第5話 救いようのない奴等
「アニキー?どうしたんですか?血相変えて?」
留守番をしていたパンチパーマの男は無精髭の男の姿を見るとそんな声を上げた。
「お前には話しておいただろ!博徒会場で聞いた座敷わらしの話を」
「は?何の話でしたっけ?」
「ちょ、オメーは、すぐ忘れるなー」
そう言って無精髭の男は語り出した。
何でも組織間の交流のために行われる博徒の会場で、鶴賀彪という名の少年が反社狩りをしていると小耳にしたと主催者は急に話しはじめたのだとか。
その言葉に「少年が?大人相手に狩りなんてそんな馬鹿なこと!」などの声が上がり出し、一時は常識では考えられないことだけにその場にいる全員が笑いだしたのだが、主催者は笑われても顔色一つ変えず淡々と話を進めるので、全員押し黙って聞き耳を立てるようになったのだとか。
主催者の話ではその少年に近付くと、不思議なことになんかこーキラキラってなものを残して消えてしまうのだそうだ。
何でもそいつは座敷わらしなんかじゃないかって噂されているらしい。
「座敷わらし?」
「そうだ。座敷わらしだ」
「人々に幸せをもたらすって有名な妖怪の?」
「人々にとっては俺達は不幸を招く存在だろ。だからそいつに関わると消されちまうんじゃないかって話だ!言っておいただろ!」
「ま、まさか、アニキー、今の世に、そんな話、、」
「俺もその時は話し半分で聞いていたよ。ただ嘘をつくような人でもないし、そんな嘘をついてもなんの特にもならない」
「ま、まさか、こ、こいつが!鶴賀彪!?」
「見た目は噂通り間違いなく子供。子供だというのに恐そうな大人を見ても怯みもしない。怯むどころか薄笑いを浮かべていて余裕の表情にも見える」
無精髭の男は真っ青になっていた。
「どうしたんだい?」
そばにいた女性が青ざめている表情を覗き込みながら不思議に思いそう言う。
「オ、オイ。そいつを捕まえろ」
女性の言葉には反応せず、隣にいるパーマ男にそう言った。
「あっ!は、はい。捕まえるんですか?」
パーマ男は言われた通り、取り合えず俺の事を捕まえようと近付き手を伸ばしてきた。
俺は容赦しなかった。どうせ悪いことをしている仲間なんだろと思い容赦しなかった。
凍鶴を振るい一刀のもとに斬り伏せた。
キラキラとした微粒子を残し目の前から忽然と姿を消したのを見て、無精髭の男は腰砕けになりその場にへたり込む。
『ガラガラ、ガッシャーン』
へたり込む時近くにあったゴミ箱を倒し、中に入っていたゴミが散乱し床を覆ってしまった。
しかし、散らばったゴミには目もくれず両手足をジタバタと、醜い様で動かし後方に下がり出す。
ツルツルした床を思うように動けなくなった昆虫のように、醜くジタバタしながら反転し後ろに駆け出す。
腕につけている高級そうな腕時計が、ジタバタするたび床に打ち付けられカチンカチンと音を出していた。
こんなへっぴり腰につけられるために生み出された物ではないだろうに、高級腕時計の悲鳴の声にも聞こえた。
何とか裏口の扉まで達した無精髭の男はドアを開け外に出ると機械音がする方へ駆け出して行く。
「ヤバい。これはヤバい事になった。あの噂は本当だったんだ。本当の事だったんだ。なんなんだあいつ。なんで俺の前に急に現れたんだ?俺を殺す気なのか?しかし、今何が起こったんだ?どうやったんだ?どうやってあいつを消したんだ?目の前で消えたぞ?どういうことなんだ?」
混乱した声が聞こえてくる。
今度はスマホを取り出すと誰かに電話しているようだった。
忠告してくれた賭場の主催者にでも電話をしているのだろうか?
アイツなら何かこの窮地を脱する方法を知っているんじゃないのか?とでも思っての行動なのだろうか。
無駄だというのにバカなやつだ。貴様がルールを守らずいつまでものさばっていたからこうなったんだろ。
諦めてクタバレ。
「くそっ!何で出ないんだ!」
悪態をつきスマホを地面に叩き付けていた。
裏口から顔を出した俺の姿を確認すると、全速力で大型ダンプの方に走って行く。
運転席に近付くとドアを叩く。運転手はいきなり社長が現れた事にびっくりし、慌ててドアを開けていた。
「ど、どうしたんです?社長?」
「オイ。あいつを轢き殺せ!」
自分達に向かってきて歩いて来ている俺の方を指差す。
「えっ!あの少年をですか?」
いきなり来て何を言い出すんだと思い不思議そうな、驚いたような表情になっているようだった。
「そうだ!早くしろ」
何故そんなことを言っているのか意味は分からないが、あまりの剣幕におののき、ダンプの運転手は訳も分らないまま俺に向かってダンプを突進させてきた。
『ガガガガ、、』轟音が鳴り響き俺に向かって大型ダンプが突進してくる。
『パッサーーン』
俺は大型ダンプごと斬り捨てた。
奥義凍鶴を使える俺にとってはダンプだろうがなんだろうが関係ない。全ての物質を一瞬で凍結させ粉々にすることが出来る。
キラキラと氷の微粒子が舞う中、止まることなくこちらに向かいゆっくりと歩いてくる俺の姿を確認すると、声にもならない奇声を発し別の重機の方へと走って行った。
「鬼だー、あれは鬼だ!座敷わらしなんて表現できるような者ではない。あれは悪鬼だー」
誰が悪鬼だよ!悪鬼はお前等だろ。
重機が作業している現場に到着すると、運転手に向かって先程と同じことを言っているのだろう。
作業をしていた全ての重機が俺の方へ向かって突進してきた。結果は大型ダンプと一緒だ。次々と消されていく。
「う、うわぁーーー」
無精髭の男は再び奇声を発すると、近くに合ったショベルカーに乗り込み、ショベルの部分を振り上げ襲い掛かってきた。
『ガガガガ、、』
轟音を上げフルスロットルでこちらに向かってき、俺に向かってショベルを振り下ろしてきた。
「救いようのない奴だな」
俺は躊躇することなく薙ぎ払った。
無精髭の男は声を上げる間もなく、光の点と化し空中に漂い消えていく。この現場にいた者達はこの世から完全に存在を消され消えてなくなってしまった。
俺が現場に到着してからわずか10分足らずの出来事だった。
辺りから機械音は消え、自然の音が聞こえるようになってくる。
この心地よい音こそ、この村の本当の姿なのだろう。小鳥のさえずりが聞こえ、小川のせせらぐ音、風の流れる音が聞こえてくる。
重機の音がしなくなったのを不思議に思った住人達が次第に集まり始めた。集まった住人達は強面の男達が沢山闊歩していた現場が、水をうったように静まり返っているのを不思議に思い、辺りの様子を伺い出す。
「なんだ?なんだ?」
「あいつ等どこ行ったんだ?」
いつも鳴り止むことがなかった重機の音も全くしてない。それどころか重機自体も見当たらなくなっている。
しばらく見て回った後、事務所の建物の裏に社長の女が腰砕けになって座り込んでいるのを見つけた一人が声を上げた。
「おーい、皆んなー、こっちだー」
女は声を掛けても反応がなく、一点を見つめ、わなわなと放心状態になっているようだった。
ここで何かあったのだろうか?住人達はお互いの顔を見合わせた後、質問を繰り返す。
「オイ。どうしたんだ?」
「しっかりしろ!」
肩を揺さぶりったり、目の前で手を振ってみたりを繰り返す。
「キラキラが、、少年が、、社長が、、重機が、、消えた、、」
根気強く話しかけ続けると住人達の問いかけに少しずつ反応するようにはなってきたが、訳の分からない事を口走りるばかりだった。
声も小さくボソボソと言っているのでハッキリ言えと促すが、女に変化なくボソボソと一点を見つめたまま同じ事を繰り返して言っているようだった。
何を言っているのか理解しようとその場にいた住人達は聞き耳をたて、この状況を説明できるような単語は無いかと注意深く聞いていると、、。
「鶴賀彪が、、鬼が、、」
その言葉に一人の少女が反応した。
「鶴賀彪ってまさか!そーだ。きっとそーだ。きっと鶴賀彪さんが来てくれてあいつ等を追っ払ってくれたんだーっ!」
ダメもとで出した手紙を読んでくれ、あいつ等を追い払ってくれたんじゃないかと推測し声を上げる。
「そうだ!きっとそうだ。鶴賀彪さんが来てくれて、あいつ等を追っ払ってくれたんだー!」
「おーー!バンザーイ。バンザーイ。バンザーーーーイ」
住人達は歓喜の声を上げたり、抱き合ったりして喜びだした。
俺は住人達が歓喜の声を上げ、喜びあっている様子をしばらくの間、少し離れた場所、採掘現場を見下ろせる高台から眺めていた。
師匠に人を殺すことは良くないことだと、しこたま怒られた後だけに喜び合っている様子を見ても心が晴れない。
本当にこれで良かったのだろうか?そんな感情が沸き上がってくる。
しかし、ダニを殺すとあれだけの人達が笑顔を取り戻す。やはり俺のしていることは間違ってはいないのだろう。と、自分に言い聞かせその場を後にした。
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