第47話 二つの趙
靳準の乱を平定して後、皇帝として即位した劉曜の元へは、石勒からの使者が送られていた。
使者の
劉曜は皇后を
王脩が口を開く前に、劉曜がにやりと笑って言った。
「石勒のことを王に封じると言ったな」
「は、我が主にとりましても、ありがたき幸せに……」
「あれはやめた」
劉曜は羊皇后を押しのけると、いきなり佩用の剣を抜き放った。
五色の剣がゆらめき、王脩の首が宙を舞った。
一瞬遅れて血が首の根本から噴き出し、朝堂を赤く染めた。
劉曜が舌で剣を舐めると、その剣の色は妖しく変じた。
「石勒、初めて会った時から気に入らぬ男だった。妥協は帝王の道ではない。雌雄を決そうではないか」
◇
それは、石勒が新たに皇帝として即位した
「劉曜め。はじめは加増だの、王に封じるだのと、俺をおだてるようなことを言って、結局はこれか」
張賓は首を桶にしまい直すと口を開く。
「家臣から閣下に二心ありと吹き込まれると俄かに態度を変じ、使者の首を刎ねたということです。また、劉曜は漢建国以来の遺風を刷新し、近く国号をも、
石勒は嘆息する。
「名実共に漢は滅んだ、ということだ」
しばしの沈黙の後に石勒は立ち上がる。
「今まで亡き劉元海陛下のご恩があったればこそ、その子孫にも仕えてきたが、もうやめだ。王や帝の尊号は、自らの手で掴み取ってやる。劉曜なんぞの任命を受けるまでもない」
高らかに宣言する石勒に、張賓は頷く。
「それでこそ我が主です。今こそ雄飛の時。劉備が蜀にて建国したときの故事、または曹操が鄴にて建国したときの故事に従い、
石勒は名刀石氏昌を抜剣し、群臣を前に高らかに宣言した。
「俺は独立し、王となる!亡き劉元海陛下の果たせなかった夢、胡と漢にまたがる大帝国は、この石勒が実現してみせる!」
張賓が問う。
「して、国号はどうなされますか」
「
張賓はじめ群臣はポカンとした顔をする。
「それだと劉曜が新たに建てる国号と丸かぶりしますが」
石勒はにっと笑う。
「だからだよ。喧嘩売るときは徹底的にやらんとな」
張賓も笑う。
「なるほど。それでこそ、我が主です」
こうして二つの趙が並び立ち、争いあう時代が訪れた。
後世の人は、劉曜の建てた趙を
二つの趙の抗争に江南の東晋が絡み、乱世は加速する。
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