第5話 ポテトサラダ(マッシュしたジャガイモの卵ドレッシングサラダ)

 ごめんなさい、昨日はさすがに書く暇がなかったわ!


 何があったかと言うと、案の定の話だ。御者が裏切っただけである。その結果、盗賊団のアジトを壊滅させる流れになってしまい、色々あったせいで昨日は書く暇がなかったので、今日、停留所でゆっくりできているからまとめて書こうかなという感じだ。そのおかげでご飯は簡素なものになっちゃったのが悲しかったわね。


 というわけで、おおよその流れを書いていくわね。


 ルヴィーサがあたしの1個下だと判明した翌日。アネッサにラーメン店を紹介しようとして空ぶってしまった日に停留所の村を出発した。そしたら、しばらく進んでいくとなぜか森の方に進み始めたから、あたしはすぐに御者に問い詰めようとしたわけ。


「どういうつもり?」


 もちろん、いつでも首を撥ねれるようにグレートソードを構えてね。


「へ、へへ、お客さん。う、後ろを確認してくだせぇ」


 御者がそう言うのと、アネッサが叫ぶのは同時だったと思う。


「プリシラ! 盗賊の馬が追いかけてきてる!」


 確かに、森の中の道を、あたしたちの乗っている馬車を囲うように盗賊どもの乗った馬が追いかけてきていた。


「戦闘態勢よ!」


 と言っても、すぐに動けるのはあたしだけだろう。馬車は御者側と後ろ側しか出入りできないようになっているからだ。だから、あたしは馬を奪うことにした。


「へへへ、連絡通りだな!」


 ホイホイ近づいてきた馬鹿があたしに気づく。


「っておい、なんで戦闘態勢で……」


 あたしはそいつをグレートソードでぶった切って、落馬させる。そのまま、その馬に跨り、馬車の後部に移動する。もちろん、あたしにだって乗馬の心得はある。


「あたしが周辺の敵を倒すわ。エルマンさん、馬車を、みんなをよろしく頼みます!」

「ああ、任せときな」


 たぶん、意味は伝わったかなと思う。

 しかし、この馬は何というかしっかりとした馬だなと感じる。ちゃんと育てられているに違いない。だったら、馬ごと切り殺すのはこの馬の仲間を殺すに変わりがないので、なるべくなら避けた方が良いに決まていた。


「ごめんね、お前の主を殺してしまって。ただ、もうちょっとだけあたしに付き合ってね」


 あたしが馬を撫でると、ブルンと返してくれたので、あたしの気持ちは伝わったのだろう。あたしの操作を受け入れてくれるみたいだった。


「いくわよ!」


 人馬一体とまではいかないけれども、左手でグレートソードを握り、右手で手綱を操作して、盗賊を撃退するために動き出す。今現在かなりの速さが出ているので、せいぜい残り時間はそう多くないだろう。効率的に倒していく必要がある。

 まずは近場の敵だ。


「ちっ! 何馬を奪われてやがる!」


 悪態をついている奴に近づいて、グレートソードを振るう。弾き飛ばされて落馬する。っていうか、完全に吹き飛ばされてどこかに行ってしまった。


「このアマぁ!」

「大人しくしてればいいものを!」


 盗賊連中に、あたしが容赦する理由はない。どちらにしても、あたしたちの命を狙ってきた連中だ。相応の報いは受けてもらう必要がある。そもそも、この勝負は敵をある程度落馬させればいいだけの話だ。グレートソードを持つあたしには、圧倒的に有利なゲームである。


逸騎刀閃いっきとうせん!」


 馬を巻き込まないように、グレートソードを振るう。ズバズバァッっと二人を真っ二つに叩き切る。馬の上には人間の下半身だけが残るけれども、操作する人間が居なくなり馬は足を止める。ただ、あたしの危険感知にはまだまだ敵がいることを伝えてきていた。


「何やってんだ! 女相手に!」

「あの女、おかしいですよ! グレートソードを振りまわして!」

「チッ! だったら、馬車の方を狙え。そっちに女エルフがいるんだろう?」


 なんていうか、統率の取れた悪党どもだった。あたしを無視して馬車の方を確保に動いたのだからね。

 そうはさせまいと動いたとき、あたしと馬車の間に大柄な男が立ちふさがる。オーガの男だった。特徴的な角、大柄な肉体。人間とは違う肌の色。そして、担いでいるのは鉄のこん棒だった。


「させねぇよ!」


 振るわれるこん棒をあたしはグレートソードで受ける。重心をずらして、あたしが落馬しないように、威力もそらす必要があった。


「ハハァッ! 俺様の攻撃を受けるとはなぁ!」


 お互いに馬に乗っているとはいえ、オーガの攻撃はそれをものともせずに振るわれる。あたしの馬も自分の身の危険を感じて避けてくれているが、騎乗戦は相手の方がやはり上手のように感じた。

 数度打ち合うだけで、オーガ自体の技量も高いことがわかる。あいつが乗っている馬も、主人に応えてくれているように感じるし、あたしの馬に対して威圧をかけているように感じる。ただ、降りれば当然馬車から相当引き離されてしまうので、不利な騎乗戦を続ける必要があった。


「お前が音に聞く『小型オーガ姫』か! 確かにグレートソードに振り回されてる感じもしないな!」


 楽しそうにこん棒を振り回しながら、余裕の笑みでそう喋るオーガ。しかも、あいつの攻撃はあたしの馬を殺しかねないので、あたしは剣で受け流さざるを得なかった。こいつ相手に敵の馬を殺さないなんて手加減ができる余地はなかった。


「はあぁぁああぁあぁっ!!」


 あたしはグレートソードを真上から振り下ろす。だが、こん棒で受け止められてしまう。


「面白い、面白い女だ!」


 どんだけ堅いのよ、あのこん棒! 確かに馬上のせいで足腰に踏ん張りがきかないけれども!


「俺様が居なかったら、お前ら全員あの小娘にやられてたかもな!」


 言うと同時にあたしは弾き飛ばされる。そのせいで、大きく距離を開けられてしまった。そして、そのせいで馬と一緒に倒れてしまう。あたしの上に馬が倒れてきて重かった。


「仲間を取り戻したかったら、この道を真っすぐ追いかけてくるんだな。その時はまた相手してやるよ」


 そう言って去っていくオーガ。あっという間に、見えなくなってしまった。てか、あたしのことを誰もさらおうとしなかったわね……まさかおいていかれるとは。とどめを刺そうとしなかった理由もわからない。

 ……近づいてきたら金〇潰すけどさ。


「よっこいしょ」


 あたしはあたしの上にかぶさっていた、さっきまでの相棒の馬を持ち上げて起こしてあげる。


「ブルヒヒン?!」


 起こしてあげたのになんでびっくりしてるんだろ?

 まずは、自分の怪我を確認する。特に怪我は無いかな。首から下はしっかり着込んでいるので、脱がないとわからないけれども。骨折はない。今両足でたってるし、腕を動かしても特に痛みも無い。お腹は空いたけれども、調理道具とかは全部馬車の中なので、漁られる前に取り返したいところである。

 エルマンさんについては心配してないけれど、アネッサとルヴィーサは心配である。まあ、アネッサに関しては貞操の心配は無用だけどね。あの子だし。ただ、ルヴィーサはエルフである以上、そう言った危機がある。好餌家にとっても、若い女エルフの奴隷なんて高く売れるだろうしね。

 つまり、あたしたちの中で一番価値があるのはルヴィーサという事だ。

 ……あたしも一応人間ヒューマンの女の子なんだけどね!


 むなしくなってきたので、あたしはグレートソードをひょいと拾って、馬にまたがる。


「ごめんけど、追いかけてもらえる?」

「ヒヒン!」


 馬は、任せろとばかりに唸ると、走り出した。

 しかし、面倒なことになっちゃったなぁなんて思う。だって、御者が裏切るほど金を持っていて、馬もしっかりと立派に育てられる環境を持った盗賊団である。もはやその辺のただの盗賊の規模ではない。オーガまで仲間にいたわけだしね。

 あたしを放置して去って言った理由はわからないけれども、どうやら盗賊団はあたしの手でつぶす必要がありそうだった。


「待っていて、みんな!」


 あたしは急いで馬車を追いかける。しばらく道なりに進んでいくと、先ほどの盗賊団と似たような恰好をした連中が待っていた。


「そこの女! 止まれ!」

「急いでるの!」


 目的はわからないけれども、止まる理由はない。あたしは無視して突っ切ることにした。


「そのまま突っ切って!」

「ヒヒン!」

「え、ちょ、止まれええええええ!!」


 バキィ!っと蹴飛ばされる音がして、人が舞う。どうやら馬が蹴り飛ばしたらしい。


「やるわね、えらい!」

「ヒヒン!」


 あたしは馬を撫でてあげる。仮に一般人だったとしても、盗賊たちの通った後の道を封鎖している時点で馬に蹴り飛ばされても仕方が無いだろう。あたしたちは猛スピードで盗賊団と馬車を追う。

 しばらく進んでいくと、一つの集落に到着した。結構大規模な盗賊団にもなると、集落を形成してしまうことがある。立地は入り口以外から侵入できないような山の合間みたいな場所だった。

 そして、馬車はあたしが追い付くのが早かったせいかまだ片付けられていない。

 あたしは馬の脚を止めると、馬から降りる。


「いい子、ここで待っててね。もしかしたら、今からお前の仲間を殺すことになるかもしれないから」


 むやみやたらな殺生は当然ながら嫌いだけれども、残念ながら盗賊団となれば話は別だ。特に今回は人間とオーガの混成盗賊団なので、結構やっかいであるし、みんなを助けるために、それ以外にかまっている暇はなかった。

 あたしが撫でると、馬はなついてくれているのがわかる。もしかしたら、単に女好きの馬なのかもしれないけれども。


「さて、襲撃の準備をしようかしら!」


 あたしは、手元にあるポーチから薬品を取り出す。そこには、短時間だけれども能力を上昇させる飲み薬があった。と言っても、常備できる本数はそれほど多くないんだけれどね。一本ずつぐいっと飲み干すと、独特の味が口の中を満たした。


「……不味いわね」


 飲んで少しすると効果を発揮する、ドーピング薬みたいなものだ。町の錬金術師が普通に売っているものなので、ちゃんと出自ははっきりしている。

 あたしは身体強化の魔法を発動させる。『狂戦士化』はあのオーガとの戦いまで温存することにした。探索なんか苦手だし、わかりやすいのが一番だから真正面から突撃する。もちろん、斥候とか他の仲間がいるならば、相応の作戦に相乗りするけれども、あたし単独でやるならば、力で屈服させるしかない。

 あたしはグレートソードを構えて、門番の前に立つ。


「な、何者だ?!」

「そこの馬車の持ち主よ。人質を返してもらいに来たわ。大人しく返してくれるなら、引き下がってもいいわ」

「馬鹿が、一人でどうするつもりだ?」

「ヒェッヒェッ! メスが一人で来たってことは犯されに来たってことだろぉ!」

「だが、こんなバカでかい剣を構える奴が人間の女に見えるってのかよ!」

「でかい乳ぶら下げてるやつが女じゃないわきゃねえだろうが!」


 どうやら、交渉決裂である。まあ、期待なんて全くしてなかったけれども。


「男の怖さ、見せてやるぜぇぇ!」


 居の一番に飛び掛かってきた男を、あたしは一刀両断した。手に人間を切った感覚が伝わり、嫌な気持ちになるけれど、襲ってきた以上はである。


「は?」「嘘だろ……」


 ざわめく連中に、もう一度言ってやる。


「ほら、どうしたのかしら? あたしの仲間、さっさと返しなさいよ」

「舐めやがってクソアマ!」

「たった一人でこれだけの人数、相手にできねぇだろうがよ!」

「おい、ザッスカルさん呼んで来い!」


 わらわらと出てくる盗賊団連中。傭兵落ちとかもいるのかな? どちらにしても、度し難い連中であることには変わりない。


「来い!」


 あたしがそう言うと同時に、1対多の集団戦闘が始まる。

 ……まあ、あたしがこれを書いているっていうことはつまりはそういう事なんだけれどね。

 片手剣で切りかかってきた男を、剣もろとも叩き切り、暗殺者のように近づいてきた男は顔面を殴って陥没させる。3人同時に飛び込んできた馬鹿は薙ぎ払う。そうやって撃退しながら、あたしはずんずんと門の方に前進する。


「う、うわあああああ!」

「誰か止めろおおおおおお!!」


 矢で打たれたけれども、危機感知を鍛えてきたおかげで紙一重で回避でき、その方向に向かって石を投擲とうてきして投げてきた奴を潰す。気が付けば、あたしの身体強化は、『バーサーク』から『狂戦士化』に自動で切り替わっていたように思う。それぐらいあたしの魔力が闘気に変換されていた。あたしは来る敵を叩き切りながらずんずん前進していき、ついに固く閉ざされた門のまえにたどり着いた。鉄柵門なんて、あたしにはあって無いようなものだ。


「はああぁぁあぁ!」


 斜めに叩き切り蹴破ると、門が破壊されて解放される。

 なんだかだんだんと、あたしに襲い掛かってくる奴が少なくなってきている気がする。ま、普通は死にたくないわよね。あたしから周囲5mが空間になっていた。


「よお、来たな、『小型オーガ姫』よぉ」


 先ほどのオーガの声が聞こえた。


「あたしをその二つ名で呼ぶな!」

「こっちはおめぇの仲間を人質にしてんだぜ? それでも真正面から乗り込んでくるとはよぉ。たまげたぜ」


 オーガのそばに、アネッサもエルマンさんもルヴィーサさんもいないのが見える。


「だがまあ、おかげで逃がしちまった。陽動には充分だったぜ?」


 さすがはエルマンさんだなと思った。騒ぎを聞きつけて、うまく逃げだしたのだろう。あたしは少しだけ安堵した。ただ、あたしは気を緩めない。どうせこんなやつらの言うことなんて決まり切っているのだ。


「お前さんには責任を取ってもらわねぇとな!」


 あたしの前にオーガが立ちふさがる。


「俺様の嫁になれ!」

「断る!」


 あたしの剣とオーガの鉄のこん棒が打ち合う。激しい衝撃波が発生して、盗賊の何人かが吹き飛ばされるのが見えた。あたしは、今度こそ意図的に『狂戦士化』魔法を使う。自動で段階的に上がっていた闘気が膨れ上がる。そして、語彙力を失う。5回ぐらい打ち付けあい、目の前のオーガがパワー負けしていないことを感じ取る。お互いに地面に足をつけての戦いなのだ。お互いに踏ん張りが効く以上は、力の差では勝負がつかなそうだった。


「あ、ありえねぇ……小娘がザッスカルさんと真正面から打ち合うだなんて……!」

「ど、どんな体してんだよ?!」

「い、挿入れたらそのまま千切り盗られそう……」


 あとでボコす。

 あたしは心の中で悪態をついて、目の前の戦いに集中する。このオーガは当たり前ではあるがめちゃくちゃ強かった。気を抜けば、あたしの剣の方が負けて折られるんじゃないかっていうくらいには、高い技量を持っていたと思う。さすがは戦闘種族と呼ばれるだけはある。


「ははは! やるな!」

「おおぉぉおぉぉぉ!!」


 たまに援護で魔法や矢が飛んで切るけれども、あたしはそれを切り捨てつつもオーガとの戦いに集中していたと思う。さすがに回避しきれずに矢じりが掠めたりはするけれども、それでも戦いに支障はなかった。むしろ、少し血が流れたおかげか冷静になれたところもある。

 オーガの方も、あたしの攻撃を真正面から受けており、何度か当たってはいた。

 だから、あたしは必殺技を使うことにした。全力全開の一撃!


「おおおおおおおおおおお!」


 あたしは構えて力をためる。そのまま、地面を蹴飛ばして大きく飛び上がる。


「来るか!!」

「はああああぁぁあぁあぁああ!!」


 上段に構えた剣を、あたしの全体重と剣の全重量をもってオーガに叩きつけた。


「ちぇすとおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」


 オーガの鉄のこん棒をたたき割り、胸からまっすぐに叩き切る。そのままの勢いで剣が地面に叩きつけられて、衝撃波が発生する。地面があたしを中心に少し陥没する。


「グフッ……、負けた、ぜ……」

「師匠直伝、雲燿の太刀!」


 オーガはあおむけに倒れて、この戦いはあたしが勝利した。

 あたしが周囲を見渡すと、全員が戦意を喪失しているように見えた。結果、あたしはこの盗賊団を壊滅させたのだった。

 どうやら、このオーガが最大戦力で、構成員のほとんどは人間、ゴブリンだったみたい。ボスは取引ができる人間がやっていたみたいで、あたしが剣を突きつけると失禁しながら命乞いをしていたわ。御者については、後でエルマンさんたちと合流したときに捕獲していたみたい。


「……プリシラって、強いのね。本当に銅級の冒険者なの?」


 ルヴィーサはそう呆れたように言われたけれども、あたしは戦闘と料理以外は苦手なことが多いのだ。


「冒険者って色々な素質が必要なのよ。強さだけじゃ銀にはなれてもそれ以上はむつかしいわ。そもそも、銀以上って面倒くさいしがらみが増えるし」


 あたしはルヴィーサにそう返した。

 というわけで、戦後処理である。あたしがにらみつければもはや誰も口答えしないので、その後の処理は簡単だった。アンデット化しないようにあたしが殺した盗賊たちは焼き、埋葬する。奴隷用に捕獲されてた人たちは、解放して近くの町まで送ることを決める。その他盗品に関しては、持ち主がわからないので、後で冒険者酒場に遺失物として届けることにした。

 エルマンさん曰く、


「この砦には『魔の根源』は無いみたいだぜ」


 との事であった。その他もろもろの処理はエルマンさんの得意分野らしく、エルマンさん指揮の元、粛々とことが進んでいった。逆らう奴はあたしをダシにいう事聞かせてるみたいだけれども。

 アネッサはと言うと、この集落というか、砦がどうやら遺跡だったらしくて、興味深げに観察しているところを発見した。


「アネッサ、何しているの?」

「ん? ああ、プリシラ! 戦いお疲れ様。わたしはここが遺跡だったことに気が付いて、色々と見て回っていたよ。プリシラが制圧してくれたおかげでゆっくりと見れるから、非常に助かっているよ」

「ひどい目に合わなかった?」

「その前に、エルマンが逃がしてくれたからね。その代わり、盗賊にかぶっていたフードが破られちゃったせいで、わたしがバイオロイドだって知られてしまったよ」


 アネッサの耳の部分は機械の部品が露出している。赤く長い髪でも隠れ切らないので、いつもフードを被っているのだ。


「ま、あの二人はわたしのようなバイオロイドに偏見はないみたいだったけれどね」


 バイオロイドって個体数が少ないらしいのよね。実際、あたしはアネッサに会うまでは見たことが無かった。あたしがアネッサが実はバイオロイドだって知ったのは割と最近なんだけれどね。あたしのことを信用してくれたから、教えてくれたみたい。


「それにしても、『ちぇすと』ってなんだい?」

「師匠の剣術の掛け声みたい。意味は知らないわ」

「ふむ、君の師匠については興味深いね。和国でもそのような掛け声をする剣術は無かったと思うよ」

「まあ、あたしは師匠の剣を信じてるから、由来なんて気にしたことが無いわね」


 確か、示現流じげんりゅうと言うらしい。


「師匠との出会いとかも覚えているなら手記に書いたら面白いかもしれないね」


 アネッサはそう言うけれども、書くつもりはあんまりないかな。


「そう言えば、けがはどうしたんだい? 腕や足にかなりひどい裂傷があったように思うけれど、ふさがっているみたいだからね」

「ああ、エルマンさんに治してもらったわ。エルマンさんって回復魔法も使えるからね」

「そうか。まあ、確かにエルマンはどこか凄腕の人間だとわたしも思うよ。神聖魔法の腕もそうだが、脱出する際の戦闘では、彼が一番奮闘していたからね」


 エルマンさんの素性、なんだかあまり知りたくないなぁ……。絶対厄ネタである。ルヴィーサについてもそうだけれどね。エルフがどうして旅をしているのか。そもそも、旅をしている人間なんて厄ネタの宝庫であるのは間違いないけれども。


「さて、プリシラ。さっきからおなかの虫が鳴いているみたいだが、わたしと話していてもいいのかい? わたしは今回ほとんど動いていないから、食事は不要だけれども、君はそうもいかないだろう?」


 あたしは顔が赤くなった。


「そ、そうね。ちょっとご飯貰ってくるわね」


 あたしはさっそく食糧庫に足を向けた。食料を貰ったら馬がまだいるのかを確認しないとなと思っていた。別に紐を括り付けてたわけじゃないしね。それにしても、馬を殺さなくて済んだのは良かったことかもしれない。


 さて、ご飯である。

 食糧庫を確認すると、結構備蓄がされていて、干し肉やベーコンがあることを確認できた。食糧庫はひんやりとしていて、保存がききそうな感じ。

 ただ、さすがに疲れていて料理をする気力は無かったので、火を起こして焼いて干し肉をつまむことにした。火を起こして、直火であぶって食べるだけ。それなのに、干したおかげかうま味が濃縮されていて、最高においしい! しかも、お肉は牛だった。


「うんま~~~~~♪」


 残念ながらあたしはお酒は嗜まない。だけれども塩辛いので水分が欲しくなってくる。残念ながら備蓄には酒樽はあるものの飲み水は無いので、持参の水を飲んでのどを潤す。

 周囲はエルマンさん指揮のもと盗賊連中も含めて忙しく動いている中、ちょっと申し訳ない気もするけれども、おなかを満たすのが優先度高い。誰も文句は言わないだろうしね。

 ちょっぴり元気が出たので、あたしはあたしの荷物から調味料を取り出して、料理をする。


 ジャガイモを湯がいて、マッシュする。そこに一口大に切った干し肉、火を通したニンジンと玉ねぎ、輪切りにしたキュウリを塩もみしたものを加えて、お手製の卵ドレッシング(旅の中で教えてもらった)と塩コショウをかけて和える。お皿にレタスを盛り付けて、その上にマッシュしたジャガイモの卵ドレッシングサラダをのせて完成!

 卵ドレッシングは、オリーブ油と卵黄とレモン汁を撹拌かくはんして作るドレッシングだ。よくもまあこんなものを思いついたものだと感心するけれどね。そのまま舐めても美味しい。ほんと、思いついた人は天才である。

 マッシュしたジャガイモの卵ドレッシングサラダはやはり、干し肉の塩気と一緒に食べると非常に合う。美味しい。これならパクパク行けちゃいそうだった。もちろん、盗賊なんかにはあげない。


 結局、昨日はそのまま盗賊団のアジトで一泊することになってしまったのだった。

 事後処理が多すぎたみたいね。いや、あたしが殺し過ぎたというのが実際みたいだけれども。後悔はしてない。向かってくる方が悪いし、そもそも悪いことをしていたのは彼らの方だからね。

 あたしも事後処理を手伝っては疲れ切ってしまって、ボスの部屋でぐっすりと寝てしまったのだった。ボスの部屋だけあって、ベッドはしっかりしていて、ゆっくりと疲れを取れたのは良かったわね。服については、もちろんあたしの荷物から着替えがあるので着替えさせてもらったわ。さすがに穴が開いて血が付いたボロボロの服を着て寝るのは気持ちが悪いからね。

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