第4話 後悔は先に立たず? 異世界は前途多難!
(ウハハハ!
やらいでか!)
極限の緊張と興奮が全身を駆け巡り、望は狂人さながらのハイテンションを維持したまま、巨大な城らしき建造物。
その入り口部分に迷いなく特攻する。
正確には迷いが無いのではなく、考えてしまうと迷いしかなくなるので、思考自体をシャットダウンさせることにしたのだ。
こうして、はた目から見たら明らかにイカれているという印象の望は、その狂人らしき雰囲気に相応しい勢いで、建造物内に飛び込む。
しかし‥‥。
「へっ‥‥?」
建物内への侵入に成功した望は意外すぎる状況に呆然と立ち尽くす。
その状況はあまりにも想定外だったのだ。
何せドラゴンブレスを消滅させる程の結界が張られているであろう建造物に何の苦もなく入れてしまったのだから。
(おかしいぞ‥‥。
衝撃くらいはあると思っていたのに?)
とはいえ、当面の危機を回避できたことには違いなく、望は安堵感から思わず胸を撫で下ろす。
だが、その直後、迫り来る危機は未だ終わっていないという事実に気がつく。
(待てよ‥‥?
もしかして、ここに張られている結界みたいなものは生物に対しては効果を発揮しないんじゃないのか?)
次の瞬間、冷静さを取り戻した望の思考がある恐るべき結論に辿り着いた。
そして、望が恐る恐る入り口の方を振り返ると‥‥。
「は、ははは‥‥。
ど~しよ~かな~?」
巨体を誇るドラゴンが入り口前で立ち尽くす。
だが、次の瞬間、望はの予想に反し、よくよく見ればドラゴンは全身ボロボロで、入り口から入れずにいる。
(入れないのか?
どうやら賭けに勝ったようだな!)
望はドラゴンに対して煽るにガッツポーズをとった後、即座に背を向けて歩きだす。
ひとまず当面の危機は脱したものの、それで終わりではない。
いや、ある意味、更なる窮地に立たされたと言えなくもないのだ。
何故なら、もう戻ることは出来ないからである。
ならば取るべき道は奥に進むのみだ。
しかし、奥に進めば進むほどに、不気味な威圧感が周囲に満ちていく。
明らかに、この先にあるものはヤバい…。
そう思える程に、この奥の空間の空気は淀んでいた。
(もしかして、この奥に魔王的なやつが封印されてたりして…。
な~んてな。)
心の中で最悪の可能性を考える望。
こうして、歩きだしてから10分程が経過した頃、望は漸く建造物の中心部へと辿り着く。
そこにあったのは祭壇のような場所と光の柱。
そして、光の柱の中の玉座に座す、一人の妖艶な女性だった。
「何だよ、これ?」
「ほう…。
ここに客人とは珍しいな…。」
「しゃ、喋った!?」
望は驚きのあまり後退りした。
だが、この反応は当然といえば当然の反応だと言えなくもない。
何せ、先程まで身動き一つせずにいたのだから、それが突然動きだしたら驚きもするだろう。
いや、それ以上に圧倒的な威圧感も持った存在がそこに居るとなれば、この反応は至極当然のものだった。
「我は生きているのだから言葉を話くらい同然であろう?」
「ま…まあ、確かに…。」
(あ、何か少し不機嫌そうだな?
マズいぞ、これは…。
何とか、ご機嫌をとらないと…。)
「あの、もしかしてなんですが、封印とかされている魔王様とかでしょうか?」
望は顔色を窺いながら紡ぐように言葉を選ぶ。
そして、その問いに対し女性が答えを返す。
「おしいな。
当たらずも遠からずといったところだ。」
「魔王でないなら何故、ここに幽閉されているんです?」
「言ったであろう?
当たらずも遠からずだと。」
「つまり、魔王ではないが魔王に近いということでしょうか?」
「見方によってはな。」
「……。」
見方によってはとはどういう意味だろうか?
「それは、どういう意味でしょうか?」
「ふむ、簡単に言うと我はこの世界の創造主にとっては敵対者にして侵略者という立ち位置にあるのだ。
つまり、逆に我が創造した世界の者にとっては創造主という立場になるということだな。」
「要するに至高神みたいな存在ということですか!?」
「その捉え方で概ね間違いではない。
認識の仕方は人それぞれだからな。」
(うーん、事情は分からないが、とんでもない状況にあることだけは間違いなさそうだぞ。)
そんなことを思いつつ、望は顔をしかめる。
建造物の中心部まて来たはいいが正直、完全に手詰まりだった。
(さて…ここからどうするべきかな。
前門の高位存在に後門のドラゴンという切迫した状況で……。)
望は悩みに悩んだ。
そうして考えに考えた末……。
「あの…。
俺、こことは別の世界から来たんですけど、もしかしてですけど俺が元の世界に戻る方法とか知ってたりしませんか?」
帰る方法を問うこと……。
これ一択だった。
何故、この問いを発したのかといえば単純に高位の存在ならば何か知っているのではないかという淡い期待があったからである。
そして、それに対する答えはというと……。
「やはり、汝は来訪者であったか。
エナジーの保有量が、この地の者にしては異様に高いので、そうだと思っておった。
それで帰還方法だが勿論、知っておるぞ。」
「本当ですか!?」
「無論だ。
ただし無償でというわけにはいかぬがな。」
「有料ってことですか?
でも今は来たばかりなんで、お金は無いんですが……。」
『人間じゃあるまいし、そんなものを対価として望むわけがなかろうが。』
望は申し訳なさそうに告げた瞬間、彼女は一瞬、呆れたような口調で言う。
いや……正確には、それは口から放たれたものではなく、意識内に直接、放たれたものだった。
(ちょちょちょ、これはまさかテレパシー的なヤツ!?)
『うむ、少し違うがまあ、似たようなものだ。』
「そ、そうですか……。
便利だとは思いますが何か、慣れませんね。」
「そうか、ならば口で話すとしよう。」
「お気遣いありがとうございます。」
望は安堵し、胸を撫でおろしつつ目の前の女性に頭を下げる。
そして、再度、彼女に向けて質問した。
「あの……俺のことが分かるのなら貴女様が欲する代価を支払えるかどうかが、
分かるとは思うのですが、それは本当に自分が支払えるようなものなのでしょうか?」
「なるほど……我の力を疑っているのだな?」
「い、いえ……決して疑っているわけでは ――。」
一瞬、目前の女性から寒気がするような威圧感を感じ、望は愛想笑いを浮かべる。
だが、実のところ、彼女の指摘通り望はある疑念を持っていた。
何せ、望は元居た世界でも、こちらの世界でも持たざる者に他ならない。
ならば、いったい何を代価に支払えるというのか?
そんな中で脳裏を過る代価は一つしかない。
その対価とは、つまり、契約者の命……。
だからこそ、望は警戒していた。
いくら持たざるものとはいえ、命まで捨てる気はなかったからである。
しかし……。
「なに、案ずるな。
対価に命を寄こせとは言わぬよ。」
(心を読まれた!?)
「まあ、そんなに警戒するな。
汝のことはよく知っているぞ。」
「知っているって、いったい何を……?」
「うむ、例えば今年で42歳で彼女なし、友人なし、童貞にして独身。
両親なく、友人だと思っていた者から騙され、不幸真っ盛りの人生を継続中こととかな……。」
「ななな、何故、そのことを!?」
「それと彼方の世界では童貞のまま40代になると賢者になるそうだな?」
「なんで、そんな知識まで知ってるんですかぁぁぁ!!?」
知られたくない過酷な過去を知られ、望はいたたまれなくなり号泣しながら床を叩く。
だが、次の瞬間、右手の拳で力強く叩いた床が消し飛ぶ。
「へっ……?
どういうこと……??」
目の前で現実が受け入れられず、望は思わず間の抜けた声を漏らす。
「何を驚く?
これは異世界ゲートから此方に来た際、汝の肉体と精神が異界適応した
結果だ。
要するに今の汝の肉体と精神は彼方の世界の状態より強靭になっているということだよ。」
「異世界に来ただけで肉体や精神が強靭に……。
ということは向こうの世界に戻ったら元に戻れるということですか?」
「いや、一度、異界適応した肉体や精神はある種の進化だからな。
もう元には戻らぬよ。」
「なら、もしこのまま元の世界に戻ったとしたら……。」
「うむ、彼方でも此方でも汝は超越者の類になるだろうからのう……。
まあ、今までの日常は送れぬだろうな。」
「え……マジすか?」
そんな望の問いに彼女は意地悪そうな笑みを浮かべたまま、無言で微笑んだ。
破天荒異世界ライフ! キャラ&シイ @kyaragon
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