第2話 緊急食事(レーション)

 今朝の朝食はクロワッサンにビスケットと甘いコーヒーだった。

 こんな田舎の宿屋でコーヒーとか飲めるのかと感心したら、コーヒー豆に関しては取り寄せているそうでびっくりした。

 まあ、朝と言えばの定番って感じだけれども、あたしの国だとチーズを使ったパンケーキにベリーのジャムを掛けたものが定番だったりするので、朝食に甘いものを食べるのはどこの国でも同じなのかもしれない。

 そんな感じで朝食を食べてしまい、あたしはさっそく冒険者の酒場に向かう。酒場は少し異様な雰囲気を醸し出していた。あたしはさっそくカウンターの人に話しかける。


「おお、プリシラさん」

「おはようございます! 今日は襲撃をかけるんですよね?」


 昨日、少し早い夕食の後に、あたしは討伐部位の報酬を受け取るついでに予定を聞いていた。実は昨日の内容書いた後、おなかすいちゃって夜食食べちゃってたのよね。それで書き損なた感じ。

 なので、あたしは今日、魔物の巣に襲撃を仕掛けることを知っていたのでした。


「ああ、そうだ。プリシラさんも、みんな期待してるよ」

「えぇ~、あたしはまあ、アタッカーなだけで洞窟探索の時の斥候みたいなことはできませんよ?」

「そこは他のパーティに任せればいいさ」


 実際は、あたしは危険感知ぐらいならできる。旅をしていればいやでも襲われちゃうからね。そもそも、女の子の一人旅で危険な目に遭わないわけがない。危険を察知できなければ、悲惨な目に合うのは師匠に教えてもらったことだ。実際、そういう目に遭いかけて、暴力で解決した恥ずかしい事件があったりする。まあ、あんまり思い出したくないのでこれぐらいで。あたしの二つ名が『小型オーガ姫』となった事件だしね……。

 どちらにしても、あたしに期待されている役割はそういうことだろう。


「それもそうね! 冒険者パーティはお互いできないところを埋め合わせるのがいいところだもんね!」

「そうそう、プリシラさんも早めに固定パーティ組めると良いな」

「まあ、そうなのよねぇ。あたしって旅人だから、長期でパーティを組めないのが……」

「一緒に旅ができる仲間か……。まあ、国によっては冒険者の地位が低い場所もあるし、むつかしいよな」


 実際、国によって冒険者の取り扱いは本当に異なる。

 あたしの国はいわゆる『冒険者』というよりも、『古代遺跡の探索者』というイメージの方が強いし、かつて邪教徒によって滅ぼされた国の後にできた共和国では浮浪者同然だったしね。

 あたしだってガツンと稼げるから冒険者をやっているけれども、そうじゃない場合はちゃんと短期労働者として仕事をすることもあるのだ。


「そうね。まあ、今後のことについてはあとで考えるとして、今は魔物たちの殲滅が重要よね~」

「そうだな」


 予定ではいつもだと午後に襲撃が発生することがほとんどなので、午前中に魔物の巣を叩きたいという話である。場所については特定されていて、そこそこ近場の洞窟が巣になっているらしい。他のパーティの斥候さんが集めてくれた情報なんだけれどね。

 あたしが酒場の店員さんと話していると、他の冒険者パーティのリーダーっぽい人が酒場に響く声で呼び込みを行った。


「ゴブリンの巣討伐に参加する冒険者は今すぐ来てくれ!」


 周囲の冒険者たちがその言葉を合図にいそいそと準備を始めたので、あたしも外に置いているグレートソードを取りに向かう。薬品の準備自体はちゃんと事前に済ませているし、即時回復薬(これ、一本9,000ルピーするけど、切断みたいな重大な怪我じゃなければ魔法のように怪我が治る飲み薬。一応かけても効果はあるけど、飲んだ方が効果が高いやつ)は予備を含めて数本用意してあるので問題ないだろう。

 魔法も、あたしに使えるのは自分の肉体を強化するものと、背中に武器をくっつけるものしか使わない。なので、魔力を補充する回復薬はそこまで準備はしていなかった。

 あ、回復薬は使っちゃったから補充しておかないとな……。


「よし、集まったな。今回の奇襲作戦の音頭を取らせてもらうのは、《冥夜騎士団 めいやきしだん》のリーダーであるマルコット・デュフォイがやらせてもらう。よろしくな!」


 ちなみに、今回参加しているパーティの名前は、《冥夜騎士団 めいやきしだん》、《蜃気楼の審判ミラージュジャッチメント》、《血腥い安楽死クリムゾンユーサネイジア》とあたしである。あたしがビンタしたガラの悪い冒険者は《血腥い安楽死クリムゾンユーサネイジア》に所属しているみたいだった。

 ……書いてて思うけど、なんで冒険者ってパーティ名称をだいぶイキった名前にしてるんだろうね? あたしだったらもうちょっとかわいい感じにしたいよね~。


 というわけで、《冥夜騎士団 めいやきしだん》のマルコットさんが指揮を執るみたいである。あたしみたいな完全アタッカーではないみたいだけれども、装備は騎士ポイ感じなので、タンクの役割も兼ねているのかもしれなかった。

 あたしとしてはもっとムキムキで、あたしよりも筋力がある人が好みなので、ちょっと外れるかなぁ。実用的な筋肉でムキムキなのがいいよね。あたしより強ければ最高。

 おっと、いけない。あたしの男の趣味なんてどうでもよかったわ。


「作戦はいたって単純だ。巣穴を探索して、殲滅させる。それだけだ。ゴブリンやオークに関しては、魔物化していなければ討伐をしないことになるが、魔物の巣化した洞窟での判別は無理だろう。よろしく頼む」


 冒険者ギルドの規定で、魔物化していないヒトは救助しなければならない。ただ、一般的に魔物化は魔の根源に触れたため起こる悪性進化を指す。例えば、一般的なゴブリンと比較して、肌がより緑色に近づき、顔も醜悪な見た目になり、おなかが出て小太りのような姿になるのだ。”主”クラスになるとそうでもないけれども、魔物化すると元の人格は消失するとも言われているので、既に死んでいるものとして扱われるのがほとんどだ。

 ちなみに、普通のゴブリンは耳が鋭くとがって入るものの、成人しても小柄な人間のようにしか見えないので、見分けるのはむつかしくないはずだ。

 ……まあ、亜人種とも呼ばれるゴブリンやオークは差別されることが多いということなのだ。

 ちょっと、嫌な気持ちになっちゃった。あたしの国ではトロールと共存してた国だったし余計にね。

 ただ、”主”がいるレベルで汚染が進んでいるならば、赤ちゃんでない限りは魔物化してしまっているだろうけど……。


「ジェルド、案内を頼む」

「ああ、任せておけって」


 あたしたちは、魔物ゴブリンの巣穴を発見した《冥夜騎士団 めいやきしだん》のジェルドさんの後について、現地に向かった。

 ただ、もちろん一筋縄ではいかない。道中、トラップが仕掛けられていたので、何人か怪我をしてしまったし、魔物ゴブリンと魔物化した野生動物に何度か襲われちゃう。魔物オークは避けるルート選びみたいで出会わなかった。

 まあ、大抵はあたしが前に出るし、他のパーティのアタッカーの人たちが協力して戦闘に取り掛かるので、省略しても問題ない程度には楽な戦闘だったわ。


「しかし、森の中でもこれだけ正確にその剣を振り回せるのはすごいね……」


 と褒められたけれども、横の薙ぎ払いをしていないし、剣の軌道の先はすべて叩き切っているだけである。ただ、ほめてくれたことには変わりないので、お礼を言う。


「ふふ、どうもありがとう!」


 微妙な顔をして「うーん、この」とかつぶやかれたのはどうしてなんだろう? あたし、普通にかわいいと思うんだけど?


 そうこうしているうちに、あたしたちは目的の巣穴へとたどり着いた。いまだに魔の根源というものが何かを観測された記録は無いけれども、洞窟の中から瘴気のようなものが漂っているのはわかる。

 そして、入り口を守る魔物オークの姿が目に入る。

 魔物オークは普通のオークをより豚に近づけたような顔をしている。下あごからは犬歯の部分が角のように伸びた牙になっていて、鼻も前に突き出るように変化してイノシシをイメージさせる形相になる。腕や足は丸太のように太くなり、異常なまでの怪力を持つようになる。あたしよりも筋力が高くなる見たいね。

 ちなみに、知ってると思うけれども魔物じゃないオークは亜人の豚種が一般的にオークとされるイメージね。

 今、入り口を見張っている魔物オークは、皮鎧に身を包み、大きな戦斧を構えている。ジェルドさんたち斥候の人が中の様子まで探れなかった原因のようだった。


「オークウォーリア2体か……」


 マルコットさんがそうつぶやく。この国では魔物オークを始め、役割で細分化するようだ。あたしにとっては元は亜人オークの人が魔物化しただけにしか見えないが、常識の違いだろう。


「魔物化しているので、余計に凶悪ですね……」

「プリシラさん、1体行けますか?」


 なぜ、あたしに丁寧語?


「まあ、1体なら……」


 さすがに2体はキツイけれども、1体ぐらいならいけるかなぁ。もちろん援護ありでだけれども。

 ただ、他の人はそうは解釈しなかったようで、ざわめく。


「マジかよ」

「さすが『小型オーガ姫』」

「どういう身体構造してるんだ」


 ムカッ!

 あたしが『小型オーガ姫』と言ったやつを目ざとくにらむと、目をそらされた。


「じゃあ、プリシラさんは右の方を、我々は左の方をそれぞれ片付けよう」

「え、ちょっと、あたしの負担多くない?!」

「噂に聞くプリシラさんの実力なら大丈夫ですよ!」


 うーん、あたし、マルコットさん嫌いかも……。これでも、あたし、ちゃんとかわいい女の子を頑張ってるんだけどなぁ……。


「では、行きましょう!」


 魔法使いがあたしにバフをかけてくれる。それ以外は自分でやれという事らしい。”主”も控えているし、ここで全力は出せないのよねぇ……。残りの3パーティ全員があっち行っちゃったし。そこまでの敵だったかしら?

 などと考えつつ、あたしはグレートソードを構えて魔物オークの前に立つ。なんで後ずさりしたんだろ?


「いくわよ!」


 魔力を身体強化に使う。さらに強化する『狂戦士化』魔法もあるけれども、ここで使うのはもったいない。あたしは地面を蹴り、オークに切りかかる。


「グォォ!」


 グレートソードと戦斧のぶつかり合う激しい金属音が鳴り響く。3回打ち合ってわかったけれども、斧の扱い方が素人だと感じた。いや、ある程度は場慣れしているけれども、使えるだけでプロではないという感じ。専門技術は習ってないように感じる。力任せに振り回しているというのに、少しばかり経験があるからそこそこうまく扱えている、というのが評価として正しいだろうか? そんな感じ。

 魔物化してなかったら殺すのをためらったけれども、相手は魔物なのだ。消耗する必要も無いのでサクッと倒すことにした。


「はぁっ!」


 斜めに切り込む。ガキンと音を立てて、戦斧が欠ける。オークが慌ててあたしに切りかかる。避ける必要も無いので、そのまま懐まで間合いを詰めて、おなかに蹴りを入れる。皮鎧が大きくへこむ。あたしのブーツの方が良い皮使ってるしね。大きくのけぞって、体制が崩れたので、あたしは斜めに切った勢いの残ったグレートソードを脇腹から横なぎで切り払う。簡単な皮鎧だったからね、脇腹部分は生身のままだった。そのまま、グレートソードを引く要領で切り抜くと、魔物オーガを横に真っ二つ……とはいかないけれども、致命傷を与えることができた。


「ふぅ……」


 今まで戦ってきた魔物オーガの中では……オーガウォーリアで見るならば弱い方かな。装備も貧弱だったし、戦いの経験もあまりないように感じたし。

 しかし、もう慣れたとはいっても、他人を殺すというのは嫌な感覚が残る。いや、魔物化した時点で死んだも同然なんだけれどね。殺したところで変質した体が元に戻るわけでもないし……。

 書いてる時点では考えちゃうけれども、戦いの最中だから、ここまで細かくは考えてなかったけどね。ちゃんと首を撥ねてとどめも刺しちゃったし。

 あたしがちらりともう一方の方を見ると、押しているとはいえまだ戦っている最中だった。武装した集団が一人を相手にボコボコにしているさまは、何か嫌なものを見た感じがするけれども。

 とりあえず、あたしはグレートソードについた血をふき取り、討伐部位として魔物オークの耳を切り取っている間に戦闘が終了したようだった。


「プリシラさん、加勢にって……」

「もう戦闘が終わってる」


 なんか皆さん驚愕しているけど、あたしの専門は戦い、それもアタッカーなのだ。この後の洞窟探索はそこまで得意じゃない。だから、こいつ一人で良いんじゃないかみたいな雰囲気はやめてほしい。


「とりあえず、門番は倒しましたし、先に進みましょう!」


 あたしはついつい愚痴っぽくなりかけた自分を戒めて、明るい口調で先に進むように進言した。

 洞窟、つまりは巣になるんだけれども、元々魔物化する前から住み着いていたようで、色々な物品が置かれていた。察するに、盗賊団だったのだろう。探索にはあたしは役に立たないので、斥候の方々や探知魔法使いにお世話になりっぱなしだけど、まあ、元から集団で行動しているので問題なかった。


「もともと盗賊団っぽいですね」

「まあ、そうだろうな」

「あ、これ、商人が奪われたって言ってた物品もありますよ!」


 どうやら、地域を騒がせていた盗賊団だったようである。まあ、ゴブリンやオーク、トロールやオーガと言った亜人は他の亜人に比べて差別されやすいのが事実だ。一番人口の多い人間ヒューマンと比べて、見た目が違うからね。よく聞く話ではある。


「なるほどな、盗賊団のアジトに何かのきっかけで【魔の根源】が出現してしまい、それに触れてしまったんだな」

「【魔の根源】を発見したら、封印をお願いしますね」

「わかりました」


 【魔の根源】は封印することができる。というか、封印しなければならない。あたしはもちろんできないけれどね。できるのは神聖魔法を使える人だけである。神聖魔法使いは主に僧侶プリーストと言われる役職の人が使えるんだけれども、たまに普通の魔法使いも使えたりするのでよくわからない。だから、パーティを組む際は必ず神聖魔法が使える人と組む必要があった。

 ただ、《冥夜騎士団 めいやきしだん》、《蜃気楼の審判ミラージュジャッチメント》にはいるけれども、《血腥い安楽死クリムゾンユーサネイジア》には居ないように見える。まあ、《血腥い安楽死クリムゾンユーサネイジア》の人たちってただのごろつきにしか見えないし、そもそも神聖魔法を使う人が組みたがるような人たちではないしね。その場合は、神聖魔法を使える人がいるパーティに依頼するか、冒険者ギルドに通報するか、騎士団に通報するかのどれかである。


 そんな探索で役に立てないあたしは、殿を任されてはいるもののやることが無いので、お話を聞きながら持ち込んだパンを食べていた。


「いやぁ、それにしても、プリシラさんが殿しんがりを引き受けてくれて安心します」


 《蜃気楼の審判ミラージュジャッチメント》の僧侶の格好をした子にそう言われる。


「そう? あたし、何もせずについて行ってるだけだけどね」


 前の方ではたまに戦いの音が聞こえるので、魔物との戦いはあるのだろう。単に前線の人たちで対処できてしまうので、あたしの番が無いだけである。


「いや、オークウォーリアーを単独で討伐できる人なんて普通いないですし。安心感が違いますよ!」

「うん、役に立っているならよかったわ!」


 あたしのおかげで安心できるんだったら、殿も安いものである。ただ、おなかの調子から、あたしは昼ご飯を食べそこなったことを感じていた。ぐぅぅ……。


「お腹すきました?」

「お昼時過ぎちゃったしね~。予備のパンも尽きちゃったし……」

「よかったら食べます?」


 僧侶の子から渡されたのは、緊急食事レーションだ。ただ、おなかを満たすためだけの食事で、もちろんおいしくない。が、これがあるのとないのとでは生還率が違ってくるという話を聞いたことがある。


「いいの?」

「今回の依頼はプリシラさんのおかげで無事達成できそうですし、私の分はまだあるんで大丈夫ですよ!」

「ありがとう!」


 あたしの身体って燃費が悪いのよね。

 なので、緊急食事レーションをありがたくいただくことにした。

 袋から取り出すと、乾パンとも何とも形容しがたい固形物が顔を出す。おいしくない味を誤魔化すための香りはどうやらバナナの香りだった。口に含むと、何とも言えない。味が無いのにバナナの香りがする何か堅いものを噛んでる感じ。まったくおいしくはないけれども、飲み込めばちゃんとおなかにたまる。

 あたしは帰ったら、また『山羊肉のワイン煮込み』を食べようと決心した。


「お腹は膨れました?」

「うん、まあね」

「まあ、微妙な反応になりますよね~。おいしくないですし」

「でも、おかげで助かったよ~! ありがとう!」

「ふふ、どういたしまして」


 そんな感じで、後ろは特に何もなく探索が進んでいく。たまに出てくる魔物オークとの戦いも、基本的に後ろにいるあたしには出番が回ってくることは無い。

 ただ、ついにあたしにも出番が回ってきた。そう、"主"のいる部屋に到着したのだ。


「プリシラさん、前に来てください」

「はいは~い」


 マルコットさんに呼ばれて、あたしは前に行く。


「この部屋がどうやら”主”がいるようです」

「ん、任せて」

「【魔の根源】に近いみたいです。もう一度、瘴気を防ぐ魔法をかけますね」


 そう言うと、神聖魔法を使う僧侶の二人が、あたしたち全員に魔法をかけてくれる。


「「『エクソシズム』!」」


 あたしたち全員の身体に、瘴気から身を守るための魔法がかかる。瘴気による息苦しさも軽減され、動きやすくなるのだ。効果的な魔法が『退魔魔法』であるのが瘴気や魔の根源の性質を示していると思う。


「いくぞ」


 マルコットさんが扉を蹴破ると、中からムワッとするほどの瘴気があふれてくる。これはもう、盗賊団は全滅確定だろう。突入すると、魔物化したオークやゴブリン、そしてゴブリンロードがあたしたちを待っていた。

 ゴブリンロードは、ゴブリンを魔物オーク並みに巨大化させた魔物だ。当然ながら変化元はゴブリンなのだけれども、”主”は前に書いた通り、魔物の集団を率いる長に該当する。つまり、理性があるのだ。


「来たか、忌々しい人間どもめ」


 と、こういう風に人語を話す。ただ、当然ながら分かり合えないので、話を聞くだけ無駄だ。


「皆さん、【魔の根源】は奥にあります!」

「つまりは、さっさと”主”をぶっ倒す必要があるというわけだな!」

「ヒャッハー! やってやるぜぇ!」


 そこそこ広い部屋、ゴブリンの群れとオーク3体、奥にゴブリンロード。あたしも本気を出す必要がありそうだった。

 あたしは戦闘態勢に移行すると同時に、『狂戦士化』魔法を発動する。あたしの魔力が闘気に変わり、全身に力がみなぎる。


「突撃ぃ!」


 マルコットさんの指示をきっかけに、それぞれのパーティで3手に分かれる。あたしは《血腥い安楽死クリムゾンユーサネイジア》の向かう方に突撃した。あたしの狙いは当然、魔物オークである。直感だけれども、一番強そうな気がしたのだ。後から聞いた話だと事実そうだった見たい。

 突撃の直線上にいるゴブリンを薙ぎ払い、残りは《血腥い安楽死クリムゾンユーサネイジア》に任せて、そのオークウォーリアーと戦いに挑む。


「はあああああぁぁぁ!!」


 実は『狂戦士化』中ってまともに言葉をしゃべれなくなるのよね。

 グレートソードと戦斧が激突する。このオークウォーリアーは鉄の鎧を身にまとい、武器も入り口のオークよりもいいものを使っているのがわかる。そして、手練れだと感じさせる。武器がぶつかるたびに激しい衝撃が出る。


「おおおぉぉぉぉぉっ!!」

「グォォォォォォッ!!」


 お互い、回避を捨て武器を数度打ち付けあう。『狂戦士化』してはいるけれども、戦うための理性はちゃんとあるからね。ただ、隙が少ないので攻めあぐねてしまう。あたしの鎧とガントレッドに傷が入り、オークウォーリアーにはすんでで回避されたが掠めた部分から血が流れていた。ただ、《血腥い安楽死クリムゾンユーサネイジア》の魔法使いが魔法を放ってくれたおかげで、隙ができた。炎の魔法が命中したのだ。


「あああぁぁぁぁぁああ!!」


 あたしは、オークウォーリアーの気が一瞬逸れたことを感じ、武器を持っている腕を切りつける。オークウォーリアーは武器を落としてしまった。そのまま、あたしは真正面から叩き切る。真っ二つになり倒れるオークウォーリアー。

 あたしはあとでお礼を言おうと思って、そのままゴブリンロードのところまで走る。


「に、人間め……! なんだその力は!」

「おぉぉぉおおぉぉぉ!!!」


 ゴブリンロードは、巨大な片手剣と魔法の杖を手にしたゴブリンだ。つまりは、魔法も使えるという事である。ただ、ここまで接近してしまえば魔法の詠唱どころではない。

 あたしが切りつけると、ゴブリンロードはその手に持った剣で受け止める。


「ぐぅ、重い……!」


 3回激突したけれども、ゴブリンロードはそれで手が痺れてしまったように見える。


「そんな小柄な体型で、どこにそんな力が?!」


 うるさい。


「あああああぁぁぁあああああぁ!!」


 力を込めて切りつけようとすると、あたしの振りかぶった剣にゴブリンロードの魔法の杖から魔力弾が出て弾かれてしまう。


「何をしている! 俺を守れ!!」


 その一瞬の間に、あたしとゴブリンロードの間に魔物が出現する。現地生物が魔物化したものではなく、瘴気が直接魔物になったもので、そこそこ強いのに倒しても討伐証明部位が霧散する、うま味のない魔物だ。

 2mぐらいの奇妙な形をした虫のような何か、ぐじゅぐじゅした肉塊に5本の触手が生えた何かだ。どちらも気色悪いことには変わりがない。


「ビヤーキにポリプ?! また面倒な!」


 マルコットさんたちが駆けつけてくれたらしい。全員傷だらけであり、オークウォーリアーとの戦いが激しいものだったことがわかる。


「プリシラさん……は『狂戦士化』中なのか。どちらにしても、協力して戦うぞ!」


 ここまでくると、ほぼ勝ち確定よね。

 苦し紛れに召喚された魔物はマルコットさん達が倒し、あたしはゴブリンロードとの直線状にいたポリプを細切れにする。

 そのままの勢いで、あたしはゴブリンロードの剣を攻撃する。剣の腹であたしのグレートソードを受け止めたせいで、ぽっきりと折れてしまう。


「なっ?!」


 そのまま、あたしは魔法の杖を狙う。攻撃を中断させられると面倒だからね。当然、ゴブリンロードは避けられるはずもなく、魔法の杖は腕ごと粉砕、そしてあたしは最強の一撃を叩き込む。


「あああああぁぁぁあああああぁ!!」

「うわああああああああぁぁぁああぁぁ!!」


 あたしの一撃で、ゴブリンロードは無事真っ二つになったとさ。


「い、いやぁ、プリシラさんすごいねぇ!」


 戦闘が終わったあたしは、『狂戦士化』を解除する。魔法だからね。ただ、結構体内の魔力を使ってしまった。


「ふぅ、疲れたぁぁぁぁぁ!!!」


 あたしはへたり込んでしまう。

 ただ、これで”主”は倒したし、今、神聖魔法を使う二人が【魔の根源】を封印するために奥の部屋に向かっていった。

 後は事後処理かな。封印が終わったからといって、瘴気はしばらく残ってしまうので、その影響で魔物が発生する可能性はあるらしい。洞窟はもちろん閉鎖。瘴気が空気中に拡散されて薄められるように、開けっ放しで洞窟の前に柵と看板を設置する処理が行われる。

 ただ、【魔の根源】は封印されたので、”主”は出現しないという話だった。


 一方、あたしはと言うと、昨日の食堂に行き、稼いだばっかりのお金でさっそく『山羊肉のワイン煮込み』をいただくことになったのでした。

 美味しかったなぁ~。

 明日はアーリーソン村からラングバルに帰るだけだし、面白いことが無ければ省略しようかな?

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