流行病
うかつにも、わたしは、最近はやっている。感染症にかかってしまい、ミサも出来なければ拘置所へ教誨へ行くこともできない。
「今田神父しっかりしするんだ!」
わきで、高野神父がマスクをして声を出した。
本来ならば、病者の塗油を授ける側のなに、自分が受ける事になるとは情けない神父だと思いながらも、わたしは、掛け布団をのけて起き上がった。
「高野神父、本当にありがとうございます。ただ、本当は今日はわたしが教誨へ行かなきゃならないのにこの様になって情けないです」
わたしのガラガラ声に対して、高野神父は優しげに微笑みながら語りかけるように、いや呟くように「聖職者だって神ではないんだよ、弱い人間だからこそ神はわたしたちを選んでくださったんだと思うよ」
「父と子と聖霊の御名によってあなたに聖なる油を塗ります」と高野神父はわたしの額と両手のに聖油を塗った。
自分自身の不甲斐なさと高野神父の優しさに泪があふれそうになりながらも「ありがとうございます」と力を振り絞って言おうとしたが、声が出ない。
「無理はしないでゆっくりお休みなさい、後で食事を持ってくるから、とにかく今はしっかり栄養を取って身体を休めないと」
そう言って高野神父は部屋を出て行った。
ベッドに横たわりながら吉田は今日どうしているだろうか? と考えているうちに薬の副作用か眠りについていた。
ドアの開く音に目が覚めると味噌の香りがした。
「起きているかな?」と小声が響いた。
その声にわたしは「おきています」と返した。不思議なものでさっきまでは、全く声が出なかったのに声が出た。
そして、わたしは起き上がると「消化も良く栄養のある物をと思って味噌煮込みうどんにしたよ」と高野神父がうどんを作り部屋まで持ってきてくれた。
起き上がり食前の祈りを唱えた後にうどんを啜る。
「味は濃くないかな?」と高野神父が優しげに尋ねてくるのにたいして「最高ですよ」と返して、わたしは、あっという間にうどんを平らげてしまった。高野神父は満面の笑みを浮かべながら「美味い物は自然と身体に入っていくからね」と言い続けて「おかわりはどうかな?」と聞いてきたので「よろこんで!」と声を出した。
気がついたら声がいつものように出るようになっていた。高野神父がおかわりを取りに行ってくれてる間枕元の手帳を見ながらスケジュールが来るってしまったと思っている時に高野神父が入ってきて「まぁスケジュールと言うのは狂うモノだよ」と励ましてくれた。
「そうですね。予期せぬ事態って本当にありますね」と呟くと高野神父は「まぁ、何が起こるかわからないから人生は、面白いのでないかな?」
高野神父のシンプルな回答ではあるがその言葉にはベテランの神父である重みを感じた。
「今日、吉田がどうしているのか気になっているんだろう?」と俯いているわたしに問いかけてきた。
「それは気になりますよ、わたしが、行かねばならないのに穴を開けてしまって」と素直に思いを打ち明けると高野神父は「大丈夫だよ、教誨師連盟からプロテスタントの牧師が臨時で派遣されたと聞いているよ」と答えた。
果たして本当に大丈夫なんだろうか? と頭の中に疑問符が沢山出てきてしまい、少しぼんやりとしてしまった。
「とにかく今は早く病気を治して聖務に復帰できるようにあまり思い悩まず御手にゆだねなさい」
そう言って高野神父は部屋を後にした。
確かに、基本的なことかも知れない神の御手にゆだねることを忙しさのあまり忘れてしまいがちだが、とにかく今は身体を休めることが大事だとわたしは再び眠りについた。
告解 猫川 怜 @nekokawarei
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