第49話 貴方の望む未来を(1)

 


「お迎えに上がりました『金色の聖女』シャルネ」


 エルフたちの舞が終わり、金色のペガサスとともに迎えに現れたのは、この世の者とは思えない美しいエルフの男性。エルフの皇子。

 その皇子がシャルネに手を伸ばし、シャルネの手をとった。


「わー―――!!!」と歓声があがり、あたりが熱狂に包まれる。

 あたりに鳴り響く祝いの鐘と祝砲に、シャルネは頬を染めた。


 そうよ、そうこの瞬間よ。


 美しい王子の手を取ると体がふわりと浮き、金色の光がシャルネの周りを舞光を演出する。その神々しい姿に、降臨式を見に来たものたちは固唾をのんだ。


 シャルネがちらりとセシリアを見ると、セシリアはマヒして動けないのか、微動だにしない。

 どうやら金色の聖女の力で麻痺させることに成功したらしい。


 祭壇に上がり、エルフたちが演舞を披露している間に、セシリアの金色の聖女の力を奪い、麻痺状態にしておいた。これでセシリアももう邪魔することはできないだろう。


 あとは、天上に皇子といくだけだ。


「ようこそ、わが妻よ。そなたを歓迎しよう」


 そう言って聖杯の酒を差し出す。


 うっとりするような美声で耳元でささやかれ、シャルネは頬を染めた。

 ああ、やはり高貴な身分の私には高貴な場所がよく似合う。

 エルフに迎え入れられた金色の聖女シャルネ。


 皆に慕われるシャルネ。


 美しいシャルネ。

 

 全ての名声は私のためにある。

 歓声をあげる観衆を前に、シャルネは勝利を確信する。

 恍惚な気分で、エルフの皇子に抱きかかえられながらシャルネは地上を見渡すのだった。


 ★★★


(……おかしい、皇子が来たその時に、金色の聖女の力を発動するといっていたはずなのに、なぜセシリアは動かない?)


 聖杯の神酒を飲みかわし、王子に抱きかかえられて天上の扉に向かい階段を二人で上る、シャルネと皇子の姿に歓声がわくなか、ディートヘルトはセシリアに視線を移した。


 聞いていた計画では、エルフの皇子が祭壇に降りてきた時点で、セシリアが金色の聖女の力を発動するはずだったのに、セシリアは祭壇に金色の聖杯を置いてから微動だにしない。ベールをしたまま立ったままだ。


(まさか、彼女の身になにかあったのか!?)


 ディートヘルトが席を立とうとしたとき、


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 歓声が悲鳴に代わり、慌てて視線をシャルネに戻した。


 そこにあったのは、エルフの皇子をはねのけて、メキメキと黒い異形の何かに変形しだしたシャルネの姿だった。



 ★★★


 なんで。なんでこんなことになっているの。


「悪魔だ!シャルネ様が怪物になったぞ!!」

「やっぱり悪女だったんじゃねーか!?」


 と逃げ惑う人々と、槍を向けてくるエルフ達。

 エルフの魔導士たちが魔法を唱え始め、神官達も印を組み聖なる力を発動しだす。


 そこには恐怖が広がっていた。

 そしてその恐怖の対象がシャルネなのだ。


 手を見ると真っ黒の鋭い爪の生えた異形の手で、エルフの衛兵たちが怒声をあげながら、シャルネに襲い掛かってくるが、シャルネに届く前に、シャルネの尾が全て簡単に薙ぎ払っていく。


 どうして?どうして?

 こんなの違う。

 わたしは金色の聖女。

 ステキな皇子様と結婚するはずだったのに。

 何がどうしてこうなったの?


 皇子と見えない階段を上っていたら、急に苦しくなって姿が変形をはじめた。


 そして気が付いたらエルフの皇子を薙ぎ払っていたのだ。


 迎えにきた皇子様だったエルフは地上に落とされ、恐怖の眼差しでシャルネを見て、騎士たちに何か指令を飛ばしている。


 地上の人々は逃げ惑い、「やっぱりあの女悪魔だったんだ!」「この偽聖女め!!」と怒号が聞こえている。


 違う、違う、私は金色の聖女様。

 高貴な血をひく金色の聖女。

 みんなに崇め祀られて褒めたたえられる存在。

 皇子様、私を天上に連れてって?

 みんなに尊敬される金色の聖女様はこの私なの。


 そう思ってエルフの皇子に近づこうとすると、目の前を魔法の球がかすめ、シャルネに向かって、エルフたちの槍が降りそそぐ。


 シャルネは尻尾でそれを薙ぎ払い、皇子の目の前に行った。

 そして、地上で腰をぬかしていた王子に手を伸ばす。


 すると皇子は恐怖に顔をひきつらせ、


「あ、悪魔めっ!!!!!」


 と、剣を引き抜いた。


 違う、私は貴方の花嫁よ?

 なんでそんなこというの?

 

 金色の聖女の私をみとめないなんてこの男何考えてるのっ!!!


 そう思ってシャルネが尻尾を王子に伸ばした瞬間。



 皇子とシャルネの間にセシリアが現れ、シャルネの尻尾を魔法で薙ぎ払った。


 とたん、視界がかすみ、意識が遠のく――


 そこでシャルネは悟った。

 なにがどうなったのかわからないけれど、きっと自分はセシリアの罠にはまったのだと。

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