第3話 ゴミ屑は生きる価値なし

「街を歩いていてもイラつくだけか」


 そう思ったので、住まわせて貰っている道場に帰ることにした。


 結局、 今日も胸に拭い切れないモヤモヤ感を抱えながら帰路に付くしかないようだ。


 道場に帰ると師匠が入り口前で怪訝そうな顔をして立っていた。


「お前!また普通の人間に凍鶴を使っただろ。何度言ったら分かるんだ。ああいう場合は殺さないで、適度に痛めつけて警察に引き渡せとあれほどいつも言ってるだろ」


耳が早いな、もう銀行強盗事件の事を知っているのだろうか?それとも別の件か?


 せっかく帰って一呼吸おいて落ち着こうと思っていたのに、師匠に怒鳴り付けられてしまい余計不快感が増してしまった。


 まあ怒鳴られる原因は俺にあるのだろうけど、ゴミを生かしておく理由をきちんと教えてくれない師匠も悪い。


 そう思いながら師匠の言葉を無視し側をすり抜けようとする。


俺の家はこの古びた道場だ。古風なと言えば聞こえは良くなるかもしれない。俺はここで育った。両親は事故で死んだらしい。


 俺は幼少の頃、体が弱く病気を繰り返す子供だったそうだ。それで、心身を鍛えてもらおうと両親はここの道場に入門させたらしい。


 道場は街からかなり離れたところにあり、俺を迎えに来る途中、両親は事故に合い二人とも亡くなったらしい。


 幼少の頃の出来事だったため両親の記憶は全くない。


 師匠が俺の身元を引き取ってくれ、物心付いたときからこの道場にいて生活していたと記憶している。


師匠は鶴賀真城という。最近白髪が目立つようになっては来たが、体躯は絞られ、眼光は鋭く、威厳が感じられる御仁だ。


 俺の名は師匠と同じ姓『鶴賀』とし、名前『ひょう』は両親がつけてくれたそうだ。


「オイ、待て、話はまだ終わってないぞ」


 立ち止まるそぶりもなく自分の言葉に耳を貸そうとしない俺に、大きくため息をもらしているのが聞こえてきた。


「なるほど!確かに心に闇を抱えてしまっているようだな」


 傍らでそのやり取りを見ていたソフロニアが師匠に話し掛けてきた。


 ソフロニアは老年の淑女といった感じの女性だ。優雅さと気高さを併せ持ち、年齢を感じさせないほど端正な目鼻立ちをしている。


 最近、師匠を訪ねよく道場を訪れている。まあ師匠を訪ねてくる主な要件は不義な弟子、つまり俺なのだが。


 ソフロニアの知恵を借りて不義な俺を正そうと何か模索しているようなのだ。


「しかし、この小さな体の少年からこれほどの威圧感を感じるとは、見た目はまだまだあどけない子供だが、もの凄いオーラの持ち主だな」


「ああ。すでに奥義を習得し、私の実力など遥かに超えていて、私の言うことに耳を貸そうとしない困った奴じゃ」


 師匠はため息混じりに両手を広げジェスチャーを加えながら話す。


 余計なお世話だし。


「しかし表情から察するに、ひょう君にはひょう君なりの葛藤があってのことなのだろう。それなりに考えての行動なのだろ?」


「ああ。確かにひょうに切られた奴等はそれ相応の悪人ばかりだ。だがしかし女性だろうが子供だろうが心がくすんでいると感じたら、容赦なく切り捨ててしまう」


 師匠の表情が曇る。


「確かにそれはよくないかもしれんな、う~ん、なるほど、だからこのままでよいのかと思い、私を彼に合わせたってとこか?」


「ああ。私はどうも口下手でな。うまく命の大切さを説明してやれない。悪人だからといって切り捨てていいはずがない。それをわからせてやりたいんだが、何か知恵をかしてくれないか?」


「口で言っただけでは聞く耳もたなさそうだし、だからといって力押しでもいいとわ思えないし。まあ何か考えて見ましょう」


 ソフロニアは顎に手を当て、考え込みながらそう答えた。


「よろしく頼む」


 命の大切さくらい俺も知っている。俺が分からないのは悪い奴ほどのさばり、心優しい人を食い物にし、幸せそうに生きているということだ。


 そんな奴、生かしておく価値あるのか?


俺は幼少の頃、病弱でよく風邪を繰り返していた。心身を鍛えるためにと始めた剣術は、いつしか師を超えさらに高みを目指すようになっている。


 鍛え上げられたのは体だけでなく心も人一倍研ぎ澄まされ、俺の感じる世界は全てがモヤがかかったような感じがし、常にくすんでいる。


 人を殺すことが悪いことだとは分かっている。しかし、他人を愚弄し食い物にしているやつらの存在意義が俺には分からない。


 力、権力を利用し他人を虐げ、自己中心的な考え方をしている奴はなぜ存在する?


 なぜ神は奴等を排除しない?奴等がいなくなれば争いの無い平和な世の中になるのではないのか?


 ブンッ、ブンッ、ブンッ。


 晴れぬ心を誤魔化すように今日も剣を振り続けた。


 俺が神で、俺が排除すればいいという事なのだろうか?


 しかし、師匠はそれはいけないと言う。どうすれば良いのだろうか?答えが見つからない、、。


剣を振り続け、いつの間にか星空になっていた空を見上げ思いを馳せる。瞬く星空を見ながら『死者は皆んなお星様になる』なんて言葉を思い出す。


 あんなゴミ屑でも夜空に輝くお星様になれるというのか?


 笑えてくる。


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