第25話 鉱物系魔界攻略


「やあ、わたし達が魔界へ潜る日時を把握できる権限を持つ立場にいる迷宮護衛騎士隊のアレッジ隊長殿じゃないですか。おはようございます。今日はどうしました? わたし達が潜ったあとの魔界の門を外から釘とトンカチ使って閉じるつもりかい?」

「……そんなことするか、馬鹿! 見回りだ!」


 騎士一隊を引き連れたアレッジ・クラムと魔宮の中でばったり出会ったのだ。


「なんだ? 今から潜るのか?」

「はい、今からです。そうそう、先だってはナイスアドバイスありがとうございます。おかげさまで2日という短期間で帰って参りました。わたしが大勢の弱い者を相手にした弱い者いじめが得意だとよくご存じで」

「つくづく……、口の減らない女だな」

「おやおや、心の底から感謝しているというのに。美人に懐かれて気分を害する男は初めてだね。……美少年を紹介しようか? レニー君というのだが」

 薄っい笑いを目に浮かべ、その目に口角が突き刺さるほど歪めたクロ。

 アレッジは憎々しげに、忌々しそうに、苦虫をかみつぶした顔を歪めた。

「貴様の! 顔を! 見に来たのではない!」

 アレッジは一言一言、語尾に力を込め、区切りながら発音した。クロによく聞かせるためかもしれない。

「勇者が、明日、騎士団とともに、大魔界に挑むのだ! 我らはその下準備だ! ぽっと出の新人にかまけている 暇 は な い !」

「いがみ合うわたし達が偶然出くわす確率を計算すると――」

「いい! もーいい! もういい。クロが来るだろう時間に合わせてここへきたのは事実だ! クロが変な事しでかさないよう目を光らせるのも警備担当の立派なつとめだ!」

「帰ってきたら勇者殿を紹介してくれないか? お金持ちなんだろ?」

「絶対お前にだけは紹介しない! 絶対にだ!」

「さぞや男っぷりが良いのだろうねぇ? お金持ちなんだろ?」

「話を聞けよ!」

 アレッジは顔を真っ赤にしてふるえている。


 後ろの騎士達はおろおろするばかり。幾人かはクロに早く行け、行ってくれと目で訴えている。

 そういえば勇者の情報を集めることを忘れていたな……。

 アレッジに勇者のことを聞こうと思ったが、たぶんいい加減な偽情報を渡されるだろう。別の人に聞くことにしよう。


「じゃ! 行ってきます! 勇者殿に美女がよろしくと言っていたと伝えてくれたまえ!」

「いってきまーす! ばいばーい!」

 クロとチョコはそろって手を振り、魔界の門をくぐっていった。

 アレッジはシッシと手を振って答えた。


「気をつけて行ってこい。そして苦労してこい。苦労を重ねた新人だけが生き残れるのだ。何せこの魔界は……」

 アレッジはクロに負けず劣らずの角度で口角を歪めてそう言った。



 魔界の門をしばらく進み、一端立ち止まったクロとチョコ。

 周囲を観察する。

 魔界を構成する物質は、岩っぽいのが中心となっているが、所々、なんらかの金属が露呈している。鉄や銅や鉛はもとより、アルミっぽいのとかチタンぽいのとかがチラホラ垣間見える。

 ここを攻略後、こういった金属類が剥がされて持ち出され、資源になるのだろう。まさに採掘現場だ。

 金や銀やプラチナが溢れる魔界があったら良いなと思う。


 して――


 クロは前回同様、木片を設置している。今回も引き続き前回同様の調査をするのだ。

 

「さてチョコ君!」

「なになに?」

「宿を出る前にも言ったけど、ここで出てくる魔獣は、石とか鉄とかで出来ている。今までのような獣の匂いはしないはず。かわりに足音が大きいと思う。鼻より耳を働かせてくれたまえ!」

「りょーかいです!」

 ピョコピョコンと大きな耳が動いた。


 入って間もなくは、さすがのクロも慎重に進む。大体の感覚を掴むまでであるが。

 さっそく、この魔界の姿を見ることとなる。


「ほほー、さすが騎士隊長。手回しがよろしい。いずれ、騎士団の頂点に立つお方と見た!」

 受付の説明に、これは無かった。


 一本道がデフォの魔界が、枝分かれしているのだ。入ってすぐのところだから、調査した騎士が報告に上げないわけがない。


「何事も絶対ではない。枝分かれしている魔界もあり得る。だが、本格的な迷路にはなっていないだろう。そこまで構造を複雑化させるエネルギーがあれば、魔獣の強化に努めるはずだ。弱い魔界を作る気がないなら効果効率に勤めるはず。自分が魔界ならそうする。枝道の一方はフェイク。かならず短い距離で行き止まりになってる。レニーの命を掛けていい」

 迷惑な話だ。


「よし、チョコの出番だ!」

「チョコが役に立つの? まかせて!」

 胸を張るチョコ。クロは頭をなでなでしてチョコのがんばりに答えた。

「今からお姉ちゃんが大声を出す。帰ってくる声が早いほうを教えてくれ」

「どうして?」

「山彦といっしょで、早く帰ってくるという事は、壁がすぐ近くにあるって事だ。そっちは行き止まりってことさ!」

「すごい! お姉ちゃんおりこうさん!」

「はっはっはっ! そう褒めるな。行くぞ!」

 クロは一方方向へ向かって立つ。息を吸って……

「死ねよアレッジ!」

 わんわんと声が奥へ消えていく。

 チョコの頭頂で大きな獣耳が焦点を合わせるように向きを変えた。

 一呼吸、二呼吸。

「あ、帰ってきた! お姉ちゃん、帰ってきたよ!」

「よしよし。じゃあ、念のため、もう一方へも!」

「チョコがやる! チョコにやらせて!」

 パタパタと尻尾を振りながら、クロの手を引っ張った。

「よしよし、コツは好きな言葉を大声で叫ぶんだ」

「えーっと、えーっと、お肉っ!」

 一呼吸、二呼吸、三呼吸――

「帰ってこないね?」

「こっちが本道だ。進むぞ、チョコ副隊長!」

「りょーかいです!」

 チョコ本人は陸上自衛隊式のつもりだけど潜水艦隊式の敬礼で答えた。



 そんなこんなで、幾つかの枝道をまったく迷うこと無く突き進むクロとチョコ。

 とうとう魔獣の襲撃を察知した。


「クロお姉ちゃん! 音がきここえるよ。石と石がぶつかる音」

「よし偉いぞチョコ! 四つ足だとしたら何匹だい?」

「うーんとうーんとね……4匹!」

 ずいぶんと自信ありげなチョコ。だんだんと自信が付いてきた。よい傾向だと、クロは考えた。

「さてさて、どんな魔獣かな? ワクワクするね。あ、チョコは下がって。盾を構えるの忘れずに」

「はーい!」

 タタタタと足音も軽く、チョコは後方へ下がった。壁を背にし、盾を構えるとチョコの小さな体はすっぽりと盾の中に入る。しまい忘れていた尻尾も、するりと中へ消えた。


「さてさて」

 もうすぐ、無機物の魔獣と会合する。どんな見た目なのだろう? クロは、ワクワクしながら斧を構える。

 四つ足なら4匹。2本足なら8匹。おそらく4本足だろう、とクロはヤマを張る。


 カシカシカシカシ!

 硬質の足音が聞こえた来たと思うや否や、石の魔獣が現れた。

 数はチョコの予言通り4本足で4匹! ドンピシャ!

「この子の価値を知らぬ者は憐れなり。獣人の村人共よ、宝はここぞ」


 魔獣の姿は、一言で言えば岩でできた足の長い亀。甲羅は各個、個性はあるが同じ大きさ。足に膝や肘の関節はなく棒状の石で出来ている。総合的な大きさは、中型の犬ほど。速さは犬に劣るが遅くはない。

 竹馬みたいな走法だ。

「硬そうだな」

 石亀魔獣は回避やフェイントを使わず一直線にクロへと向かってくる。

「砂岩っぽいね」

 戦斧の射程に届くな否や、4連続の振り下ろし。内、3匹が真っ二つになるも、残り1匹はヒビだけですんだ。

「予想以上に脆い?」


 斧を浅く横へスイング。残り1匹の足をすくう。岩亀魔獣の腰高さが災いし、足が4本とも胴体接合部より千切れ飛ぶ。

「戦闘終了!」


 第一撃を放ってから、わずか3秒で戦闘が終了した。


 

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