第2話 異世界ライフ開始って、ちょっと、これは流石に刺激的すぎませんか!?

(絶景かな、絶景かな~。

いや~、生ドラゴン、スゲー‥‥‥って、見惚れている場合じゃなかったぁぁぁ!?)


ちょっと異世界に憧れていた事もあってか、思わず現状に感激してしまうが正直、そんな悠長な事をしていられる余裕など

なかった。


(あ、ヤバい。

こんな事してたら死んでまうわ。)


ふと、圧倒的な危険にさらされている事を思い出し、再び前を向いて走り出す。


しかし、そんな中、望は不意にある事を思い出した。


(ドラゴンのブレスって、このまま真っ直ぐ走って回避できるものなのか?)


望は走りながら、ふと、そんな事を考える。


その時、脳裏を過ったのは溶岩流の事だ。


ちなみに火山が噴火した際の火砕流のスピードは秒速100メートル程。


火山泥流の場合でも秒速40メートル程だという。


(そして、人間が100メートルを10秒で走る場合の平均速度は時速36キロくらいだったな?)


現状から計算した現状把握‥‥その結論は。


(俺は確か100メート、18秒くらいだから‥‥ブレスを避けるの無理じゃね?)


圧倒的に絶望的な結論に、愕然とする望。


(本物を見た事はないけど、もし、ドラゴン・ブレスがイメージ通りのものなら‥‥。)


ウン、無理!


人間、諦めが肝心だな。


悩めば悩むほど、そんな投げ遣りな言葉が脳内を駆け巡る。  


残されるのは絶望のみだ。


だが‥‥。


(あれ?

それにしても俺、こんなに速く走れたっけ?)


直後、望は奇妙な違和感に気付く。


羽のように体が軽く、これだけ走っているのに息切れや疲れもない。


それはまるで重力が極度に軽減されたような摩訶不思議な感覚だった。


(これなら、もしかして逃げ切れるかな?)


その事実が心の中に淡い期待を生じさせる。


しかし‥‥その瞬間、背後から。


ゴゴゴゴゴォー!!


という轟音が鳴り響く。


そして、それとほぼ同時、強烈な熱さが背中を襲う。


「ほぎゃあああ~!? あちッ!

あちち!! 」


この熱さなら恐らく、それなりの火傷を負った可能性はあったが、望にそれを確認している余裕はなかった。


後方から。


ズドンッ! ズドンッ!


という足音が鳴り響く。


それは間違いなく、ドラゴンが迫り来る音に他ならなかった。


「勘弁してくれ! 俺がいったい何をしたっていうんだよ!?」


望はこの理不尽な仕打ちに毒づきながら、ただひたすらに森の中を走り続ける。


まさに絶望的な状況だった。


恐竜のように巨大な生物は動きが遅いと言われるが、自分を追いかけてくるドラゴンはやたらと速い。


どのくらいと言われると分からないが、体感からして少なくとも車並みの速度は出ているような気が‥‥。


その直後、不意に望はこの現状における大きな違和感に気付く。


(あれ?

ドラゴンが車並みの速さで追ってきているのに何で俺、追い付かれてないの?)


普通なら、どう考えてもあり得ない事だ。


この状況を成立させるには最低でも自分も車並みの速度で移動できなければならない。


(絶対におかしくね?)


そんな事を考えつつも望は走り続けた。


そして‥‥。


(ラノベや漫画の異世界転生物のように知らんうちにチート能力が身に付いていたとかだったら、もしかしたら‥‥。)


ドラゴンを素手で撲殺できるんじゃね?


そんな現実味の無い可能性について思い付く。


(流石に無理だろ、そんなの?

やるとしても、それは最後の手段だ。)


だが、当然それを実践しようとは思わなかった。


勇敢さと無謀は違う。


だから選択肢は逃げる一択しかない。


そうしているうちに不意に森は途切れ、視界がひらけてくる。


その先にあるのは巨大な城‥‥。


(いや、要塞か?

東京ドームよりはデカイよな?)


横幅は東京ドームより遥かに大きく、その高さは東京タワー並。


更にその入り口は後方から追ってくる巨体のドラゴンすら普通に入れる大きさだ。


あまりにも巨大な建物を目にし一瞬、驚愕するが、しかし、今はそんな事に驚いている場合ではない。


今はどうやってドラゴンから逃げ切るかの方が大切だからだ。


この巨大な城っぽい建物に侵入し、ドラゴンから逃げ切れる。


ただ、それのみだ。


(よっしゃぁ! ここに入れば逃げ切れるかもしれないぜ!)


そして、望は意を決し、走り出した。


起死回生の一手を掴むために。

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