ラスティンネル皇国

交易都市ラングバル

第1話 【冒険者】プリシラ・ヴェルトリス

 あたしの名前はプリシラ・ヴェルトリス。

 17歳の旅人だ。

 旅の目的は世界のおいしいものを食べること!

 それと、悪鬼を倒すためにあたしの住んでいた村を出て行って行方不明になったお父さんを探し出すことだ。

 仲良くなった同じ旅仲間の友達に、物語調で手記を書いていったら、後々冒険譚ぼうけんたんとして売れるよってアドバイスをもらったから、せっかくだから書いていくことにする。

 とはいっても、旅を始めてからもう2年は過ぎちゃってるんだけどね。


 手始めに、今日あったことでも書いていこうと思う。

 今日はアーリーソン村の宿屋にお世話になってる。

 一泊1,500ルピー……あたしの国の貨幣価値だと300銀貨といった感じの安い宿になるかな?

 まあ、泊まるのはこれまで旅をしていく中で冒険者の真似事をして稼いだお金があるから、全然問題ないんだけれども、おいしいものを食べようと思ったり女の子だし美容に気を遣うようになってから、当然ながら出費が増えたわけで、アーリーソン村でもあたしは冒険者の真似事をしてお金を稼ごうと思ったわけ。

 村について早々、酒場に行ったんだけど、どうやら物々しい雰囲気で、どうやらそこは冒険者が集まる酒場だったのよね。いわゆる冒険者の酒場。

 村にしてはこんなにも冒険者がいるなんて珍しいなぁ、まあそれも仕方がないけどなぁなんて思いながら、お昼にしようと思ったのよ。

 こういう村って、基本的にはおいしいご当地の料理があったりするから、手書きのメニューを見せてもらったのよね!


「う~ん……。それじゃ、パスタを10皿お願いするね!」

「……?! はいよ」


 こういう村では一般的な食器を使うことは少ない。

 都市部なんかだとフォークがあったりするんだけれども、”パスタ”しか書いてないということは間違いなく手づかみで食べるものになる。

 あたしは荷物の中にある食用の手袋を取り出し、(ガントレットと一体型ではない)グリップを脱いで、食用の手袋を身に着ける。

 出てきたパスタは、ロングスパゲティにチーズをふんだんにかけたものだった。

 チーズは山羊ミルクから作られたナチュラルチーズ。

 トロットロにとろけていて、パスタに絡まっている。ナイフやフォークは付属していないので、このまま手づかみで食べるのが正解なようであった。


「うわぁ~♪あつあつでおいしそう!」


 あたしはそうつぶやくと、さっそく手づかみで食べることにした。

 そのまま下から口に入れていくのが流儀なのだろうけれども、さすがにあたしはフォークとナイフの文化を知っているので、一口大に簡単にまとめて口に放り込む。

 あつあつトロトロの濃厚な山羊のミルクのチーズがパスタに絡まり、クリーミーで味わい深いけれども素朴な味が口に広がる。

 パスタの塩加減もなかなかいい感じだ。

 都市部のチーズパスタとはまた違った素朴な家庭料理感がまた良い。

 チーズは手作りなのかな?

 書いてておなか空いてきちゃうよ……!

 味付けも、純粋なチーズではなく、ちゃんとチーズソースになっているのも工夫が凝らされている感じがしてよかった。


 あたしがパスタを堪能していると、一瞬で無くなってしまう。

 まあ、軽食だし、こんなものかなと思った。

 あたしはフライドポテトを食べるかのようなスナック感覚でちょっと物足りなかったかな。

 ただ、のんきに食事をしているあたしに、ガラの悪い冒険者パーティが話しかけてきた。


「お、おい、お嬢ちゃん……?」

「ん?どうしたのかしら?」

「あんたも冒険者、なんだよな?」

「ん~。まあ、旅人だけれども、冒険者の真似事をしてるわね」

「なら、話は聞いてるんだろう? この村の近場で魔物の大量発生があったって話だ。かなりの量をぺろりと平らげてるところ悪いが、この村は安全ではないんだぜ?」


 かなりの量って、10皿程度なんだけれどなぁ。


 もちろん、あたしだってこの村に依頼を聞いてやってきてるわけだ。

 アーリーソン村の近くにある交易都市ラングバルの冒険者ギルドに入った依頼になる。

 なので、あたしは冒険者としてのタグを見せてあげる。

 このタグは、この国での冒険者としての証になる。あたしの国だと、ネックレスになるんだけれどもね。


 ほとんどの冒険者ギルドは功績によってランク分けをしている。冒険者の仕組みを詳しく知らない人も多いだろうから一応書いておくけど、大体5段階に分かれることになるのよね。白金プラチナ、金、銀、銅、鉄で分かれているわ。

 国によってはS、A、B、C、Dみたいに、アルファベットで表記することもあるみたいだけど、なんでAより上がSなのかしらね?

 鉄ランクはだいたい冒険者になりたての人で、指定された素材の収集だったり、町の雑務や弱いとされる魔物の討伐や野生動物の狩猟を主な仕事としているわね。

 銅ランクはたぶん一番人口が多いのかな? 遺跡の探索をして財宝を求めたり、商団の護衛や魔物や野生動物の討伐といった生業をしていることが多いわね。町によってはダンジョンと呼ばれる魔物の巣窟があったりして、そこに潜るための最低ランクとされることが多いわね。あとは、依頼の難易度調査の仕事もあったりするわね。依頼料は高額なんだけど、死ぬ危険が異常に高かったりするからあんまり受けたいものではないのよね。

 それ以上のランクは要するに、難易度の高いとされる依頼を受けるための資格扱いになるわね。危険度の高い魔物や、遺跡の探索、ダンジョンの踏破なんかがあるわ。それに、高ランクの冒険者ともなると国とのつながりができちゃったりするらしいので、旅人のあたしには不要なランクである。

 ということで、あたしのランクは銅である。これは一般的な冒険者や旅人が持っていることが多いかな。


 まあ、そんな銅のタグを見せたところ、なぜか鼻で笑うガラの悪そうな冒険者。


「ちんちくりんのお嬢ちゃんが銅? おいおい、冗談はそれぐらいにして、帰ったほうがいいぜ?」

「そうそう、俺たちみたいにパーティを組んでなさそうだしな」


 まあ、彼らなりの親切心なのだろうけれどもこちらとしても生活が懸かっているので、引くわけにはいかない。


「ありがとう! ただ、あたしも依頼を受けてここにきてるから、心配しないでね!」


 冒険者というのは、結構メンツが重要なところがある。

 とはいっても、あたしも身長は158cm(センチメートルはこの国での長さの単位だけれども)ぐらいなので、かなり小柄なのは間違いないだろう。

 女性冒険者なんかはそれでパーティ(一緒に依頼を受ける冒険者チームのこと)を組んでいるか、回復魔術や支援魔術、斥候技能なんかを持っている方が重宝されやすい。

 あたしは、そういう技術的なことはあんまり得意じゃなくて、どちらかというと前線に立って戦う法が得意なのだ。


 あたしが元気に返事をすると、少々面食らった顔をする冒険者二人。

 お皿を片付けて、料金を支払うとあたしはさっそく依頼の現状を店主さんに確認する。


「あの、魔物の大量発生についての依頼を受けてきたんですけど、あたしにも話を聞かせてもらっていいですか?」

「ん? お嬢ちゃん冒険者だったの? まあ、確かにゴツイ恰好しているからそうかなとは思っていたが」

「そうそう! まあ、旅人でもあるんだけどね!」

「お嬢ちゃんみたいな可愛い子が旅人ねぇ……。まあいいや、タグを見せてくれるかい? 一応【銅】以上が条件だからさ」

「わかったわ!」


 あたしがタグを見せると、店主のおじさんは納得したような表情をして、依頼について現状わかっていること教えてくれた。


「依頼書にある通りなんだが、この村の近くで魔物の大量発生が確認されたんだ」

「うん、書いてあったわね。主に魔物化したゴブリンやオークの集団って聞いたけれど」


 ゴブリンやオークもれっきとした種族である。あたしの住んでた国の主な種族はトロールだったりするしね。

 魔物化現象の原因はいろいろと憶測はされているけれども、【魔の根源】って呼ばれる場所に接触すると魔物になるそう。

 魔物化すると従来の種族特性が大幅に強化され、性格も狂ったり残忍になったりして、敵対的になるといわれているわね。

 まあ、野宿をして魔物になりましたなんてことはないから、実際のところは原因は不明なのだそうだけれど。

 お陰で、都市部と地方では文明の進み具合にかなりの差ができているそうな。


「そうそう。ただ、どうやら”あるじ”がいるらしくてね。統率が取れている魔物の集団だって話だ」

「”主”ねぇ……。ゴブリンロードとかがいるのかしらね」

「まあ、そんなところだと思うがね。ただ、”主”がいるかは確認が取れてないって話だよ」


 ”主”については冒険者をやってないとわからない話だから注釈すると、魔物の集団を統率している魔物のことを指すわね。

 本来は【ゴブリンロード】なんて種族は存在しないんだけれども、魔物になったら進化するらしく、その上位主が集団をまとめていることがあるのよね。

 こういう”主”がいる依頼の場合は集団で対応する必要がある。一騎当千する人は本物の狂戦士か自殺願望がある人だけである。今回はあたしを除いて3つのパーティがいるように見える。

 もちろん、あたしみたいな旅人を除いて、専業冒険者をやっている人の多くはパーティを組むことが多い。当然ながら、役割分担をしたほうが効果的に冒険できるからである。

 あたしも、仕事にあたる際はどこかのパーティに臨時参加させてもらって依頼にあたることが多い。戦闘に参加できない人でも、冒険者をやっている人もいるが、戦闘以外のすべてをこなす事務職的な立ち位置だったりするので、よほど足を引っ張らない限りは追い出すなんてありえないのだ。


「ただ、3つもパーティがいるんだと規模がかなり大きそうね」

「ああ、ただそのおかげで今のところ住人には被害が出てないのが幸いなところだ」


 あたしは懐からパンを取り出してほおばる。

 パスタ10皿じゃやっぱり足りなかったのよね。店主のおじさんは「まだ食うのかよ……」とあきれ顔をしていたけれども、おなかがすくのだから仕方がない。


「ん~~~~~……。打って出たりはしないの?」

「散発的に襲撃があるもんで、守りに徹してもらってるんですよ」

「あー……」


 拠点防衛も込みの依頼のようね。

 それだと、攻める側と守る側でそれぞれでチームを組む必要があるだろう。だからこそ、まだこの依頼は募集をしていたわけである。

 と、ここで外から声が聞こえる。


「敵襲! 敵襲~~~~~っ!!!」


 その場にいた全員が武器を手に取り外に飛び出す。

 あたしも、外に立てかけている武器を取りに外に出る。

 あたしの武器は、あたしの身長よりも大きなグレートソードだ。最近まではツーハンデットソードを使っていたのだけれど、あたしの膂力りりょくに耐え切れなくなり折れてしまってからこの剣を使っている。

 あたしはひょいと背中にマウントさせると、周囲がざわついた。


「あ、あんな巨大な鉄の塊を軽々と?!」

「あの武器、オーガかトロールの冒険者の武器かと思った……」


 あたしの体質と言ったらいいだろうか?

 人よりも筋力があるのよね。医者の人が言うには、骨の密度も筋肉の密度もほかの人よりもあって、一般的なトロール並みにはあるらしい。あたしの両親は人間なんだけどなぁ。

 昔から手加減しないといけなくて、5歳のころに男の子に泣かされたとき、突き飛ばしちゃってかなり遠くまでぶっ飛ばしてしまって怒られたことはいまだに覚えていたりする。あたしの中でもいまだに後悔しているんだろうなぁ。5歳のころの記憶なんてほとんど覚えてないのに、突き飛ばしちゃったことだけははっきりと覚えているんだもの。

 背中からはあたしにとってちょうどいい重みが伝わる。

 この武器を使うようになってから、変なのに絡まれることは少なくなったように思う。ただ、宿を取るときなんかは冒険者を想定した宿でない限りはほとんどの宿に入りきらなかったりするので、外に置くことが多いんだけれどもね!


 さて、あたしはグレートソードを背負うと、急いで村の魔物が襲撃してきたポイントに移動する。そこには、ゴブリンにボア、ゴブリンに飼いならされたオオカミがいる。


「お嬢ちゃ……」

「あたしに任せて!」


 あたしは剣を構えると、魔物すらたじろぐ。グレートソードなんて武器をお目にかかれる機会なんて確かにそうそうないだろうし、非常に威圧的だしね。これでも柄の部分はデコってはいるのだけれども、刀身の部分はデコってもぶん回しちゃうと剥げちゃうから諦めているのよね。

 足に力をためて、地面を蹴り突撃する。魔物化すると、二度と元には戻れないのでかわいそうだけれども殲滅せんめつするほかない。そもそも、魔物化するようなゴブリンさんたちは、盗賊だったり他の悪行を詰んでいることがほとんどであるので、容赦すべきではないのだ。


「はぁぁぁぁぁぁ!!!」


 ドゴォ!っと音を立てて、地面がえぐれる。返す刀で周囲を切り裂けば、あたしの周囲の魔物の多くは殲滅せんめつできる。


「な、なんだ、あの子は……」

「わ、わからねぇが、負けてらんねぇぞ!」


 あたしの突撃をきっかけに、魔物化したゴブリンとの戦いが火ぶたを切った。

 グレートソードを振り回しているからと言って、あたしが味方を切ることは無い。みんなにとってのロングソードがあたしにとってのグレートソードってだけである。ただ、両手で持って振り回した方がより正確に振れるし、力が伝わりやすいのでそうしているだけなのだ。

 あらかた血祭に上げると、今回襲撃してきた魔物は退散したようだった。


「うん、これなら満点ね!」


 あたしはブイサインをしてにっこりと笑う。自分の戦いに点数をつけるのは、自分の剣の師匠から譲り受けた癖だ。自分の戦いの癖や想定した結果とかから反省し改善していくために点数をつけていた師匠のマネである。

 周囲はざわめいているけれども、いつもの事なので気にしない。あたしは倒した魔物の討伐部位を採取し始める。こういう集団戦の時は、戦闘が終わったらどれだけ多く確保できるかというのが重要になってくる。特にあたしみたいな火力殲滅をやっていると、キルスコアがあいまいになりやすいからね。

 生活のためにやっているので、キルスコアは重要になってくる。


「本当に銅級の冒険者かよ……」


 とよく言われるけれども、火力アタッカーなんてそんなものだし、旅人で冒険者をやっててもパーティを組むなんてのは当たり前なので、どこもおかしくはない。

 前の国でも、別のパーティにお邪魔させてもらったしね。

 この国では臨時で何度かパーティを組んではいるけれども、まだお邪魔するパーティを決めかねている。けれども、決まったらしばらくはそこで活動をすると思うわ。ともあれ、あたしの目的は世界各地を巡って父親を探し出すこと。だから、力をつけなきゃいけないし、ソロでも戦える強さは必要だった。

 何にしても、役割分担できるような信頼できる人とパーティを組めたら最高なんだけれどね!

 あたしはグレートソードについた血をふき取り背負う。とっかかりも無いのに背中に吸い付くようにピタッとくっつけられるのは、あたしが使える数少ない魔法のおかげだ。空間魔法を使えればいいのだけれども、師匠から教えてもらったのがその魔法だけだったので仕方がない。

 というわけで、あらかた討伐部位を収集して、専用の革袋に収納したあたしは、意気揚々と村の宿に帰る。戦闘時間はものの数十分だったけれども、おなかがすいてしまったのだ!


「さ、ご飯~♪」


 パスタは先ほど食べたし、今度はもうちょっとカロリーの高いものにしようかな?なんて考えながら、あたしは冒険者の酒場に戻る。

 グレートソードを立てかけて、冒険者の酒場に戻ると冒険者たちがあたしを見てざわめいた。


「まさか、あんたが『小型オーガ姫』だったとは……」

「は、はぁ?! い、いきなり失礼ね!」


 先ほど突っかかってきた冒険者だった。

 【小型オーガ姫】、はあたしが隣国でつけられた不名誉な二つ名である。言われて喜ぶ女の子なんているわけないだろう。

 オーガももちろん種族なのだけれども、ヒューマンの2倍以上ある背丈に頭部に生えている角、ヒューマンとは異なる肌の色が特徴の種族で、非常に好戦的な性格をしている。

 それに例えられるのは、女の子としては非常に納得がいかない。だって、冒険者としての装いも気を使っているし、普段着もかなりオシャレに気を使っているんだよ?! 髪だって、毎日洗って綺麗にしているし、化粧も冒険者用の汗で流れにくいものを使っているのに! それなのに【小型オーガ姫】はあんまりでしょう!


「ただの人間ヒューマンがオーガしか使わないようなグレートソードを軽々と振り回している時点で察するべきだったな。すまない」

「な、ななな……!」

「ほんと、最初から『小型オーガ姫』だって言ってもらえれば……」

「やめてぇ!」


 バーンッ!

 思わず、ビンタをしてしまった。冒険者がきりもみ回転をしながら吹っ飛んで行ってしまった。

 あーあ、やっちゃった。あたしは吹っ飛ばした冒険者に駆け寄り、液状回復薬をぶっかける。あたし、力強すぎて下手したら死んじゃうからなぁ……。本来は経口用なんだけれども、仕方が無い。


「お騒がせしてごめんなさい」


 あたしは周囲にペコリと頭を下げると、とにかくおなかがすいたので、討伐部位を渡してご飯にしようと決めた。


「あの、大丈夫です?」

「あ、ああ、討伐部位ね……。それよりいいのかい?」

「だって、あたしの言われたらいやな二つ名言ってくるんですもん!」

「そ、そうかい……」


 なんだか、あきれたような、ドン引きされたような気もしたけれども、気にしていたってしょうがない。言われて嫌なことは嫌なのだ。


「結構魔物が出たんだねぇ。数えるから、少し時間を貰うけれども大丈夫かい?」

「それだったら全然! その間にどこかでご飯食べてきますね」

「あ、ああ」


 あたしはそう言うと、ルンルン気分で食堂を探しに出かけることにした。

 おいしいもの探しは、当てのないお父さん探しに次いで重要なことだ。各地にお父さんの活躍した痕跡は残っているものの、それでも12年前の話だったりする。

 そんな、砂漠の中で一粒の砂を見つけるような旅をしているのだ。他に楽しみがなくちゃやってられない。

 というわけで、あたしは村の中を散策する。ぐぅぅっとおなかは鳴るけれども、こういった地元の食堂でしか味わえない食事処を見つけて、おいしい食事をするのは、あたしにとっての心のオアシスだ。

 確かに、冒険者の酒場の食事もいいけれども、今の酒場は冒険者でごった返しているし、あたしの二つ名が聞こえて非常に恥ずかしいので食事を楽しむどころの話ではない!

 なので、一般の食堂に足を向けるのだ。

 ちなみに、さすがにグレートソードは置いたままにしている。あたしのグレートソードを盗むやつなんて居ないしね。


「うーん……あるかなぁ……? おっ!」


 よさそうなお店を発見した。


「あの、すみません。やってますか?」


 あたしが扉を叩いてそう聞くと、お店の人が出てきた。


「……冒険者さんかい?」

「はい! ここって食堂ですよね?」

「そうだよ。ちょっと待ってな。あんたー! お客さん!」


 ドタバタとお店のおかみさんが、店を準備する。


「お客さん、入って入って!」

「あ、はい!」


 あたしはおかみさんに案内される。お店の雰囲気は木造の田舎の一軒家を改築した感じかな。フローリングに机が3つ並んでいて、椅子は無い。立ち食いかな?

 木造建築特有の木の香りと、おいしいご飯の香りが立ち込めるいいお店だ。壁にはこの国の言葉で書かれた手書きのメニューが貼ってあり、この雑多感がたまらなかった。

 あ、もちろんあたしは文字を読めるよ。冒険者の酒場では一般共用語で書かれていることがほとんどだけれども、こういった地元のお店ではその国の言葉で書かれていることがほとんどだから、言語の習得は食事を楽しむ上での重要なファクターになるからね!

 さて、戦った後だし、お肉がっつりでいきたい。パスタはおやつに食べたから、それ以外でいいのはないかなぁ?

 と、目についたのが『山羊肉のワイン煮込み』だった。

 あたしのおなかが、あれを欲してか、またぐぅぅぅっと鳴る。


「よっぽどおなかがすいているんだねぇ」

「えへへ……」


 やはり、おなかの虫の鳴き声を聞かれるのは恥ずかしい。さっそく注文をしようと思う。


「えーっと、『山羊肉のワイン煮込み』をお願いします」

「パンはいるかい?」

「あ、はい、お願いします」


 注文をして待っている時間も、なかなかにいい時間である。待っている間に地元の人が何人か入ってきて注文をしている。椅子なんかないのに、ちゃんと立って待っているのだ。食堂という感じがしていいなぁなんて考えていると、料理がやってきた。


「はいよ、お待たせ」

「わぁ~~~~~~!!!」


 出てきたのは、パンに『山羊肉のワイン煮込み』、玉ねぎスープにサラダだった。食器類が出ていないので、これも手づかみで食べる必要がある。あたしは手袋を食事用のものに入れ替えて、食事に臨むことにした。


「スープとサラダはおまけだよ」

「ありがとうございます!」


 パンはスライスされている、この国の堅いパンで、両面を焼かれてトーストされている。玉ねぎのスープは、他の料理で使うのだろうか、山羊肉の独特の香りが移ったコンソメスープだった。サラダは地元の野菜を使っている感じかな。

 早速、スープを口に含む。山羊肉特有の臭みは若干残っているものの、それを含めてもなかなかいいバランスのスープだった。野生の味と言ったら伝わるだろうか?好き嫌い好みはわかれるだろうけれども、あたしは当然好きである。

 サラダも新鮮な野菜を使っているおかげで、青臭いけれどもシャキシャキしておいしかった。

 さて、メインの『山羊肉のワイン煮込み』である。パンに乗せて食べるもよし、そのまま手づかみで食べるもよし。あたしはパンに乗せて食べることにした。赤ワインでしっかりと煮込まれた山羊肉はホロホロで、指でつまむと崩れてしまうほどだった。

 それをパンに乗っける。そして頬張る。すると、トーストされたパンのサクサクの触感に、山羊肉の味が染みた赤ワインの濃厚なスープが口いっぱいに広がる。トロトロのスープの中に、野菜が溶け込んでいるのも、味に深みが出ている原因だろうか?


「ん~~~~~~~♪」


 これは、贅沢だなぁ!

 こんなおいしいものを、こんな田舎の村の食堂で食べれるなんて、贅沢だ!

 これで、750ルピーだから、なかなかにお安いのではないだろうか?!

 あたしはついつい満面の笑みを浮かべて、ペロリと平らげてしまった。


「ごちそうさまでした!」


 山羊肉が嫌いな人には向かないかなぁなんて思うけれども、山羊肉が好きな人には充分に堪能できる食事でした。

 明日も仕事が終わったら食べに行こうかな?♪

 そんな感じで、あたしは宿に戻り、今日一日を終えたのでした。

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