第3話 ハンバーグステーキ

 あたしは割と正義感が強い方だ。要するにお節介焼きという事なんだけれども、困っている人がいるとついつい手助けをしてしまう。これはお父さんから受け継いだものかもしれないけれどね。

 要するに、という事は、騒動が起きてしまったというか、巻き込まれてしまったという事である。

 アーリーソン村からラングバルに戻る間は特に何もない馬車の旅だったわけだけれども、ラングバルの冒険者酒場に向かうときに騒動に巻き込まれてしまった。


 アーリーソン村から交易都市ラングバルへと戻ったのは、昼を少し過ぎた頃だった。朝から出発していたので、途中休憩(馬は平気だけれども、人間はお尻が痛くなるからね)を挟みつつ馬車での旅で昼頃着く感じ。歩くと結構かかるし、馬車でも四半日かかる。

 なので、この国……ラスティンネル皇国の時間だとおよそ昼の1時には到着したのだ。時間は国によって計測方法が異なるけれども、すくなくともラスティンネル皇国においては24時間制が採用されているみたい。たまに時間を「火の時間」みたいな感じで6属性に分割してるところもあるからややこしいのよね~。ちなみに、あたしの国は24時間制だったわ。


 それで、ラングバルに戻ってきた話ね。


 ラングバルに到着すると、入り口の門で検問があるわ。もちろんこれは魔物から人々を守る役目もあるし、野盗みたいなならず者が入ってこれないようにするための措置ね。そのせいか、少し外れたところにスラム街ができていたりするけれども、ラングバルは関与しない方針になっているわ。

 ちなみに、入国時に身元をしっかり証明できていれば普通に入れるし、交易都市なだけあって出入りはそこまで制限されてるわけじゃないわ。要は住む場所の話ね。仕事を中でして、スラムで暮らす人もいるらしい。

 門は機械仕掛けになっていて、許可が下りれば衛兵さんがレバーを引いて自動で門が開く感じね。それで、馬車の停留所に到着して馬車の旅は終わる感じ。あたしは乗ったことが無いけれども、機械仕掛けの車も世の中にはあるらしいわ。

 というわけで、あたしはラングバル内にある冒険者酒場まで、村を守る依頼完了の報告と、次の依頼を探すために向かったのだ。


 あ、説明が多くてごめんね。あたしもそんなに頭が良くないから、情報整理のために書き込んでるってのはあるわ。


 ラングバルの冒険者酒場はメイン通りにあるのよね。この国では割と冒険者需要は高いので、冒険者酒場も表通りに普通にある感じね。こういう国ならばお父さんの痕跡を探しやすいから、足取りも追いやすいのよね。

 で、その冒険者酒場の前で言い争いが発生していた。

 周囲に野次馬が集まっているので、酒場に用があるあたしは聞いてみることにした。


「ねえ、何が起きてるの?」

「ああ、エルフのお貴族様と言い争いが起こっているのさ」

「ふーん、エルフなんて珍しいわね。お貴族様なの?」

「いや、実際知らねぇが……ってうぉ?! プリシラさんじゃねぇか?!」


 ちなみに、主に人間ヒューマンが主体となって納める国では、人間ヒューマン、エルフ、ドワーフが三大人種と呼ばれてたりする。ラスティンネル皇国では少なくともその認識だ。それ以外の種族に関しては『亜人』と呼ばれているわね。

 で、野次馬の一人の冒険者があたしの名前を出したせいで、注目が集まる。なんでかしら?


「え、なんであたしに注目するの? あたし依頼を終えて帰ってきただけだよ?」


 あたしは困惑する。なんであたし、一目置かれてるのよ。

 なぜか、騒動の中心である冒険者酒場の前まで誘導されてしまい、騒動の最前列まで来てしまう。そこには、『お嬢様』と言っても間違いがないエルフの女性と、なんだか胡散臭そうな神父の格好をしたおじさんがいた。


「ぐぇ~」


 そして、のされている冒険者と思われる2人組のチンピラ。


「これで分かったかしら?」


 どうやらこの構図は、【思ったよりも実力のある初心者冒険者に手を出してしまった間抜けな冒険者】という構図だったみたい。チンピラ冒険者があたしを見て、驚いた表情をする。


「プ、プリシラさん!」

「あの生意気なエルフ女に一泡吹かせちゃってください!」

「え、なんであんたら、あたしの舎弟みたいな感じになってるのよ」


 この二人、デップとチールという双子のチンピラ冒険者なんだけれども、あたしがラングバルの冒険者酒場に始めて来た時も絡んできたバカである。まあ、あたしに絡んできた時はワンパンで沈めてしまったけど……。


「へぇ~。なに、その子があんたたちの親玉ってわけ? ……え、ちっさ。そして! って女の子じゃない?!」


 あたしを見て驚くエルフの女性。そして、すぐさまあたしの背負っているものに目が行くと、何かを納得されてしまったようである。


「……なるほどね、あなたがこの冒険者酒場で一番の実力者ってわけね……!」

「お嬢、そう変に絡むのはやめなさいな」


 そう言ったのは、神父の服装をした男だった。髪型は癖毛のある黒髪で、目が悪いのか眼鏡をかけている。鼻に挟んでかけるような小さい丸眼鏡ね。口には紙たばこを咥えていて、神父の服装をしているのに非常に胡散臭い感じを出していた。表情は常に余裕が感じられるし、手を見ると明らかに殴ってきたような、拳が武器だろうなと思わせるゴツゴツした拳をしているのがわかる。

 一方、エルフの女性はよく見れば腰に細剣レイピアを刺しており、腕にはクロスボウを装備している。一見お嬢様の服装で金髪緑眼のエルフ特有の耳をしている美女だけれども、デップとチールを一人で倒せる程度には実力者のように見えた。


「そちらのお嬢ちゃんも、わけがわからないって顔をしているだろう?」


 神父はあたしに目配せをした。


「……何があったかは推察できるわ。別に絡んだこいつらが悪いし、気にしないでもらえると助かるんだけれど。あと、あたしは別にこの冒険者酒場で一番の実力者じゃないわ」


 二つ名のせいで、なぜか一目置かれてしまうことが多いけれども、あたしは銅級冒険者である。実際、この冒険者酒場には銀級や金級も登録しているので、本当にあたしが一番ではない。


「それに、通行人の邪魔になっているみたいだし、とりあえず中に入りましょ?」


 あたしの提案に、その場にいた全員が同意してくれた。

 ……何だか納得いかない。

 冒険者酒場の中はまあ、いつも通りにぎわっている。騒ぎがあったせいで変な感じだけれども、飲んでる人は飲んでいるし、ミーティングをしている人たちもいる。

 あたしが入ってくるのを見て、この手記を書くように促してくれた旅仲間のアネッサが手を振ってくれた。どうやらあたしより先に帰ってきていたみたいだった。


「お、プリシラじゃーん。お帰り」

「アネッサ! ただいまー」


 アネッサは遺跡を探求する方の冒険者になる。古代の文明や世界に隠された謎を解明するために、世界各地を旅をしているそう。あたしとアネッサが仲良くなったのはこのラングバルの冒険者酒場で、である。別にパーティを組んでるわけじゃない。

 アネッサは赤毛の女の子で、片手剣を装備しているけれども、基本的に魔法で戦う子だ。


「で、なんで帰ってきたはずのプリシラが、そちらの二人とデップとチールと一緒に入ってきたわけ?」

「うーん、なんか流れで?」


 あたしもわからん。

 別にあたしがこの酒場のボスではないし。


「まあ、まずはお話を聞こうか。プリシラも戻ってきたばかりで疲れてるだろうしね」

「そうね!」

「俺は問題ないぜ。お嬢は?」

「私も問題ないわ」


 エルフの人と神父はどうやらあたしたちに付いてくるみたいだった。


「俺たちは、これで」

「へへっ! プリシラさん、なんかありましたら呼んでくだせぇ!」


 デップとチールは自分のパーティの元に向かっていった。なんであの二人は初心者に絡みに行くのだろうか? 何がしたいのかよくわからない人たちだなぁなんて思いながら、あたしは席に座ると即座にメニューを見る。


「あれ、プリシラって昼はまだなんだ?」

「うんん、昼は食堂の人に持たせてもらったから、ちゃんと食べたわ」

「あ、そうなんだ。じゃあ間食? 太るわよ~」

「まあそんな感じ。えーっと……」


 あたしがメニューに目を落とすと、エルフの人がコホンと咳払いをする。


「えーっと、プリシラさん、でよかったかしら? 話を聞いてくれるんじゃないの?」

「その前に、ご飯注文しないと! さっきからおなかが空いちゃってるのよ」


 あたしにとっては重要なことだ。さっきからおなかが鳴ってるし、大きな音を立てる前に詰め込んでおきたい。


「うーん、とりあえず、ハンバーグステーキにしようっと。すみませーん!」


 あたしは、とにかくお肉を食べたい気分だったので、ハンバーグステーキを注文した。ラスティンネル風ソースがまたお肉との相性がよくて絶品なのよね! あ、書いてる最中なのによだれ出てきちゃった。

 そんなあたしに、あきれた様子のお二人さん。

 何かしらの事情があるようだけれども、注文を待っている間にヒアリングすることにした。


「で、なんでまたデップとチールに絡まれてたわけ? まあ、だいたいあいつらって何故かご新規さんにいちゃもん付けに行くことが多いけれども……。あ、そう言えば自己紹介がまだだったわね!」


 仲良くなるためには、まずは自己開示が大切である。これはあたしの経験則だ。


「あたしの名前はプリシラ、プリシラ・ヴェルトリスよ。北のアイスベルク王国から来た旅人よ。旅の目的は父親捜し。よろしくね!」

「わたしはアネッサだよ。プリシラと同じく旅人で、世界各地の遺跡を巡っている遺跡ハンター。よろしくね」


 アネッサはアネッサでいろいろと秘密がありそうだけれども、誰だって秘密を抱えているものだからね。単にあたしには隠し立てするようなことは無いだけである。


「ふむ、じゃあ俺から自己紹介しましょうかね。俺はエルマン・ダーリジン。見ての通りエヴォス聖堂教会の神父をやっている。訳あってお嬢……の世話をやっている。よろしくな」


 エルマンさんは、チラリとエルフの人の方を見て、名前を言わなかった。つまりは、本名は隠したいという事らしい。これは厄介ごとに関わった感がするね。


「私はルヴィーサよ。見ての通りエルフ族よ」

「お嬢は冒険者としては斥候ができる。ま、訳あってラングバルまでやってきたんだ。よろしくな」


 と、エルマンさんがルヴィーサさんの補足を入れる。なんだか不満そうな顔をずっとしていて、眉間に皺が寄らないかが少し気になる。綺麗な顔がキツイ印象を受けるのはそのためだろう。

 と、注文したハンバーグステーキ3人前がやってきた!


「はい、お待ち。3人前ね」

「ありがとうございます♪」


 あたしが嬉しそうに受け取ると、ルヴィーサさんがきょとんとした顔で言った。


「……エルフは肉はあまり食べないんだけれど?」

「え、全部あたしのですけど……?」

「……?」


 あたしが素でそう返すと、あたしのことを何かわけのわからないものを見るような目をするルヴィーサさん。


「ちょ、プリシラさん? 俺たちに奢ってくれるってわけではなく?」

「え、エルマンさんも食べたかったんですか? さすがに初めましての冒険者に奢るわけないじゃないですか~!」


 目の前にはアツアツの鉄板でジューっといい音を立てるハンバーグステーキが3つ。付け合わせはニンジンとコーンとブロッコリーである。まさにワイルドなスタイルだけれども、こういうのって都会の冒険者酒場でしか食べれないのよね~。アーリーソン村では山羊の肉がメインだったけれども、都会ならば牛や豚、鶏肉もちゃんと流通しているからね!

 う~ん! たまらない!

 ステーキソースも濃い口のこってりとした深みのあるソースで、お肉の味を引き立てる。切り分けると閉じ込められていた肉汁がブワッと解放されて、鉄板でジューっといい音を立てるのも食欲を増幅させる。頬張ると、牛と豚のミンチ肉を使っているからか、肉の味をめっちゃ感じて口の中が幸せになる。気が付けば、あたしはペロリと3枚のハンバーグステーキを平らげてしまった。


「あー……、プリシラは体質上、人よりもたくさん食べないといけないのよ」


 アネッサがあたしの代わりに説明してくれる。

 あたしの身体って昔から燃費が悪かったのよね。それでお母さんに苦労を掛けた記憶がある。食費に関しては不思議と困ったことは無いけれども、作る量的な意味で困らせてたと思う。その代わり、他のトロールの子に負けないくらいの力があったけれどね。


「……にしては、ものすごい速さで肉が消えたわけだが」

「ん、早食いには自信があるの」


 あたしはナフキンで口元についたソースを拭う。本当に一瞬だった。ね……。

 エルマンさんとルヴィーサさんの目が点になっているけれども、あたしは気にしない。驚かれるのには慣れちゃったからね。


「で、どうしてデップとチールに絡まれてたのかしら?」


 あたしが本題を切り出す。正直、それだけなので、相席する必要は無かった気もする。まあ、あたしの食欲を優先したわけだけれども。


「え、あ、ま、まあ、そうね。パーティに入らないかって誘われたのよ」


 なんか、知らないけれどもすっかり毒気を抜かれてしまったらしいルヴィーサさんが正直に答える。


「ただ、私とエルマンはある目的で旅をしている身だから、この街に定住しているパーティと組みことができないの。だから断ったら逆切れされて……。で、返り討ちにしたわけ」


 結構血の気が多いなぁ!


「ま、そういうことだ。ただ、こちらとしても人手はほしくてね。同じ旅人なら、お二人さん俺たちと一緒に組んでくれると助かるんだが……どうかな?」

「ああ、それで」


 わざわざ同席したのか。


「う~ん、旅の目的が気になるねぇ。わたしもプリシラもそれぞれ目的をもって旅をしているし、何か話せない理由でもあるのかい?」


 アネッサがそう聞くと、エルマンさんはうなづいた。


「ああ、俺みたいな不良神父が旅に出る必要があるくらいには重要な案件なのさ。ただ、お嬢さんらと組むべきってのは『神託』があったから、という話があったからなんだぜ」


 『神託』か……。つまりはもう、すでにあたしとアネッサは厄介ごとに巻き込まれずみだったわけである。あたしは別にエヴォス教の信者ではないけれども、『神託』は無視ができなかった。

 あたしとアネッサはお互いの顔を見る。きっと、お互いに同じむつかしい顔をしているに違いなかった。


「そっか、『神託』ねぇ……」

「まあ、『神託』じゃあどうしようもないかぁ……」

「ああ、もちろん、お嬢さん方それぞれの目的の邪魔はしないさ。お互いの目的を達成するために、協力しようって話なわけだしな!」


 あたしもパーティを探していたわけだし、お互いの役目を考えれば問題ない気がする。アネッサも剣を扱えるだけで基本的に魔法使いだし。エルマンさんは神聖魔法を使えそうだし、ルヴィーサさんも斥候ができるとのこと。バランス的にも少し足りないぐらいで、4人で組む分には問題ないように思える。

 アネッサの方を見ると、どうやらあたしと同じ考えだったのだろう。


「いーよ。どっちみち『神託』なわけだしね」


 と答えた。あたしも同意する。


「食費がかかるけれども、それでもかまわないなら」


 あたしたちがそう返事をすると、エルマンさんはエヴォス教特有の祈りを捧げる。そこだけ切り取れば確かに神父だった。


「よし、じゃあお二人さん、今日からよろしくな。パーティ登録は残念ながらおじさんは知らないんで、プリシラさんに頼んでもいいかな?」


 確かにあたしが適任だろう。アネッサは遺跡調査のために冒険者を雇って一緒に行くというのが主だと聞くし、二人はそもそも、冒険者という感じがしない。


「わかったわ。エルマンさんとルヴィーサさんは冒険者登録は?」

「ああ、そっちはすでに済ませてある」

「わかりました」


 まさかパーティを組むことになるとは思わなかった。ただ、パーティを組む以上はパーティ名を決める必要がある。他のイキった名前にならないように、かつ可愛い名前にしないといけない。と言っても、そう簡単に思いつくものじゃないんだよなぁ……。

 あたしは悩みつつ、酒場の受付に向かう。アネッサやエルマンさんも付いてきていた。


「えーっと、パーティ登録をお願いします」

「お、プリシラさんもいよいよパーティを組むんですね」


 受付の人は女性だ。この国の冒険者ギルドの人が着ている共通の制服を身に着けている。


「はい。同じ旅人同士なので、折角だし組んじゃおうかなと」

「なるほど! プリシラさんにアネッサさん、ルヴィーサさんにエルマンさんですね。銅級2人に鉄級2人なら問題ないですよ。依頼も銅級を案内できますしね」


 ちなみに、依頼というのは冒険者酒場がそれぞれの独自規定で案内することが多いのだけれども、基本的にはパーティの過半数のランクがそのままパーティのランクになる。今回の場合、あたしとアネッサが銅級なので、過半数が銅級となるのでパーティのランクも銅級となるのだ。

 ちなみに、銅1鉄2だとパーティのランクは鉄になる。


「よかった」


 当然だけれども、銅級の方が実入りがいい仕事が多い。鉄級だと探偵まがいの仕事や、雑用のような仕事、魔物と戦うにしても近辺の掃討みたいな仕事しかないからね。


「では、パーティ名をお願いします」


 パッと思いついたのが《旅人達》だ。あたしたちの属性を考えれば、それで問題ないように感じる。余計なルビはいらないかな。


「《旅人達》で」

「わかりました。結構シンプルですね」


 あたしの代わりに、受付の人が書類を書いてくれる。まあ、冒険者って読み書きできない人が多いので、受付の人は基本的にそういう方面に強い人が選ばれる。いや、あたしも読み書き自体は普通にできるんだけれどね。6か国語は読み書きできるし話せる。おいしいご飯を探し出すためには重要なことなのだ!

 ただまあ、今回は代筆を勝手にしてくれたので、「自分で書きます」とわざわざ口をはさむ必要は無い。


「わかりました。それでは登録手続きはこちらで済ませておきますね」

「ありがとうございます」


 あたしはお礼を言って、元の席に戻る。書類を出して実際に依頼を受注できるまでは少しだけ待つ必要があるからね。


「はえ~。登録って簡単なんだなぁ~」


 エルマンさんはそう言って感心していた。神父さんだと実際にいろいろと事務作業をすることもあるのだろう。あたしもこの国に来て初めて冒険者登録したときは驚いたものだ。少なくともあたしの国よりも効率化されているのは事実だ。

 この辺は冒険者の国とも呼ばれるラスティンネル皇国なだけはあるね。


「そう言えばプリシラ」

「ん? どうしたの?」

「結局、アーリーソン村にお父さんの痕跡ってあったの?」

「んーん、全然なかった」


 実際、痕跡については探してはいたものの、見つかることなくラングバルに戻っている。まあ、期待はしてなかったんだけれどね。


「ありゃ、残念」

「アネッサこそ、遺跡探索はどうしたのよ」

「いやぁ、依頼料が無くってね~。どうしようか決めあぐねてたんだよね~」

「なるほど~」


 せっかくパーティを組んだのだし、行ってみるのもありかもしれないなと思った。なので、エルマンさんとルヴィーサさんに聞いてみることにした。


「エルマンさん、ルヴィーサさん」

「……別に反対はしないわ。エルマンの目的が達成できるとも思わないけれどね」

「まあな。だけど、せっかくパーティを組んだんだ。腕試しというのと、お互いの実力を知るのにはいい機会じゃないか?」

「お、わたしの遺跡調査に協力してくれるんだ。ありがたいねぇ」

「ラスティンネル皇国内ならそこまで危険な遺跡があるわけでもないしね。エルマンさんが神父さんだし、神聖魔法を使えるっぽいから、【魔の根源】の封印も報告したら報酬もおいしいしね!」


 と、あたしはアーリーソン村の報告をしないといけないことを思い出した。


「あ、そう言えば依頼の完了報告を忘れてたわ! 行ってくるね!」

「わかったー」


 というわけで、あたしはアーリーソン村の依頼完了報告をして、依頼料と【魔の根源】封印手当をもらうことができた。個人参加だったし、その分で依頼料は減っちゃうけど、それでも20万ルピー、そして、【魔の根源】封印手当は1か所につき100万ルピーを参加人数で山分けという感じで、6万ルピーをゲットすることができた。

 【魔の根源】を封印することは、国にとっても利益だし、冒険者にとっても手当が出るため利益になる。発見報告だけでもいくらかもらえるので、各地を旅する冒険者には体のいい小遣い稼ぎになるのだ。


 報告が終わったあたしは、アネッサ達のところに戻ってきた。


「それじゃ、プリシラも戻ってきたし、わたしが行きたい遺跡を教えるね!」


 アネッサは楽しそうにそう言うと、この国の地図を取り出して、机に広げて見せる。アネッサが指さしたのはラングバルよりもさらに南、ボルツクネル伯爵領の南部の山のところを指さした。

 かなり遠い。


「ここに、旧時代の遺跡があるらしいのよ! 結構な道のりになるんだけれども、どう?」

「遠すぎ。肩慣らしというには時間かかりすぎない?」

「えー、もしかしたら未探索の遺跡かもしれないのに~」

「馬車で半月以上かかるわよ、そこ」


 あたしは呆れる。そりゃ、ラングバルから行こうって言えばかなりの依頼料がかかるに違いなかった。それに、未発見の遺跡探索とか、ギリギリ銅級か、銀級レベルの話である。せめてあと1パーティか、銀級冒険者の協力が欲しいところだ。


「未発見の遺跡……?」


 ただ、反応したのは意外にもルヴィーサさんだった。


「ねえ、そこ行きましょう? いいでしょ、エルマン」

「ああ、俺は構わんぞ、お嬢」


 3対1になってしまった。こうなっては仕方がない話である。あたしはあきらめることにした。


「……わかったわ。じゃあ、まずはボルツクネル伯爵領の主都であるオーベルに行きましょ」


 オーベルはボルツクネル伯爵領の主都になる。当然ながら、領主が住まう地区になるので、一番発達しているし、拠点とするにはちょうどいいだろう。まだ、ラングバル近辺での父親の情報は集めきっていないけれども、少しの間出向くと考えればいいかなと切り替えていく。どっちみちボルツクネル伯爵領でも探すつもりではあったしね。

 というわけで、各々移動の準備をすることになった。と言っても、主にアネッサがだけれどね。あたしはそもそも、身軽だし、エルマンさんとルヴィーサさんは今日ラングバルに着たばかりだったみたい。

 あたしはとりあえず、パーティ結成証明をもらう。冒険者を証明するタグと同じで、銅製のタグにパーティ名の刻まれたものを渡される。

 あ、そうそう、今手記を書いている宿も一旦チェックアウトする必要があるわね。ちょっと長い旅になりそうだし。戻ったら改めて取り直さないとね。

 タグをみんなに渡して、翌朝出発することにしたわ。

 だから、今泊っている宿の料理を待ちながら、あたしはこれを書いていたってわけ。

 というわけで、今日のところはここまでかな。

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