第1話 武士の街
2015年6月22日午後。
天神駅の通路の壁には福岡空港のポスターがずらりと並んでいる。
飛行機を降りてすぐの地下鉄で来たところだ。地元の空港を推す気持ちはわかる気がする。
仏独旅行で同じツアーだった福岡在住のご夫婦を思い出した。
福岡まで新幹線に乗ってきた人は、博多駅で降りる。天神駅の利用者は、空港を行き来する人に多いらしい。
福岡と博多は別の街だという。商人の町である博多と、武士の町だった福岡。
この辺りはどうやら武士の町だったようだ。これからチェックインするホテルの住所の地名は「大名」という。
「ホテルモントレ ラ・スール福岡」という、
内装がアールヌーボー調で素敵なところで、ガイドブックを見て一目惚れした。2泊3日で2泊とも同じホテルだ。
地下鉄天神駅出口の脇にある大きなビルの縁石に荷物を置いて、家で印刷してきた地図を見てみる。ホテルはすぐそこのはずだ。
しばらく真っ直ぐ歩くと、十字路が「ふにょっ」としている。
道路がクランク状に近い形に曲がっているのだが、大小さまざまな自動車が一様に曲線を描くのを見ていると空間が湾曲しているようでシュールな光景だ。
右手上を見れば、探していたホテルの看板が見えた。
チェックインが済んだときには疲れたし喉は乾いていたが、しばらく前にオープントップバス観光のことを知っていたので、乗り場のある公園に急いだ。
二階建てバスは子供のころキティちゃんの絵本か何かで見て以来憧れだったじゃないの!
公園に着いて、周りを見渡した。
大都会!
まるで「首都」だ。
もし私が初来日した外国人で、
「ここが日本の首都だよ。東京? まあそんな時代もあったね」
などと言われたら信じたかもしれない。
バス乗り場が見えてきたが乗車券をまだ持っておらず、券の売り場は同じ公園のなかでも少し離れたところにあるようだ。
運転手さんに尋ねてみたが、話が終わると私はいきなり違う方向へ歩き出してしまったらしい。運転手さんは親切にも駆け寄ってきて売り場に案内してくださった。
平日で、夕方とはいえまだサラリーマンの帰宅時間ではない。そのためか乗客は少なく、私と隣の席の奥さんの他に誰がいたか思いだせない。
櫛田神社、大濠公園などを周る。
この奥さんとは何だか気が合って、なんと水炊きを一緒にいただいた後で、オープントップバスツアーの夜の部も一緒に乗ることになった。
思いがけず、楽しくおしゃべりしながら食事する機会に恵まれて嬉しかった。
夜の部はライトアップされた近現代の建築物が多かった。
バスガイドさんから面白い話をたくさん聞けた。
十字路を曲線にさせたのは黒田官兵衛で、町の防備のためだったそう。
時代が下がって、道路整備のためにこの道をまっすぐにする提案がなされたが、それには教会を移動する必要があることから却下された。
一昨年(2021年)5月に惜しまれつつ閉店したロシア料理店「ツンドラ」、移動しなくて済んだ教会、まんだらけ福岡店などが並ぶ通りを走って終点となった。
(続く)
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