消滅した。
「すぐ再生しますかね?」
「あそこまで粉々になって散り散りになってしまっては無理だろうな。2、3日は掛かるだろう」
俺の質問にソフロニアはそう答えていた。
「そうですか、それは良かった」
「陛下の魂が食べたければまず俺を殺しに来い。また粉々にしてやる」
聞こえているかどうか分からないがそう捨て台詞を吐いといた。
「やれやれ、一時はどうなる事かと思ったが、死神の奴を力ずくで追い払ってしまいやがった。我が弟子ながら全く持って恐ろしい奴だ」
晴天が広がる朝。小鳥がさえずり心地よい陽気の中、陛下は多くの人の笑顔に迎え入れられていた。
「へいかー、退院おめでとうございます」
陛下はその後順調に回復なされ、今日めでたく退院の日を迎えられた。
『パチパチパチ』
病院の職員、関係者に囲まれ拍手が響きだし、子供から退院祝いの花束を受け取り、優しく微笑みを返していた。
「!?」
陛下がこちらを見て軽く頷いたような気がした。
「陛下はなぜ急に体調が回復したか察しが付いているみたいだな」
その様子を見ていたソフロニアがそう言ってくる。
「いつでも訪ねて来て良いそうだ。自分の人生に迷ったら遠慮なく来なさいとおっしゃっておられたぞ」
俺の頭をポンポンと軽く叩きながら師匠がそう言う。
「陛下、あなたは自分には神通力は無いとおっしゃられていたがそんなことはない。濁った少年の心を見透かし、晴らすといった神通力をちゃんと持っていらっしゃるではないですか」
そう言って師匠はほくそ笑んでいるようだった。
陛下のおっしゃりたかった事は、人間は困難を自分の力で乗り越えなくてはならない。それはその者が受ける試練。他人が口出しするようなことではない。しかし、度が過ぎる場合は君の判断の元、正義の鉄槌を下しなさい。そういう意味だと俺は理解した。
「もうむやみに命を奪うことはしません」
「うむ。それが良かろう」
これほどの能力を与えられたのが、『なぜ?』自分なのかはまだ答えを見つけられてはいないが、いつもモヤモヤとしていた俺の心は、今日のような晴天の空のように澄み渡り晴れ渡っていた。
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