第7話 その力、人間界のために使わんか?
小僧を見つめたまま俺は今回の任務を依頼されたときの事を思い出す、、。
「ジハオわざわざ呼びつけてすまない。お前に頼みたい仕事が出来たのだ」
そこにはいつもと違う申し訳なさそうにしているソフロニアの姿があった。俺に頼み事を言うのに、なぜ申し訳なさそうにする必要があるというのだろうか。
「何を言うのです。あなたの頼みごととあれば世界中のどこにいても必ず駆けつけましょうぞ」
気を使う必要などないとの意味を込めそう言って豪快に笑ったのだが、表情は変わらないままだった。
「それで、頼みというのは?」
「実はこの少年と話がしたいと申している方がいるのだ。その方のところへ少年を連れて行って欲しい」
と言いながら少年の写真を見せてきた。
「この少年の護衛ですか?」
小学生と思える、小さく細い少年の写真を見てそう返す。
「いいや、この少年、少しばかしクセがあってな、簡単に連れて行けるかどうか、、」
そう言って口ごもっていた。
「私に頼むってことは力ずくでも連れて行けってことですか?」
その様子を察してそう返した。
「うむ。しかしお前とて一筋縄ではいかないだろう。その少年すでに師匠真城の実力を凌駕している。まともに向き合えばお前とて危ういかも知れん。この任務十分注意し、ことに当たってくれ」
なるほど、ただの小僧ではない、手加減できるような相手ではないようだな。大人気ないが全力でいかせてもらうぞ。
「殺されたくなかったらさっさと失せろ」
傷口を押さえ呼吸が荒くなっている俺を見下ろしそう言い放ってきた。
「まだ勝負は終わってない」
俺は必殺技『爆砕衝撃波』を放つ、、。
自分のオーラを拳に集中させ、猛烈な衝撃波を起こす技だ。その破壊力はビルをも粉々に出来るほどの威力がある。
避ける間もなく小さな体はその衝撃波で吹き飛ばされた。
圧倒的なパワーの前に、小さな少年の体ではひとたまりもなかっただろう。突風に巻き上げられた木の葉のように舞い上がり、後ろの崖に打ち付けられていた。
打ち付けられた崖の表面は崩れ小僧に覆い被さるように崩れ落ちる。
「終わったか。すまないが手加減してやることが出来なかった。許せ」
任務とはいえ小僧相手に大人気ないことをしてしまったと自責の念に駆られる。
『ガラガラ、、』
「なんだと!!」
無傷ではないようだが、小僧は起き上がってきた。覆い被さった岩をはね除け立ち上がってくる。
「なんてパワーと破壊力だ。防御が一瞬でも遅れていればやばかった」
驚いた!ダメージは負ってるらしいが、動くのに支障はないようだ。体の埃を払い、剣の刃こぼれはないか縦横にして確認し出す。
小僧の眼はまだ死んでいない。こちらを睨み付けてきた。
「俺の必殺技を喰らい、立ち上がれるのか!?」
小さな体であの衝撃波が致命傷にならないことに驚きを隠せない。が、、。
「あまいぞ。その体勢では次の一撃は、直撃は必至」
体勢が整う前に俺は間髪いれず必殺技爆砕衝撃波を放つ。
先ほどにも増して強力な衝撃波が襲うこととなった。
先ほどの攻撃で足場は地面がえぐれボコボコと緩み、足場がよくない上、体勢も良くない。直撃は必至だろう。
「なんだと!」
しかし、なんと小僧は避けようとする訳でもなく自分のオーラを剣に集中させ、その剣で爆砕衝撃波の衝撃波を斬り裂き分散させた。
『ドーーーン、ドーーーン、ドーーーン』
分断された衝撃波はひょうの周りの地面をえぐり、後ろの崖を破壊していく、、。
「同じ技を何度も喰らうか、バカが!」
なんという才覚だ!俺の攻撃を跳ね返すパワーも無い、耐えれる体力も無い、避けられる体勢でもなかった。
無垢のように受けるしかなかったはず。しかし自分のオーラを一点に集中させることによって、俺の攻撃を割き、分散させ攻撃を回避したというのか?
「なんという小僧だ!!」
分散させるといっても衝撃波は形の無いもの。自分のほうへ向かってくる石を割るなどとは比べ物にならないほどの難易度のはず、それを意図も簡単にやってのけるとは、、。
改めて小僧の格闘センスに驚愕してしまった。
驚いている隙をついて、剣を地面に刺し自分の体勢を整えると、こちらに跳躍してきた。
「致し方無い」
俺は目をつぶり呼吸を整える。
「反響爆砕」
拳から相手に直接衝撃波を打ち込む爆砕衝撃波と違い、この技は衝撃波を地面に叩き付けることによって衝撃波が地面により跳ね返り不規則な衝撃波を産む。
小僧は避けることも防ぐことも出来ずに、舞い上げられた土砂とともに地面に叩きつけられた。
直接打ち込む爆砕衝撃波より威力は落ちるが、一度目の爆砕衝撃波のダメージが残る小僧には十分な威力となるだろう。
俺に奥の手まで出させるとは、大した奴だ、、。
『ガラガラ、、』
「驚いた!!まだ立ち上がれるのか?」
自分の上に覆い重なった土砂を跳ね除け、一度は立ち上がったが足元から崩れ落ちた。
立っていられないほどのダメージは受けたようだ。
両膝を落とし、両手を地面につけ体を支えようとするが、思うように力が入らないのかそのまま地面に倒れ込んだ。
「お前がこのまま成長したらまず間違いなくこの地上で最強の戦士になるだろうな」
そう言いながら俺は小僧の近くに歩み寄る。
「負けた、、俺は死ぬのか、、」
小僧は体を動かすことが出来ず、その場に倒れ込み仰向けになって空を見上げながら思いにを馳せているようだった。
顔に少し笑顔が浮かんだような気がした。
何がこんな年齢の少年の心を乱していたのだろうか?目の前に横たわる少年は普通の少年。年齢以上にあどけなく見える。
先程まで俺に驚異を与えていた者にはとても見えなかった。打ちひしがれ、表情からは生気が失われていた。
「のう少年よ。その力、人間界のために使わんか?」
俺は諭すようにゆっくり優しい言葉でそう語り掛けた。
「人間界のため?」
「俺は今までずっとそうして来たつもりだが?」
横になったまま俺を見上げそう返してきた。
「小悪を叩いても仕方ないだろう」
「小悪?反社会組織が小悪?」
「そうだ」
小僧は言っている意味が分からず、目を泳がせ混乱しているようだった。
まだ世間を知らない少年。反社会組織が最強の悪だと思っている少年にとっては、言っている意味が理解出来ないのだろう。
そんな小僧を見て軽く笑うとこう続けた。
「俺はあるお方とお前を引き合わせるためにここに来た。そのお方に会えばお前の探している答えも見つかるかもしれんぞ」
「俺の探している答え?答えがあるというのか?」
不思議そうに俺を見つめてくる。
「さあな、それは俺が決めることじゃない。お前が判断することだ」
「行くか?そのお方に会いに」
少年はコクりと頷いた。それを確認すると、俺はソフロニアから貰った花のような物を取り出す。
その花には魔法が込められているのだとか。
花を強く握ると辺りに煌めきが広がりだす。その煌めきに包まれると体が宙に浮き上がっているような感覚に襲われ、平衡感覚が奪われる。
なんだこの妙な感覚は?と思った次の瞬間、周りの景色が急加速し体が急速移動している感覚に襲われる。
光の早さで移動しているようだが体には何の圧力も感じることはなかった。気付くと先程見ていた景色とは全く違う別の景色が目の前に広がっていた。
一瞬で別の場所へ移動したようだった。
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