第4話 プリシラの手料理と幻のとんこつラーメン

 アネッサから言われて、道中だけれども書こうかなと思う。

 こういうのって習慣化しないとよくないよって言われたのよね。

 なので、今日はご飯以外に特に珍しいことは何もなく停留所に泊っているけれども、今日あったことを書いていくわ。


 昨日の時点で馬車を1台チャーターしたので、朝はスムーズに出発することができた。御者がとかで別の人になっちゃったトラブルはあったものの、無事出発できた。

 え、あ、うん。まあ、何となく察してるけれどね。今日は特に行動を起こすでもなくちゃんと御者をやってくれてたので、ぶちのめしてないわ。アネッサとルヴィーサさんは特に変に思ってないみたいだけど、さすがにあたしのおっぱいを見てる目線ははっきりわかっちゃうわよね。それで気が付いたというわけでもないけれども。


「エルマンさん」

「お、プリシラさんも気が付いたか」

「いや、最初からわかってたでしょ」


 と、エルマンさんとは会話済みである。まあ、女の子ばかりのパーティなのだ。そういう危険はあるあるなのよね。

 たぶん、業者の誰かとならず者連中が裏で通じてたのかしらね? 予約したあたしとしては不本意である。

 てか、襲うつもりだったとしても、武器はどうするつもりなんだろう? 冒険者が武器を持っていたら、ならず者連中なんて魔物ゴブリンよりも殲滅するのは楽なのに……。まあ、書いている現在時点では何もなかったし、どういうつもりかはふたを開けてみるまで分からないけれどね。

 おそらく、襲ってくるのは3日目の夜になるだろうしね。理由は、その日は夜も完全に野営だからだけど。


 さて、そんな考察はさておき、今日の昼ごはんは久しぶりの自炊である。夜は停留所となる村があるからそこでご飯を食べられるけれども、お昼ご飯は自炊しないといけない。

 あたしが一番悩ましかったのはこのお昼ご飯に何を食べるかである。簡易的な調理器具はあたしは持ち歩いているけれども、食材は普通に荷物になるし、保存方法によってはすぐ腐っちゃう場合もあるので、何を作るかは結構気を遣う。

 思いつくのは、あたしの故郷の料理のボルシチかなぁ。ただ、別に寒いわけじゃないしここはミネストローネにしようかな! この国の料理だしね。というノリで料理を開始した。

 あたしは自分で作ったコンソメと似た味を出せる魔法の粉を常備しているので、味の深みも出せるしね。時間があればコンソメスープも作れるけど、そこまでの手間は掛けたくない。

 魔法の粉コンソメのレシピは、秘密だからそこまで書かないけど、簡単に言えば野菜やお肉を細かく砕いてオーブンで焼いて乾燥させて粉末状にしたものである。この粉をお湯に溶かして味を調えれば、コンソメスープもどきになるというわけである。この国に来る少し前に教えてもらったものを少しずつ改良してきたものなので、レシピは秘密なのだ。


「……プリシラ、野営用の調理器具、すごいのね」

「あたしって、旅の一番の楽しみがご飯だからね! 野営でもしっかりおいしいもの食べたいじゃない!」

「そう、すごいのね」


 ルヴィーサさんが若干びっくりしてたが、あたしとしてはこだわりポイントなので譲れない。調理器具だって鍛冶屋に頼んで、コンパクトに片づけられる鍋(取っ手を付け替えられる機能がある!)や食器類、火の回りのセットを揃えている。さすがに、これを圧縮しないで運ぶのは面倒だから、空間魔法のかかったバックに入れているけれどね。


「はぁ~、見たことない野営器具だな~」

「こだわりすごいわよね~」


 あたしはちゃっちゃと野営器具……コンパクトキッチンセットをくみ上げる。

 そして、料理を始める。ちなみに、水は野営地には必ず水源があるので、そこで汲んでくれば問題ない。

 まずは、豚バラブロックを食べやすい大きさにカットする。

 ニンジン、玉ねぎ、ジャガイモ、ホウレンソウなどの野菜類を一口大にざく切りにする。皮は出汁になるからお茶のパックに入れておく。

 ニンニクはみじん切りにして、鍋にオリーブオイルを入れて、ニンニクの香りがオリーブオイルに移るように炒める。

 みじん切りにしたニンニクが撥ねないように注意! 火傷しちゃうからね。

 ある程度香りが移ったら、豚バラを入れて炒める。おおよそ白くなればいいかな。好みによるけど、しっかりと焼いて食感を残すのも悪くないよね。ただ、今回はスープなので、色が変わったら堅い野菜……根菜を入れて炒める。

 ある程度火が通ったら葉野菜を入れて軽く火入れして水を灌ぐ。およそ具材が浸るぐらい入れたら、野菜の皮入りお茶パック、ローリエの葉を入れて、20分ぐらい煮込む。水が減ってきたら適宜追加しておく。もちろん、灰汁は取り除きつつね。ローリエの葉、野菜の皮を取り出して、とろみをつけるための薄力粉、味を決める魔法の粉コンソメを入れて、ひと煮立ち。味見をして、足りなければ塩を追加して、味を調えれば!


 ミネストローネの完成!


 都市部ではトマトが流通しているので、赤いミネストローネも流行ってるけど、洗い物的な意味ではこっちの方が好きかな。トマトの赤色って服とかにつくと落ちにくいしね。


「できたわよ~!」


 各々休憩していた面々が、集合する。


「お、ミネストローネか」

「結構、具が多めなのね」

「わぁ~。すごいねぇ~」

「え、あっしもいただいてもいいんっすか?」


 あたしは御者も含めて料理をふるまう。裏切るまでは仲間だしね。本来なら副菜も作るのだけれども、冒険者の集まりだし問題ないかなと思っている。

 もちろん、味は最高!

 各ベーコン大に切った豚バラは食感を残しつつホロホロになってるし、野菜にもしっかりと火が通っている。魔法の粉コンソメの味の効いたスープもおいしいし、おいしくないわけがなかった。

 ま、あたしが作ったしね!


「うまっ! これ料理店出せるんじゃないか?」

「……美味しい」


 エルマンさんもルヴィーサさんも満足していただけたようで何よりである。


「量が多いのもいいわよね。しっかりとおなかにたまるわ」

「いやぁ、野営でこんなうまい料理が食べられるなんて思っても見ませんでした!」


 アネッサも御者も満足してもらえて何よりである。

 今回は6人前で作っていたので、残りはあたしが食べて終了である。鍋や食器類を洗い、セットを片付けて、全体を含めて1時間10分ぐらいの休憩になったけれども、お昼含めてだしそんなものよね。

 これ以降は小休憩をはさみつつ、一泊する宿泊先の村に移動をした。道中魔物が出てきたりしたけれども、まああたしが居るので特に問題なく片付いた。


 ……アネッサ曰く、あたしたちの戦う姿が印象に残ったから、書いた方が良いと言われたので、書きます。


 馬車に揺られて道中、あたしは敵意を感じて、馬車の後方から顔を出して周囲を伺ったのよね。まあ、アネッサ以外は気が付いていたみたいだけれどね。


「馬車を止めて!」


 あたしがそう言うと、馬車は止まる。

 あたしは周囲を警戒しつつ、抜剣して馬車から飛び降りる。


「え、みんなどうしたのよ?」

「敵よ、たぶん魔物ね」


 アネッサだけ困惑しているけれども、ルヴィーサさんもエルマンさんも臨戦態勢で馬車から降りていた。


「そこ!」


 ルヴィーサさんがそう言って、腕に装備しているクロスボウを射出すると、どうやら当たったらしく、草むらから魔物ゴブリンが飛び出してきた。8体はいる。うち2体は魔物オオカミに跨っている。ゴブリンライダーだっけか。

 あたしは身体強化魔法を発動させる。身体強化魔法や武器を背中に張り付ける魔法は詠唱が無いので助かる。


「魔物か。近くに【魔の根源】が沸いてるかもしれん」

「まずはこいつらを殲滅しましょ!」


 あたしはまず、突撃してきたゴブリンライダーを薙ぎ払うことにした。もう一方はルヴィーサさんが対応するように見えたので、折角だし任せることにした。

 あたしにとって、グレートソードはロングソードと変わらない。長いのでちょっと取り回しにコツがいるだけである。なので、素早い動きを見せる敵だとしても何も問題ないのだ。


「はぁっ!」


 あたしはオオカミごと、ゴブリンを真正面から叩き切る。むしろ、相手が回避できずにあたしの攻撃を受けて、真っ二つになった。


「ひゅぅ~♪ やるねぇ~」


 声が聞こえたのでちらっと見る感じ、エルマンさんは馬車を守るような動きをしている。アネッサも魔法を使って他のゴブリンを撃退していた。あたしも頑張らないとね!

 あたしは残りのゴブリンを処理するために、前に出る。ルヴィーサさんは細剣レイピアでゴブリンライダーと戦っていたのが見えた。なので、魔法で2体減った残りをあたしは殲滅することにした。


「シッ!」


 あたしがグレートソードを横に薙ぐと、3人が巻き込まれる。1人には回避されてしまった。その1人が攻撃を仕掛けてくるけれども、あたしはグレートソードを盾にして受ける。そいつを掴んで地面にたたきつけて、グレートソードで首を撥ねれば、戦闘終了だ。巻き込まれたけど生き残っていた1体はルヴィーサさんがちゃんと殺したように見えた。


「……いやぁ、すさまじく強いねぇ」

「そうね。そのグレートソードは伊達じゃないってことね」

「あたしには戦うことと料理することしかできないけどね」

「それができるだけでも十分すごいわ」


 珍しくルヴィーサさんがほめてくれる。基本的にソロ冒険者はなんでもできがちだと思われやすいので、あたしはわざと謙遜するように言っているんだけれどね。遺跡や洞窟の探索だとどうしても迷子になっちゃうし、間違いなく罠にかかっちゃうしね。得意分野は人それぞれなので、あたしは戦うことを頑張ってるだけなのだ。


 というわけで、エルマンさんは近くに【魔の根源】が発生してないかを探知したけれども無かったらしいので、移動を再開することに。そして、日が暮れる前に停留所となる村に到着したのだった。

 もちろん、停留所となる村なので、宿泊施設がある。主にそういう流通で成り立っている村なので、農村のようにばらけた感じではなく、集落のようにまとまった感じの村だった。

 ラングバルに近い村なので、たいして町と変わらない宿があり、レストランも存在する。なので、夕食はそこのレストランで食べることにした。

 この集落の主要産業が停留所としての機能であるためか、レストランと宿泊施設が多い。ここから、南側の都市に向かうには必ず経由する必要がある場所なので、貴族向けの設備まであるみたいだ。


 というわけで、あたしは夕食を食べに行く。こればかりはやめられないわよね!

 特に好きなのが、Bだ。高級なレストランの食事がうまいのはわかり切った話で、あたしが好きなのは庶民が食べるような料理を提供しているお店なのだ。ちなみに、B級というのはあたしが勝手にそう呼んでるわけではなく、グルメ雑誌を参考にしている。

 ただ、あたしは基本的に自分の直感を信じることにしていて、雑誌を参考にして店を選んだことはあんまりないのよね。さすがにファッションに関しては直感でやったりはしていない。ちゃんと冒険者用の汗に強いメイクだって買っているし、オフ用の服も2着は持っている。筋肉がバッキバキなので、あんまり肌を露出させるようなものは着れないのが悩みではあるけれども、あたしの体質でもある以上は仕方がないのよね。胸と尻以外に脂肪が欠片も付いてないって言われたこともある。そう考えると結構いびつなのよね~。

 そんなことよりも、夕食だ。この国では昼にがっつり食って夜はそこそこで抑える食生活なのだけれども、今日はそこまで動いてないからそこまで食べる必要は無いと思った。お腹は空いてるけれどね。

 不意に、あたしの目についたのは、和国の文字で書かれた暖簾が下がった店だった。あ、和国ってのはサムライが闊歩し、ニンジャが夜に紛れるらしい国ね。ラスティンネル皇国がある大陸のさらに向こう側にある大陸の東にある島国だそうだけれども、なんでこの国に和国のお店があるのか気になってしまったあたしは、【ラーメン】(読めないからそのまま書き写した)と和国の文字で書かれた暖簾をくぐる。


「はいらっしゃい!」


 そこは、ある意味すごい空間だった。空間内に漂う豚の臭いにおい。一心不乱に皿の面をすする客。そして、店員さんは黒髪黒目の和国人であった。


「ん? 初めてのお客さん、ご来店しました!」

「「「ありがとうございます!」」」


 なんか、独特な文化を持つ店だなと感じた。

 店員さんに案内され、あたしは空いているテーブル席に座らせてもらった。


「えーっと、ここの店は……?」

「和国の料理である『とんこつらーめん』を提供しています!」

「とんこつらぁめん?」

「はい! 豚骨で煮だした白濁色のスープに、パスタとは違う食感の縮れた細麺を入れて、すすって食べる食事になります!」


 あたしは、ラーメンの事よりも、店員さんの元気がすごいことに驚いていた。

 すする、というのは、口に空気を含めつつ、麺を吸い上げる食べ方のことだ。


「へぇ~! 何それ、知らなかった!」

「では、お客さん、注文はいかがしましょうか?」

「メニューは……。和国の文字はさすがに勉強してないからなぁ……」

「でしたら、豚骨ラーメンを味わってみてください! 替え玉は1杯まで無料のサービスになっています!」

「じゃ、じゃあそれで……」

「はい、10番さん! 普通ラーメン一丁!」

「「「普通ラーメン一丁!!」」」


 いつも元気を振りまいているはずのあたしが、このテンションに少し気おされてしまった。

 カウンターではなく、テーブル席なので、作っている様子はうかがい知ることができないけれども、勢いがある感じだ。テーブルの上には木製の箸がおいてある。さすがに、箸は使ったことがあった。ただ、この木製の箸は使ったことが無かったので、2セットをベキッと折ってしまった。


「す、すみません!」

「ああ、使い捨ての箸なので大丈夫ですよ! 割りばしをうまく割れないお客さんも多いので」


 店員さんに割り方を教えてもらい、あたしは割りばしをうまく割ることができた。

 しかし、こんな辺鄙なところになんで和国の料理店があるんだろう?

 ただ、店内はせわしなく忙しそうなので、話は聞け無さそうだった。


「はい、豚骨ラーメン一丁!」


 受け皿の上に、深皿が置かれている。白濁としたスープの中に細麵がきれいに並んで沈んでいるのが見える。皿の淵には海苔が飾り付けられていて、中央には豚肉をタレに付け込んだものを薄くスライスしたもの(チャーシューというらしい)が2枚、小葱、タケノコを漬けたもの(メンマというらしい)が乗っている。

 本当に見たことが無い、真新しい食べ物に、あたしの心は踊っていた。

 早速、あたしは食べてみることにした。どうやら先にスープを味わうのがマナーらしいので、付属のれんげでスープを掬い、飲んでみる。あ、これすごいね! こってりしているけれどもあっさりしているというか、一言で言い表すのがむつかしい。そして、豚臭い。この臭いで人を選びそうだなと思うけれども、ハマれば常連になるのもわかる気がする味だった。

 じゃあ、次に麺だ。麺を持ち上げると、細いけれどもストレートではないことがわかる。パスタとも確かに麺の作りが違う気がする。早速スープに漬けなおしてすすってみる。ズボボッ!


「げほっ! げほっ!」


 気道に少しスープが入ってしまい、咽てしまう。

 もう一回挑戦だ! やっぱり、おいしいものは勧められた食べ方で食べるのが一番おいしいに決まっているからね! ズズッ! チュルチュル……。


「んんっ! おいひー!」


 すするのは非常にむつかしいけれども、これは病みつきになりそうだ。すすることによってアツアツのスープがちょうどいい温度に冷まされるというのがあるのかもしれない。麺もパスタとは違う食感で、芯が無いけど麺自体にコシがある感じだ。そして、豚骨スープと相性がいいように調整されているように感じる。この国でどうやってそんな小麦を調達したのだろうか?

 チャーシューもダシがしみてて、豚骨スープと相性がいいことがわかる。メンマも同様だ。海苔は流石にあたしは消化できないことは知ってるけれども、スープが染みてて美味しかった。

 一杯の皿で一つの料理として完結してると感じた。

 スープパスタの亜種って感じね。ただ、出されたスピードも勘案すると、和国のスープパスタのレベルは凄まじいなと感じる。おそらく、接客も和国スタイルなのだろう。全体的にレベルが高くて、あたしの和国に関するイメージに衝撃を与えたのは間違いなかった。

 お題は540ルピー。安いなぁなんて思ったけれども、和国とこの国の物価差もあるのだろう。あたしは満足して、宿へと戻ったのだった。


追記:

 翌朝、アネッサに豚骨ラーメンの食べれる店を紹介しようと、昨日の場所に行ったけれども、そこは何故か空き家だった。周囲の人に聞き込みをした感じだと、たまに和国のお店が出現して営業を始めるそうな。


「お嬢ちゃん、運がよかったねぇ」


 と言われて、不思議なことが起こるものだとあたしは納得することにしたのだった。


 ───────────────────────


 翌日の停泊所となる村では、特にとんこつラーメンみたいな不思議な出来事は起こらなかった。というか、実はとんこつラーメンの下りはまるまる追記だったりする。アネッサに言われた通り、毎日欠かさず書いた方がよさそうだと思ったわ。


 ただ、今日は特に特筆して書くことが無かったのよねぇ。魔物にも襲われなかったし。

 だから、昼食の下りを書いておこうかしらね。

 今日の昼食は、師匠直伝の『肉じゃが』である。あたしが箸を使えた理由も、師匠が和国の人とつながりが強かったからなのよね。師匠本人は別に和国の人じゃないけど

 残念だけど『醤油』……大豆を発行させて作る黒くて塩味の濃いソースは無いので、魔法の粉コンソメと塩を調整することによって近づける。『みりん』は無いので、白ワインに砂糖を溶かし込んだもので代用。これでだいぶ近づける。

 米に関しても、和国の米は流通していないけれどもライスがあるので、それを鍋で炊く。炊き方はもちろん、師匠直伝だ。

 あたしが食べることが大好きだとわかると、作り方まで教えてくれたのよね。師匠はどう言う伝手かわからないけれども、和国の調味料は常備していたし。まあ、あたしの方が料理が上手かったから、作り方を教えれば俺よりもうまく作れるだろう。ということで教えてくれたらしいけど。

 ライスは和国のものと比べて細長いし、そのまま食べるには向いてないけれども、肉じゃがと組み合わせればそれは問題ではない。米をしっかりと水であらい、糠を落として鍋に入れ、だいたい親指の一関節目まで水を張って蓋をして30分ほど放置して米に水を吸わせる。

 その間に肉じゃがの準備だ。昨日の豚ロースの残りを薄く切り落とす。ジャガイモ、ニンジンの皮をむき、これもまた出汁を取るので紙袋に入れておく。一口大に切って、玉ねぎはくし切りにする。鍋にナタネ油を引き、ジャガイモを炒める。ジャガイモは炒めておくことによって煮崩れを起こしにくくなるって聞いたことがあるわね。いったん引き上げて、薄くスライスした豚ロースを炒める。豚ロースが白くなったら残りの具材を入れて、炒める。そして、水を張り、水に溶かして塩を濃いめにした魔法の粉コンソメ、砂糖を溶かした白ワインを加えて、落し蓋をして煮込む。

 その間にご飯の面倒を見る。だいたい30分経ったから、火にかける。火が少し当たるくらいの強さで煮込むと、吹きこぼれるので少し火を弱めにして水分がある程度飛ぶまで炊く感じ。湯気が減ったら、火から上げて、蒸して上げればオッケー。

 肉じゃがの方も、水かさがだいぶ減ってきたら、火から上げて10分間蒸らして完成!


「完成! あたし風和食、『肉じゃが』よ! 炊いたライスにかけて食べてね!」


 味としては、まあ悪くない味に仕上がったと思う。まあ、師匠が食べたら「思ってた味じゃない」って怒られそうではあるけれども。

 味は白ワインの風味が効いたコンソメベースの甘辛煮って感じかな。やっぱり、ライスに合う。和国の白米には合わないけれどね。ルヴィーサさんの口にはあんまり合わなかったように見えた。


「なんていうか、独特な味ね」


 とはいっても、ちゃんと全部食べてくれたのは良かったけれどね。今回は肉の味が強すぎたからかな? 聞いた感じだとまあ、その通りで、『肉じゃが』はまあ大丈夫みたいだけれども、ステーキやハンバーグみたいな肉にくしいのは無理らしい。そこは今後気を付けて作るものを選ぼうと思いました。


「プリシラが作る料理は独特だけど美味しいのは間違いないわ」


 と、あまり気にするなという感じだったけれども、やっぱりみんなには美味しいものを美味しく食べてほしいから、好き嫌いや食べれないかどうかは気にしちゃうわよね。特に『食べれない』は死に直結するし。

 改めてヒアリングして、ルヴィーサさんがあまり肉が好みじゃないこと以外については『食べれない』は無いみたいで安心したけれども、早めに聞くべきでした。反省点ね。

 ちなみに、ルヴィーサさんは普通にコンソメスープは飲めるらしく、どうやら肉の油が苦手っぽい感じだったわ。今度魚料理でも作ろうかななんて思ったのでした。


 そして夜。

 今回の停留所となる村は、そこまで大きいわけじゃないので、おとなしく宿泊施設の出すご飯をみんなで食べることになったわ。自炊もいいけれども、やっぱり店の料理は美味しいわよね。前菜のサラダと、パスタだった。あたしはペペロンチーノを頼んだけれども、みんなそれぞれ別のものを頼んでて、結構好みってあるんだなとわかって面白かったわね。


「そう言えば、エルマンさんたちはなんで旅をしているんです?」


 折角一緒に食事をしているので、聞いてみることにした。

 エルマンさんとルヴィーサさんは顔を見合わせると、うなづきあって答えてくれた。


「エヴォス教会には、聖女がいるのは知ってるよな?」


 聖女。

 あたしはエヴォス教ではないのでそこまで詳しいわけじゃない。ただ、教皇に次いで強い発言力を持つ女性だという認識だ。


「まあ」

「わたしも知ってるだけね。エヴォス教徒じゃないし」

「まあ、他宗教だとしても大本は同じだから聞いておけ」


 どうやら、聖女は神様であるエヴォス神と直接交信ができるほど強い神聖魔法が使える女性なのだそうで。

 ただまあ、その『聖女』が出てきた時点で嫌な予感はしていた。『神託』よりもかなり詳細な『神託』を受けることができるのが聖女様なのだ。


「聖女様が『神託』を授かった。世界が再び”大破局”を迎えようとしているそうだ」

「”大破局”?!」


 あれ、なんで驚いてるのあたしだけなんだろ?

 ”大破局”って歴史にも出てくる、2000年ぐらい前に起きたとされる文明のリセットのことだ。各地に眠る古い遺跡に機械文明の痕跡があるのは、そのせいである。


「プリシラお嬢さん、声がでかい。一応極秘なんだぜ?」

「ああ、ごめんなさい」


 一方で、アネッサは納得したような表情をしていた。


「なるほどね。エルマン氏やルヴィーサ氏が遺跡に興味を持つわけだ。前回の”大破局”で何が起きたかを知れれば、次の”大破局”を回避できるかもしれない。だからこそ、古い遺跡を探索する必要があるわけだね」

「ま、そういうわけなのさ」

「ただ、エルフってエヴォス教だったかしら?」


 エルフは全能神エヴォスを信じるエヴォス教ではなかったはずだ。どちらかと言うと、森や自然を象徴するミルティア神を信仰していたはずだ。


「私は……。まあ、エルマンにお世話になっているから、その手伝いをやっているのよ」

「ま、ルヴィーサにも別の事情があるのさ。俺は神父だから、例え他の宗教を信仰していたとしても話を聞く義務があると思ってるんでね」

「どっちにしても、エルマンの話を聞いたら手伝わざるを得ないじゃない。私の悩みなんて二の次よ、二の次!」


 ルヴィーサさんはそう言うと、あたしをじろりと見る。


「そう言えば、プリシラって何歳だっけ? 見た目幼いから勝手に年下に見てたけど……」

「ん? あたしは17歳よ」

「……! わ、私の方が年下?! 私、16歳なんだけど……」


 エルフって基本長寿だから、まさか年下のエルフと知り合うとは思っても見なかった。


「え、そうなんだ! じゃあ”ちゃん”付で呼んだ方が良いかしら?」

「いや、せめて呼び捨てで呼んでちょうだい。私も呼び捨てで呼ぶから」


 という感じで、ルヴィーサさん改め、ルヴィーサが16歳のエルフだと判明し、驚くことになったのであった。

 あと、エルマンさんの目的も判明して、旅の目標に”大破局”に対抗するための探索も加わってしまったけれども、もしお父さんだったら絶対に協力するだろうし、寄り道になっちゃうけどいいよね?

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